第0話 お先真っ暗
「ごめんなさい!手違いであなたを死なせてしまいました……」
目の前の美人にいきなり突拍子もないことを告げられた。
信じられない。俺はさっきまで昼飯のために店に並んでいたはずだ。
何の変哲もないラーメン屋で死ぬことあるか?
「俺、死んだ記憶ないんだけど、本当に死んだの?」
女神はバツが悪そうな顔でぼそぼそと何か喋っている。
「だって、あんな惨い死に方の記憶残ってたら絶対しんどいし……記憶を消したのは間違ってないはず……」
なんだなんだ、俺ってばいったいどんな辛い最期を迎えちゃったの。
そこまで言われたら気になっちゃうじゃないあなた、教えなさいよ。
「現代であんな死に方…うぅ」
なんだかイライラしてきたな、こういう時はアンガーマネジメントが大事なんだ。
1……2……それにしてもこいつ可愛いな……
3……俺死んじゃったのかぁ。
3秒で怒りが消えた、アンガーマネジメントのプロかもしれない。
「それでですね、こちらのミスで死なせてしまった方は、異世界に転生させるという決まりになっていまして」
さっきまでとは違い、はきはきとした説明が始まる。切り替えができる人間で助かるな。いや、こいつは人間じゃないだろ。
てかルールが出来るくらいミスってんのかよ。
「ミスはたまにです! そうじゃない人もちゃんといます!! 」
口をとがらせて反論してきた。プンプンという文字が頭の上に見えるくらいわかりやすい。
なんだこいつ可愛いな……もっと怒ってほしい。
だがそれでは話が進まないので、聞きたいことを聞いていこう。
「それで、転生ってもう一度日本で生まれ変われるのか? 」
「いえ、別の世界に転生することになります。俗に言う異世界転生ですね」
神様が俗に言うなよ。
「いいじゃないですか! 日本の人はこう説明したらすぐに理解してくれるんですよ」
それはそう。異世界送りマシーンのトラックが毎日大活躍。
「あなたの場合は違いましたが……とにかく! さっさと説明して行ってもらいますからね。次の方も待っているので」
次がいるのかよ、どうりで転生ものが増えてるわけだ。
「さっきからうるさいですよ?! あなた心の中で思ったこと全部口に出てますからね! 」
おっと、俺の数少ない短所No.50が出てしまった。50もあるんかーい。
「もう……転生させるのやめようかな……」
「それはミスをなかったことにするということですか? 」
「いきなり真面目になるのやめてください……あなたが向かうのは、人と魔族が争う、剣と魔法の世界です。異世界モノのテンプレートみたいなとこです。行けば分かりますです」
説明が雑さを極めている、さすがにふざけすぎたな。すまンゴ。
「そしてあなたに与える恩恵は『魔力』です。これはまぁ……説明するつもりでしたが、誰かさんのせいでそんな元気もなくなったので割愛します」
魔力操作か……っておい、名前だけ言われても困るぞ。
もっとこう詳細とかスキルとかって、あれ、俺の体なんだか消えてないか?
ちょ待てよ。俺が悪かったからもう少し説明を――
目の前の女が冷たい目でこちらを見ている。
いやその、なんか……ごめんなさい。
薄れていく意識の中で静かに謝罪する。
次の人生では人を怒らせないように生きます。頑張るぞい。
目の前が真っ暗になる。
転生って不思議な感覚だな、これは話のネタになるぞ。最初に消えるのはどこでしょうってね。
まぁ、話す相手ももう会えないんだけどね。それはちょっと寂しいな。
視界の次は手足の感覚が無くなった。そのまま全身の感覚が消えていき、意識が薄れていく。
あとどれくらいで転生できるのだろうか。
暗闇の中で静かに時が流れる。
どれくらい時間がたっただろうか。
自分以外の何かを感じるようになった。
自分の体が新しいものになっていくのを感じる。
徐々に手足の存在がはっきりとし、体が重く、質量を得ていく。
体の変化が止まったみたいだ。手を握り、自分の存在を確かめる。
やっぱり体があるというのは落ち着くな。
それで、いつになったらこの暗闇が終わるんだ?
もう転生は終わったみたいだけど、はやく見せてくんないかな。
俺はその場に座り込んだ、動くの怖いし。
異世界転生はロード時間が長い……っと、心のノートにメモしておこう。
……もう30分は待ったぞ。
待てど暮らせど、ただ時間だけが過ぎていく。
一つだけ変化があったんだ。足に何かがぶつかってきている、異世界の生き物かな?
痛くはないから危害はなさそうだ。
この感触でうちに残してきた自動掃除機を思い出す、元気にしてるかなぁ。
「……」
どうやら見えないままらしいです。
これが本当のお先真っ暗ってね。
あーあ。
勢いで書いています、途中で止まったらごめんなさい。




