第2話「選抜会議#光 2」
光はドイツ人の父親と日本人の母親の間に産まれ、幼少期をドイツの父親の生家で過ごした。
父親の生家は古くからある名門貴族の正当継承者の血筋だった。その事があってか、光の父親が日本人女性と結ばれることに当主だった祖父は猛反対した。既に身籠っている光の母親を連れ、父親は二人の婚姻を認めてくれるよう懇願したが祖父は認めなかった。幼い頃から可愛がってくれた祖父の気持ちを慮った父親は、光が産まれるとすぐに生家を出て、妻の生まれた日本に身を寄せた。
しかし当時まだ、黒髪に黒い瞳という単一民族が一般的とされた日本での生活は思うように軌道には乗らなかった。光が日本のロー・スクールに馴染めなかった事もあり、数年を日本で過ごした後アメリカに移住した。
アメリカでの生活はそれまでの心配が嘘のように順調だった。西海岸のオープンな青空は光の元来の気質に合っていた。彼女は学問とスポーツともに才能を伸ばし、飛び級でハーバードで博士号を取得。コンサル分野の世界的企業でアナリストのキャリアを積んだ。
そして世界を飛び回っていたある日、彼女は突然、会社を辞め日本へ移住を決めた。
三年前、このABCコンサルタント㈱に入社し、千賀主任の下に配属されていた。
彼女にとって幼少期の日本での記憶は必ずしも良いものではなかった。言葉も判らず生活習慣や文化も違うこの国で、見た目から周りと違った彼女はなぜ自分が浮いているかもわからず、ただ戸惑った。
「毛色」という言葉でマイノリティを無意識に差別している事に罪の意識のさえない時代背景もあったが、「右へ倣え」を良しとする多様を受け容れない大人たちの文化を映し出す子供たちの差別はことさら残酷だった。
そんなトラウマに近い記憶の中で、日本に移住し、戦場のように忙しいこの業界の中で、千賀主任の優しさは彼女の中に尊敬以上の感情を育んだ。
そしてこの日、全ての予定をキャンセルして集まった幹部たちは、千賀主任をリーダーとして編成されたプロジェクトチームを救済する「火消し部隊」を選抜した。