2人目 ????
「あ、あの、どこに行くんですか……?」
金重が震えた声で言う。
「黙れ」
兄が怒った口調で言った。
「は、はい……」
ガラガラガラと古い引き戸の音がする。
「あ……」
金重は言葉が出ない状態だった。
扉を開いた瞬間、暖かい空気と共に中華の油っこい匂いが漂ったのだ。
それと同時に、金重の腹が「ぐぅー」っと大きな音で鳴った。
「あっ」
金重は顔を赤くしてどうにか隠そうとしたが、兄にはバレバレだ。
「いつもの二つ」兄が大きな声で言う。
「あいよ」
店主の威勢のいい声がする。
常連さんなのだろうか。
「あい、お待ち」
テーブルに出されたのは出来立てのラーメンだった。
一口食べる。
「うま……!」
それは声が漏れるほどのおいしさで、今まで食べてきたラーメンで一番美味しかった。
「だろ?」
この人、意外と優しいな、と金重は思った。
俺のために菜奈恵さんを残してラーメン屋に……
そう思った時、急に眠くなった。
バタンッ。
金重は眠ってしまった。
「効いた」
「じゃあ下に連れていくぞ」
そう、店主も協力していたのだ。
「ん……」
目を覚ますと金重は椅子に座っていて、体を丈夫な紐で縛られていた。
「ん……!」
ガムテープが口に貼られ、喋れない状態だった。
「黙れ」
お前の仕業か? という目で金重は兄を見た。
「お前、亜悠をいじめただろ」
「ん! ん!」
していませんと答えようとしたが、 ガムテープを口に貼られているので喋れなかった。
「はぁ。」
兄がため息を吐く。そして、ガムテープをべりっと勢いよく剥がす。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
金重は聞いた事のない声を出していた。
「黙れ。上には客がいるんだぞ」
店主は少し声を抑えて言った。
「上手くいってるようだね」
「さあ! 次は……じゃんけんだ!」
「まず、二人組を作り、じゃんけんをする。負けた人と勝った人とじゃんけんをする。最後に負けた人と勝った人でじゃんけんをする。ただそれだけ」
「それじゃあいくよ」
「よーい、すたーぁと!」
「うわ」「やべぇ」「どうしよう」そんな声が聞こえてくる。
「待って、私、勝った」
そう言ったのは五番、小曽根亜由加だった。
「さすが亜由加!」
「すっごー!」
そう皆は祝福しているが、どうかな……?
「ビリは?」
「お、俺」
六番、柿谷泰晴は静かに答えた。
きっと、怖いのだろう。
だけど、周りの男子は「いけー!」「お前ならいけるー!」と騒いでいる。
「じゃあ、勝った人がご褒美ね!」
「最初はグー……」
ぽいっ!
柿谷はグー、小曽根はパーだった。
「おめでとうございまーす!」
「ご、ご褒美っていうのは?」
「あーまだ!あと一人いないとダメ。」
「じゃあ、また同じルールでじゃんけんね!」
「最初はグー……」
ぽいっ!
「あ……か、負けちゃった……ど、どうしよう……」
そう怯えるのは、私の現・親友である、出席番号十六番、高藤歌だ。
私がいじめられている時も、陰で支えてくれた。
「あ、大丈夫! ヤバいことはしないから」
「か、勝った……」
少し嬉しそうにして言ったのは出席番号十八番、丹羽宗祐だ。
「じゃあ二人でじゃんけんして!」
そう元気な声で私は言ったが、全然元気ではなかった。
もし、歌が勝てしまえば、私が考えたご褒美が当たってしまう……私は不安に思った。