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閑話休題「ナツの夏」
新しい白いシャツ。
髪を揺らす海からの風。
夏はナツミにとって一番好きな季節だった。
あの事件からひと月が過ぎようとしていた。
ここは初夏の陽気から、本格的な夏を迎えようとするカリユシビーチ。
遠恋の彼氏と別れ、涼介の「ナツ」センサーもここまでは届かない。
すべて放りだして自分を取り戻す旅だった。
唯一の気がかりは、自分のために事件を解決してくれた職場の先輩だ。お礼もする余裕もなく、自分のことばかり考えていたこのひと月。ひどい職場の経験だったが、それ以上に全力で助けてくれた先輩社員への感謝の気持ちに気づかなかった恥ずかしさが今頃になって込み上げてきた。
「帰ったら、お礼しなくちゃ。
まずはお土産だなぁ、
しのぶ先輩ハードル高いからなあ」
こうして彼女はホテルのお土産コーナーで沖縄特産ジーマミ豆腐セットを買った。
「ナツのナッツ⋯⋯⋯。なんて、
しのぶ先輩、わかるかしら? ふふふ」
彼女は意外と山田の事がわかっていたが、
これが山田の好物である事はまだ知らない。