第3話 鬼のお兄さん
鬼さんに助けられた俺たちは、近くにあるという街に案内してもらうことになった。
道中で俺たち、というより俺が経緯を説明したのだが、鬼さんは終始困った表情で聞いていた。
どうやらアリスの声は俺以外には聞こえないらしい。
そういえば精霊がどうとか言ってたな……
先を進む鬼さんが振り返って話しかけてきた。
「あの魔物は基本的には大人しいのですが、最近なぜか狂暴化していて、その調査をしているのです」
魔物! やっぱり異世界にきたらそういうのもいるよな。
そうなると尚更戦うためのスキルが欲しくなる。
女神様、頭をつけて土下座するので俺に戦闘スキルをください、頭ないんですけどね。
「それにしても驚きましたよ、まさか襲われているのが屍兵種とスライムだなんて。お二人とも初めて見る種族ですよ」
「そうなのか、あんたは何て種族なんだ?」
「そういえば名乗りがまだでしたね。私は鬼人種のキビと申します。この先にある街、マヤカオで兵士をやっています」
「俺はヴァル、こっちのスライムはアリスだ。よろしくな」
その後も歩きながらキビの説明は続いた。
どうやらこの先にあるのは鬼人種が暮らす街で、俺たちは鬼人種の王様に会いに行くそうだ。
王様っていうのは文字通り全ての鬼人種の頂点に立つ存在で、こんな珍妙な恰好で会ってもいいのか不安になるが、キビは笑って肯定してくれた。
その後も色々な話をしてくれたのだが、全てが未知の情報で話についていけない。
怪しまれないように俺は記憶が無い、という設定で行くことにした。
意外にも屍兵種だからか、それはすぐに受け入れられた。
名前的に一度死んでいるものだし辻褄は合うのか、転生前も含めるかは別として。
その後もイノシシに襲われながら歩いていると、前方に大きな街が見えてきた。
その姿を目にした俺は思わず声が漏れそうになった。
眼前にそびえ立つのは、黒鉄と岩で築かれた巨大な城壁。
高さは三十メートルを超え、表面には戦斧や角を象った彫刻が刻まれている。
壁の上には鋼の槍を構えた衛兵が並び、その背後には赤い旗が風に翻っていた。
旗には、二本の角を象徴する紋章が描かれている。
「ようこそマヤカオへ、鬼人種が誇る無敵の城塞です」
にっこり笑ったキビが、穏やかな口調で怖いことを言っている。
街ってこのレベルかよ、もっとこう……木で出来た村とかそういうのに住んでいるんじゃないのか。
驚いた表情もそのまま、キビの後ろに続いて城門へと歩く。
「でかい城壁だな……」
「それは大昔の名残ですね、この街は、かつて十の種族が領土を争っていた頃に作られたのです」
「十の種族? 」
キビに話の続きを聞こうとしたその時、門の前に立っていた二人の鬼人種に行く手を阻まれた。長身のキビよりもさらに背丈が高い、どうりで街がでかいわけだ。
「止まれ。おいキビ、こいつは一体何者だ」
強面の巨人がこちらをにらみつけている。
悪いスライムとデュラハンじゃないよ、そんなに怖い顔しないで鬼さん。
「森の中で魔物に襲われているところを助けました。鬼人王さまに報告しようと思い連れてきたのです」
「例の魔物絡みか? まさかそいつが犯人というわけじゃないだろうな」
「その可能性はありますが……その時は私が責任をもって処理しますので」
こ、怖い。言い方が人に対するものじゃないでしょ。
キビって優しそうに見えて怒るとやばいタイプなのか?
「ふん、ならいい。王に失礼のないようにな」
そう言うと立ちふさがっていた鬼人種達は道を開けてくれた。
先を歩きだしたキビを追いかけて城門をくぐる。
そこに広がっていたのは、先ほどまでの大自然とは別世界だった。
石畳の大通りがまっすぐ城塞の中心へと伸び、その両脇には巨大な建築物が並んでいる。
鍛冶場からは赤々とした炎が立ち上り、鉄を打つ音が街全体に響いていた。
市場では、角の生えた商人たちが武器や防具、獣の肉を並べ、力強い声で客を呼び込んでいる。
「では改めて。ようこそ、鬼人種の街へ」
俺は目の前の光景に圧倒されながら、街への一歩を踏み出した。
処理されないように頑張るぞ。
団子が食べたくなってきました。




