第1話 長い暗闇を抜けると
何も見えない。何も聞こえない。
手足の感覚はあるけど、首から上が何もないみたいに静かだ。
神様をからかいすぎたら、チート能力に加えて無を取得しちゃいました!
これで異世界RTAも楽勝だぜ!!
「……」
慌てない、慌てない。
俺はクールな転生者、どんな状況だって冷静に対応して見せるさ。
一定のリズムで足元に何かがぶつかってきてるけどそれは後回し。
まずは真っ暗なままの目の前だが……
わっかんねぇ~~。
全身の感覚がしっかりとしたのに、一向に何も見える気がしない。
というか頭がない、五感のうち四感が機能してないもん。
まさか、と思って手を顔のあたりに動かしてみる。
本当に何もなかった。首から上が。
万事どころか億事くらい休している。
こんなんじゃ夢の転生ライフが終わってしまうよ。
いや望んじゃいないんだが、ラーメン食わせてくれ。
転生特典でラーメンを希望します。やわめ濃いめ多めで。
チャーマヨ丼のセットでお願いします。
あの店のチャーマヨ丼めちゃくちゃ美味いんだよな。
最後に食べれなかったのが心残りだ。
この世界で生み出してやるか。
ラーメントークは尽きないのでほどほどに、改めて現状を整理する。
そういやまだチート能力、いや恩恵を使ってなかった。
"魔力"だっけ、なんだよ魔力操作って。
《スキル開放、『魔力視認』を発動しますか? 》
うわ、びっくりした。暗闇で話しかけられるのが一番怖いんだから。
嘘です、鉄板が頭に飛んでくる方がもっと怖いです。
……鉄板? なんだそれ。
どうでもいい話は置いといて、もちろん発動する。
藁にも縋りたい気分だからね。
でもどうすれば発動するんだ、声に出すのか? 多分俺口もないよ。
そう考えていたら再び声が響き、目の前が輝きだした。
目の前に、光が壁のように集まっている。地面にもびっしりと光が広がっていて、大きなかたまりもいくつか見える。
スキルの名前からして今見えているのが魔力なのだろう。
なるほど、魔力がどんなものかはわからないけど、物体を認識できるような能力か。
どうやら俺は狭い空間にいるらしい。
ただ、これだけじゃ情報が少なすぎるな……
《魔力視認の熟練度が上がりました。『魔力視覚』、『魔力聴覚』、『魔力音響』のスキルを習得しました》
《常時発動型スキルです、発動しますか? 》
もちろんイエスだ、サクサク進むのはいいことだね。
最近のゲームは優しすぎるってよく言われるけど、俺は賛成派だ。
つまりこの世界も好きになれそうってわけ。
《スキルを発動します》
ついに異世界の景色とご対面だ、輝く世界へいってらっしゃい!
はやる気持ちを抑え、俺は目を開く、ような気持ちでいるけど目もないんだ、悲しいことに。
魔力の光が薄くなっていく、ついにその時がきた。
異世界への長い暗闇を抜けると――
――暗闇であった。
そんな気はしてたさ。明らかに狭い空間にいるもの。
まだ魔力視認の方が情報量は多かったよ。
ただ、暗いだけで見えてはいるらしい。音もちゃんと聞こえる。
足元にぶつかっていた物体からはなにやらファンシーな音が響いている。
ぷに……ぷに……
スライムだろこれ。
俺はスライム(らしき物体)を持ち上げ、ぷにぷにと感触を楽しむ。
大きめのクッションくらいのサイズ感で、焦る気持ちが和らいでいく。
いや、クールな冒険者は焦らないけどね?
ぶににとしばらくこねくり回していると、突然クッションが輝きを放ちだした。
光に照らされ、周囲の様子が明らかになる。
持っていたのは薄黄色の透き通る体を持つスライムでした、こいつ……光るぞ!
視線を前に向けると、想像していた通り洞窟の中にいた。
それ以外の情報がない、となるとやるべきことは決まった。
まずは外に出よう。あえて地下に潜る選択肢もあるが、地上の方が人に出会う確率は高いだろう。
最初にいた小さな空間を出ると、道が二つに分かれていた。
せっかくだから、と道を選びたくなる気持ちを抑えて、俺はテレビで見たサバイバルの知識を発揮する。
こういう時は指先をなめて風を感じるんだ、そうすると出口が分かるんだよ。
口がありませんでした。
『魔力指先を湿らす』発動! なんつって。
《該当するスキルが存在しません》
わざわざありがとね。
脳内で響く声にお礼をしながら歩きだす。まあ俺には脳もな――
――この声は一体なんだ?
当然のように聞こえていたが、これももしかして転生特典か?
なんだ、あの女神やたてぃーじゃん、うぃー。
なあ女神様、どっちに進めば外に出られるんだ?
おーい、女神様。なんだかんだ結局優しいんでしょ。
《……》
業務連絡の時にしか話してくれないタイプの女性でした。
でもいてくれるだけありがたいよ。あなたしか知り合いがいないもの。
いや、このスライムがいた。
俺は抱えていたスライムを床に放し、しばらく様子を見る。
生き物の本能とかでなんとかならんか。
祈るように眺めていると、スライムがぽよぽよと動き出した。
光を放ちながら細狭い洞窟の中を進んでいく。
行く当てもない俺はそのあとをついていくことにした。
ようやく異世界ライフが始まるんだ、と息巻いたのもつかの間、道の先に光が見えてきた。
スライムが出口で跳ねている。
本当に道案内をしてくれたのか、お前良いやつだな。
俺は小走りで出口に向かい、そのまま外に出た。
ついに新たな世界とご対面だ!!
「綺麗だ……」
思わず口に出してしまうくらい、異世界の景色は美しかった。
口がないとか小ボケを挟む気にもならないくらい、空が晴れ渡っている。
遠くには湖が見え、その手前には若緑の草原が広がっていた。
こんな景色を見るのは何年ぶりだろうか。
いや、生まれて十数年、ここまでの大自然には出会ったことがない。
素敵な世界をありがとう、女神様。
出来るものなら直接感謝を伝えたい。
でもさっきからずっと静かだしな……
《魔力聴覚の熟練度が上がりました。『魔力翻訳』のスキルを習得しました》
いたなら返事してくれよハニー、寂しいじゃないか。
久方ぶりの声に気分が高揚するが、話はちゃんと聞いている。
翻訳ってことは異世界の人の言葉が分かるのかな? 異世界転移ならよくあるスキルだけど転生者には珍しいな。
とりあえず発動っと。
《『魔力翻訳』を発動します》
こういう常時発動系はどんどん使っていかないとな。
おや、足元から何か聞こえてくる。
もしかしてスライムの言葉も翻訳できるのか?
そもそもスライムが喋るのかわからないけど。
何を言ってるんだい、聞かせてごらん。
「いつになったら黙るのかしら、この無礼者は」
ひぃん。
悲しいことにこの主人公はずっと独り言を話しています。
11/21 スキル名を変更しました




