第2話 転生したら
転生したらスライムに怒られた。
あと首から上もなかった。
ここまで酷い転生者は日本にもいないんじゃないか?
そもそも転生者は日本にはいませんよ。
それはそう。
「ほんっとうにうるさい! いつになったら静かな鎧に戻るの! 」
ごめんなソーリー、許してくれよベイベー。
……今鎧って言ったか?
そういえば転生してから一度も自分の姿を確認していなかった。
両手は黒い手袋のようなものに包まれ、全身を漆黒の鎧が包んでいる。
鎧……首無し……そこで俺は一つのキャラクターにたどり着いた。
転生したらデュラハンだったけ――
言い終わる前にスライムが渾身の体当たりをぶちかましてきた。
全く威力はないが、意識をそらすには十分だった。
「ただでさえわからない場所に連れてこられたのに、意思疎通ができない屍兵種と一緒なんて最悪だわ……」
「この近くに住んでいるスライムじゃなかったのか? 」
「あなた、普通に話せたのね。最初っからそうしなさいよ」
そろそろ真面目モードに戻らないとね、俺だってずっとふざけているわけじゃない。
ここからは独り言が溢れないようにダムを作っておくよ。
ビーバーさん、よろしくね。
ビバ!!これはビーバーの返事です。
「あなたは……私の声が聞こえているのよね? 精霊と似たような原理なのかしら」
「精霊が何だか分からないけど、"魔力操作"って恩恵で声は聞こえているぞ」
「恩恵……?」
おっと、転生者だってことは隠しておいた方が良さそうか、転生デュラハンなんだけど。
「よくわからないけれど、聞こえているのならいいわ。私はアリス、あなたの名前は?」
名前か、せっかく異世界に来たんだし、かっこいい名前を名乗るのも悪くないよな。
色んな名前を持っていて、別の呼び方をされるのも俺は好きなんだ。
ヴァルキリー……マサムネ……よし、決めた。
「俺の名前は、ヴァル・ルナティック・クロノス・ステラ・ライノス――」
「ヴァルね、わかったわ」
俺はヴァルです、よろしくお願いします。
よく考えたら長い名前なんて覚えられないしな、シンプルが一番だ。
「ねぇヴァル、ここがどこだか……分からないわよね」
「もちろんもちろん、そもそも俺たちは何故ここにいるんだ? 」
「……逃げてきたのよ、あなたはともかく私はね。あの薄暗い魔王の――」
「危ない!!」
木の裏から突如現れたイノシシらしき獣がアリスに襲い掛かろうとしていた。
俺はとっさにアリスを抱え、大きく横に飛んだ。この体、運動神経はいいらしい。
距離を取った俺は獣の全身を観察する。
見た目は普通のイノシシだ、普通のイノシシの目が紅く光っているかは別として。
熊のような巨体に、二本の鋭い牙を持っている。あれに刺されたらひとたまりもないだろう。
「あなた、武器とか持っていないの? このままじゃやられてしまうわ」
そう言われ、俺は腰の辺りや背中を探る。しかし何も身に着けていなかった。
「すまん、何もない」
「えぇ!? じゃあアレをどう倒すのよ! また向かってくるわよ! 」
イノシシが俺たちに狙いを定め、再び飛び掛かってくる。
突進してくるイノシシの攻撃をかわしながら、対策を考えるが、俺には何も……
魔力操作で剣とか作れないか? 『魔力剣』! はやく出してくれ!!
《……》
怒ってる場合じゃないって女神様! 今はとにかく武器を――
今は生き残るのが最優先だ、俺はアリスを抱えながら走り出した。
目の前には平原と森がある、デュラハンを隠すなら森の中だ!
鬱蒼とした森に入り、木々の隙間を縫うように走る。
幸いにもイノシシは直進しか出来ないらしく、次第に距離が離れていった。
そろそろ撒いたかな? と振り返ると、イノシシがすぐ後ろまで迫っていた。
後ろにはなぎ倒された木々が見える、これが本当の猪突猛進かぁ。
絶体絶命かと思われたその時、なにも起こらずそのまま獣が突進してくる。
短い異世界生活だったな。つぎはもっといい世界に行けるよね、アリ太郎。
静かに人生を終えようとしていたその時だった。
「『疾風剣』!! 」
声が聞こえた次の瞬間、緑色の刃が目の前を横切り、イノシシの首が宙を舞っていた。
わーい、俺とおそろいだね! なんて思っていたら茂みから人影が現れた。
筋肉質な赤い肌に、目の上には短髪をかき分けて覗く、特徴的な二本の角。いわゆる鬼と呼ばれる存在によく似た姿をしている。狩人のような衣服を身にまとった長身の男はそのままこちらに近づいてくる。
「危ないところでしたね、お怪我は……」
目の前で姿を寄せ合う一人と一匹の姿を見て言葉が止まる。
「……あなた方は何者ですか?」
鬼さんが明らかに困った表情で問いかけてきた。
スライムと――陽気なデュラハンですっ☆
筆者も真面目になろうと思います。




