第4話 オーガの街:マヤカオ
鬼人種の街へやってきた俺とアリス。キビに出会ってからアリスは一言も発さず俺の腕の中にいる。アリスちゃんは人見知りなタイプなのかな?
街へ入って少し歩いたところでキビが立ち止まった。前方に見える大きな城を見上げながらこちらに話しかけてくる。
「このままあの城へ……と言いたいところなのですが、あいにく王は街を離れていて今はいないのです。数日経てば戻ってくるので、しばらくこの街に滞在していただくことになります。もちろん宿はこちらで手配しますので」
「あぁ、構わないぜ。」
クールに対応したが、そこで一つの問題点に気づいた。
この世界でデュラハンってどう生きていくんだ? 怒涛の展開ですっかり忘れていたが、モンスターに転生するのは想定していなかった。デュラハンって何を食べるんだ、どういう原理で生きているんだこれ。
悩みが脳内にあふれ出し、ついキビに質問してしまった。
「デュラハンって怪しくないのか? 」
ストレートすぎたか……と少し後悔したが、キビの表情はむしろ明るいものになった。
「我々魔人は多種多様な姿をしていますからね。首が無いことに驚く人は居たとしても、容姿で怪しいなんて思われることはありませんよ」
"魔人"という新たな単語がキビの口から出た。鬼人種もデュラハンである俺も魔人という存在らしい。
「ただし、敵対する種族であれば警戒はされます。我々にとっての小鬼種、炎人種に対する氷人種のような関係ですね」
「なるほどな」
小鬼種に炎人種に氷人種、これはさっき言っていた十の種族ってやつか。異世界らしい種族名で分かりやすい。そうなると俺はアリスが言っていた屍兵族ってことになるのか。
「さて、では宿をご案内しますね。こちらについてきてください」
そう言うと城を横目に、通りの方へと歩き出した。
両脇に多くの店が並び、商人たちの客を呼び込む声がせわしなく響いている。
ふと、串にささった巨大な肉塊が炎で炙られているが目に留まった。きっとうまそうな匂いが漂っているんだろうな。悲しいことに魔力で嗅覚は補ってくれないらしい。
「あれは先ほど倒したブラッドボアの肉ですね。柔らかい肉質とあふれ出す濃厚な旨味が人気の一品です。あなたも食べてみ……」
言いかけたキビの口が固まった。そうだよな、俺どうやって食事するんだろうな。鎧の中に入れたら消化出来たりするのかな?
「屍兵種は食事をしないと聞きましたが、ヴァルさんはその首の炎で食べたりできるのですか?」
「首の炎?」
突拍子もないことを言われて思わず聞き返してしまった。
「首元に揺らいでいるその青い炎が顔の代わりをしているのではないのですか? 」
青い炎が……なんだって?
俺は自分の姿を見ようと近くの店の窓の前に走った。
窓に反射していたのは、全身を漆黒の鎧に身を包んだ人型――の首元から炎がゆらゆらと揺れている姿だった。ちょっとかっこいいなコレ、いやそんなことを考えている場合じゃない。
俺の視線に合わせて炎が揺れる。だが口を開いたり食事をするといった器用なことは出来そうになかった。
不思議そうにこちらを見ているキビのもとへと戻る。
「いや、食事はできない。これはまあ、飾りみたいなもんだ」
「そうでしたか。やはり屍兵族は……いえ、何でもありません。先に進みましょうか」
肉料理屋を後にし、俺たちは城から離れた街の端まで歩いてきた。
キビの視線の先に一軒の建物が現れた。
宿は三階建ての岩造りで、黒鉄の補強が施されている。
外壁には戦の痕跡のような傷が残り、扉には赤い布が垂れ下がっていた。
「こちらがヴァルさんに過ごしていただく宿です。見た目は少しアレですが、快適に過ごしていただけますよ」
「――見た目がなんだって? 」
その瞬間、扉が勢いよく開き、いかにも女将のような恰好をした女性が現れた。
「バーバさん、お久しぶりです。」
「久しぶりに顔を出したと思ったら変なのまで連れてきて、あんたは昔から変わってないね」
「バーバさんもお元気そうで何よりです。早速ですが一つ頼みを聞いてほしくて」
「また預かればいいんだろう? 昔は小さな小鬼種だったのに、次は屍兵種かい」
「話が早くて助かります。私はこの後用事がありますので、よろしくお願いしますね」
そう言ってキビはどこかへ行ってしまった。
優しいのかさっぱりしているのかよくわからない人だな。
振り返ると女将のバーバさんがこちらをじっと見ていた。
「あんた、名前は? 」
「ヴァルです。よろしくお願いします」
「いい名前じゃないか、死ぬ前の名前かい? 」
「いえ、実は記憶がなくって……」
「それは悪いことを聞いたね、キビとはどこで出会ったんだい」
俺はバーバさんに森の中であったこと、これから王に会いに行く話をした。驚くわけでもなく、バーバさんは静かに話を聞いてくれた。転生してから数時間、我ながらすごい経験をしているな。
少しの沈黙の後、彼女は俺を宿の中へ案内してくれた。
入ってすぐは食堂になっていて、いくつかのテーブルが並べられていた。
俺も食事が出来たら異世界のグルメを堪能できたのに。
「部屋は食堂の奥から二階に上がって好きな部屋を使いな。あんた以外の客はいないからね」
言われるがまま二階に上がると、狭い廊下に四つのドアが現れた。とくにこだわりは無いので一番近い手前側のドアを開ける。部屋には簡単な家具とベッド。どれも手入れが行き届いていて気持ちがいい。
アリスを机に置き、ベッドに座り込むと、丸くなっていたアリスが久しぶりに声を出した。
「あの鬼人種はもういなくなった……? 」
「キビのことか? あいつなら用事があるとかでどっか行ったぞ」
「そう……あんたはアレが隣にいてよくまともでいられるわね」
酷い言われようだな。確かに怖い一面もあるだろうけど、そこまで言う必要はないんじゃないか?
いや、スライムにとっては凶悪な鬼に見えているかもしれない。
アリスちゃんは怖がりだなぁ。
再びアリスが静かになってしまった。
さてこれからどうしようか……
あたりはすっかり暗くなってしまった、今日はもうここで休もう。
俺はふかふかのベッドに横になり、目を閉じる。閉じる目はな――
――屍兵種って眠るのか?
この体は分からないことが多すぎる。
そもそも魔人って、魔物ってなんだ?
明日はこのあたりを誰かに聞いてみるとしよう。
こうして異世界最初の夜を迎えた。
あと爆速で眠りに落ちた。快眠。
名づけが安直すぎたかもしれない




