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その職場問題はリテラシー向上委員会にませてください?  作者: そぼろはるまき
第一章「向日葵の涙」
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第15話「博打」

 「十中八九、この二人のどちらかだろうな」

 金曜、昼のミーティング。三人で顔をつきあわせ黙り込んだ。

 ここまでの捜査で疲れていたこともあるが、それにも増して僕らは現実を受け止めきれずにいた。

 正直、全く予想しない容疑者だったし、毎日働いていた職場でこんなことが起きていたとは思いたくなかった。

 正雄の野生の勘で手繰り寄せたゴンさんか?

 それとも、涼介の情報網で浮上した元カレの冨野か?

 最後に残った容疑者はいずれも、信頼していた仕事仲間だった。

 

僕「⋯⋯⋯ 夢、じゃないよな?」

二人「⋯⋯⋯⋯。ああ、たぶん」

 ここまでなっちゃんの涙に突き動かされて、わずかな手がかりに、どこかで犯人など見つからない、そんなドラマのような出来事が起きるわけがないと高をくくっていた自分に気付かされる。

 先のことなど考えずに、その行動が何を招くのかなど考えることなく走り続けてきた僕らに、突然突きつけられた夢のような現実に皆一様に戸惑っていた。

 繰り返し、それぞれが探り当てた証拠を確認する。それは犯人を確かめるものではなく、自分たちが間違っていないか、間違っていてほしい、という確認だった。 

 しかし、物証、動機、状況証拠は、間違いなくこの二人を指し示していた。

 そして、この最後に残った容疑者二人に共通するのが「影のサークル」と「秘密のパーティー」との繋がりだった。

 初めて涼介からその存在を聞いたときは、僕らの職場にそんな推理小説のような組織が在るとはとても信じがたかった。

 しかし今となっては、その存在を避けてこの事件の説明がつかないほどリアリティを帯びていた。


 物証と状況証拠はゴンさんを犯人と示している。しかし、なっちゃんのメールを盗み天間先輩に送る動機がわからない。二人の接点も仕事以外に見つからなかった。

 優秀で仲間の信頼を集めるリーダーが、家族もある男が、そんな事をするとはどうしても考えにくかった。社内メール便で天馬先輩にディスクを送ったのもゴンさんと言うには不自然だった。涼介の動機調査で彼はなっちゃんに何の恨みもない。

 天間先輩は本当に何も知らないのか。守るもののあるゴンさんが興味本位のハラスメントとはどうしても考えにくかった。

 もし本当に彼がやったなら、背後には何か彼個人とは別の何かがあるのではないか。動機を埋める何か重要なピースが抜け落ちている気がしてならなかった。


 一方、この部署でパーティーの誘いを断り続けていたのは、なっちゃんだけだった。誘っているのは元カレの冨野だ。冨野は今も彼女とやり直したいと思っている。その事をなっちゃんに告げたが返事はもらえていない。

 冨野と別れたあと、彼女はすでに社外に新しい彼氏がいるが、それを知っているのは涼介だけだ。勘ぐった冨野が彼女のメールを覗いていたとしたら?

 犯行当日、PCを操作していたことは間違いなかった。もし、一見穏やかな彼の仮面の裏側にある彼女への想いが歪んだものになっていたとしたら?

 冨野が単独でストーキングに及んだ可能性は否定できなかった。

 

 ゴンさんのハラスメントか。

 元彼、冨野のストーカー行為か。

 どちらがやっても可怪しくないが、逆にどちらの証拠も犯人を追い詰める材料としては決め手を欠いていた。

 もし今この証拠を突きつけて、

「あなたがやりましたね?」

 と詰め寄ったとしても間違いなくシラをきられるし、今ある証拠だけでは、それ以上追い詰めることはできないだろう。

 決定的な決め手が欲しかった。

 目撃者や指紋、犯行現場を写したカメラ映像のような、ぐうの音も出ないほどの決め手が。

 しかし手がかりは尽き、今日はもう金曜の午後だ。

 聞き込みを進めるほど、人の記憶が曖昧になっていくのがわかった。

 そして僕らが何かを調べていることが噂になっていることも職場のざわつきで伝わっていた。

 もうこれ以上、捜査している時間はなかった。

 僕らは、最後の大勝負に出た。



「もう時間がない。この質問に賭けよう!」

 昼休み明けの定例ミーティング、涼介と正雄の「俺の容疑者が犯人だ」論議は、すでに1時間を越していた。

 僕は二人の議論に終止符を打ち、最後の博打(ばくち)を提案した。

 

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