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その職場問題はリテラシー向上委員会にませてください?  作者: そぼろはるまき
第一章「向日葵の涙」
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第22話「ドラマチックなリアル」

女性「今度こそ脱出しよう?

   戦っちゃだめ。敵わないから。

   すり抜けて!いい?!」

俺「ああ、わかってる。もう時間もない。」

 古い洋館の暗い廊下を駆け抜ける。

 ここまで何度も繰り返した経験値が極限までスムーズな体捌きになって現れる。

 よし、この扉を抜ければ今度こそ行ける。

 (ガチャッ⋯⋯。ギィー。。。)

俺「うわああ、いた!ヤバい、捕まった!!

  死ぬ。死ぬ!!」

女性「早く!早く倉庫に逃げて!」

俺「わかってる!でもどっち?

  右?左?ああ、嗚呼ー!!あああぁー」

 (ぁ゙あぁ〜、ザクザク、ぁぁ゙〜、ザク。。

  リスタートのタイトルコール)

「バイ〇ハザーード!!」


奥さん「あーあ。。。」

子ども達「あーあぁ」

俺「あ―――。ごめん」


 劇的に幕を閉じた金曜日。

 クタクタで帰宅した俺は久しぶりにグッスリと眠り、翌日の土曜にはすっかり元気を取り戻していた。

 このところずっと感じていた、追い詰められるような重圧から開放されて気分が軽かった。

 まだ小さな子供たちが恐る恐る見守る中、やりかけになっていたアクションホラーゲームを楽しんだ。


 明けた月曜の朝、ゲームもクリアして晴れ晴れとした気分で出社した俺は、始業のチャイムを聞く前に課長に促されて会議室に向かった。

 設計事務所の中央、狭い廊下の奥にある小さな会議室のドアを開けると、向かいの椅子に課長が二人座っていた。

 中央に置かれた会議テーブルを見渡すと課長たちの横には正雄と涼介が座っていた。

「なにごと?」

 小声で二人に問いかけても答えはない。

 (そうか、事件を知った会社が賛辞の言葉をくれるのか?

  いや、その前に事件の事情聴取か?)

 

 いずれにしても俺たちは、女子社員を救った英雄だからな。いったいどんな称賛の言葉がもらえるのか、俺はワクワクしながら課長たちの話が始まるのを待った。

 しかし、期待は大きく外れた。

 始業のチャイムが鳴ると、俺たちは課長たちに絞られた。

 

 事件の事は一切聞かれなかった。

「お前たち、大変なことをしてくれたな。

 まず秋山さん(リサ)に謝れ。」

 キョトンとする俺たちがようやく「称賛」されていないことに気づき、誤解を解くべく弁明をしようとすると、その一切の言葉を遮ってただひたすらリサに謝罪しろと繰り返す課長たちがいた。

 俺たちが、なっちゃんが受けたハラスメントのこと。犯人がゴンさんだったこと。証拠もあること。共犯の可能性としてリサを呼び出すに至った経緯を説明しても、

「そんな事はどうでもいいんだ。

 お前らはただ謝ればいい。いいから謝れ!」と、課長たちはただひたすらリサへの謝罪を強要してきた。

 

 最後はグダグダになりながらもなんとか犯人を見つけて、事件解決の達成感と仲間の絆、家族の温かさに充たされた週末からはまったく想像できない、ビックリするくらいドラマチックな展開だった。

 あまりの理不尽さに俺はテレビドラマでも見ている錯覚に陥った。学園ドラマに出てくる金持ちのいじめっ子と、議員の親にゴマをすってイジメを隠す小悪党の教頭とその取り巻き教師たちが織りなす三文芝居。

「カッコ悪い大人」の芝居を観ているような非現実感だった。


 涼介も正雄も同じ感覚だったのか、最初は反論していたが、何を言ってもこちらの話をまったく聞こうとしない課長たちに愛想を尽かしたのか、小一時間のこのやり取りの途中から、

「いいから、な?

 お前らは謝っとけば良いんだ。

 謝るな? な? な? いいな?」

 と、課長たちが話を締めくくるまで、無言を決め込んだ。


「表彰」一転、「取調」から開放された俺たちは顔を見合わせ、

 「どうしてこうなった?」と眉を潜めた。

 涼介の出番なのは一目瞭然、もう俺たちチームの中でそのことを言葉にする必要はなかった。

 すぐに涼介が情報収集に動いた。

 昼休み開けには招集がかかり、涼介は今この部署で起きていることの説明を始めた。

 

 どうやら日曜日の夜、リサから会社に宛てて、俺たちを処分するよう訴状が出ているようだった。

 事件すら知らない設計部の課長たちは、日曜日の夜、部長に緊急招集されて大騒ぎになったわけだ。

 若手の女子社員から同僚の社員から恫喝されたという訴状が出るという不祥事が、部署の責任者を通り越して本社の役員に届いていた。

 設計部としては穏便に事を済ませたかったが、どうやらリサが役員秘書室のお局様に泣きついて、この問題が役員会で取り上げられたのだ。

 設計部の責任者たちにとって青天の霹靂だった。この部署でそんな事件と不祥事が起きていたことなど全く気づきもせず、日曜日の夜まで安穏と過ごしていた最中、突然の落雷火災を被ったようなものだ。

 

 状況を把握した俺たちは、操り人形のように同じ言葉を繰り返す課長たちと話しても埒が明かないと見切りをつけ、唯一話になる可能性のある責任者の元へ乗り込むことを決断した。

 三人を代表して俺が大山田部長のいる部長室に直談判に向かった。


 大山田部長は好きな責任者だった。べらんめえ口調、いつも小気味良い決断をする江戸っ子気質のナイスガイだ。しかし、このときばかりは歯切れが悪かった。

 俺たち(涼介は除く)は誓って悪くない事となっちゃんに起きたことを話すと、一言も発することなく俺をじっと見据えて話を聞いた。

 すべてを話し終えて、俺が大山田部長に見返すと、

「そうか。大変だったな。

 ありがとう。本当にありがとう」と、静かに、そして熱を帯びた声で応えた。

「山田、おまえの話はわかった。そしてそれを疑ってなどいない。

 ただ、俺は双方の話を聞くべきだと思うのだ。

 いま課長たちがそれができていないこともわかった。それは俺がなんとかする。

 ただ、こちらにも色々事情があって、それを片付けなければならんのだ。

 本当にすまないが、もう少し待ってくれ」

 そう話すと、深々と頭を下げた。

 俺は大山田部長から感じた熱意を信じ、

 「お願いします」とだけ告げて部長室を出た。

 

 そもそもの被害者のなっちゃんをほったらかしにした会社の対応の悪さ。

 リサに何もしていない俺たち(涼介は除く)に謝罪を求める理不尽さ。

 本来ならセクハラ事件から女子社員を守った俺たちは感謝状をもらっても良いくらいなのにこの仕打ちだ。

 こっちは何も悪いことはしていない(涼介は除く)。何なら出るところに出て闘ってやるという憤りはあったが、大山田部長の顔を立ててその日は早々に家に帰った。


 しかし翌日、事態は呆気なく急展開した。

 課長たちの対応が手のひらを返したように変わったのだ。


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