第10話「告白」
「あのさ、ちょっと話があるんだけど。」
深夜の駐車場。正雄と涼介に今日の調査結果を共有して、帰路に着こうと車に乗りこむと、思いがけず涼介が僕を呼び止めた。
「どうした?何か思い出した?」
運転席の窓を開け、僕は神妙な面持ちの涼介に問いかけた。
ドアの前に立った彼は少しうつむいて、一呼吸おいて話し始めた。
「実はさ、おれも、やったことある、かも?」
一瞬僕はなんの話かわからず困惑した。
「やった」って何をだ?!
「かも?」ってなんだ?
パニックは顔には出さずに黙っていると、涼介は助手席に乗り込んできて、堰を切ったように語り始めた。
今日の物証分析の成果報告で僕が二人に伝えた、メールデータはなっちゃんのPCから直接抜き取られた可能性が高いこと、そしてそれを僕がどうやって突き止めたのか。それを聞いて、涼介は、以前自分が犯人と同じ様になっちゃんのメールを覗き見たことがあることを思い出したというのだ。
「だってさぁ、会社のPCって仕事で使うものだろ?
だからメールだって仕事以外使うなってことになってるし。
ってことは別に見て良いって事じゃない?」
涼介はそう言うと一人で頷いた。
(おい、涼介、おまえは会社から支給されている同僚の手帳に何が書かれているか勝手に見るのか?
仕事仲間のデスクの引き出しを勝手開けて、中に入っているものを物色するのか?
会社の備品だからといって何しても良いわけないだろ。プライバシーって知ってるか?)
僕は内心でそう叫びながら、いつ「犯人は僕だ」と名乗り出るかとドキドキしながら、心のざわめきを悟られないように黙って聞いていた。
彼の弁明はこうだ。
なっちゃんは持ち前の快活な性格と行動力で、所属する管理課だけでなく部内の男子社員から人気を集めていた。それが同じ職場の先輩OLリサの目にとまり、イジメられていた。
なっちゃんは何も言わなかったが涼介はその事に気づき、彼女に送られてくるメールを調べて彼女の完全を守っていた。
特に、なっちゃんが来るまで職場のアイドル的存在だったリサを推している男性社員達からのイジメが心配で、何かあってからでは遅いと思い見守っていたのだと言う。
涼介にとって、なっちゃんは妹のような存在だと言う。彼は彼女を「なつ」と呼び、彼女も涼介を「お兄」と頼り色々相談している。
そして涼介にやましい気持ちはなく、「なつ」には遠距離恋愛している彼氏もいる。彼女は彼氏にも話せないような悩みもあって、自分にだけは打ち明けてくれている。
涼介はその期待に応えたいという気持ちから彼女のメールを覗き見たのだが、今回の事件で自分がやりすぎていることに気づいた。
決して悪気はない。ただ、その痕跡が僕の解析の邪魔になることを「心配」して打ち明けてくれた、そうだ。
弾丸が無くならないマシンガンのように彼の弁明は続いた。僕は気が遠くなりながら、(やっぱり、容疑者は全員だな)と、気持ちを引き締めた。
「も、もうわかったから。
おまえの兄心は伝わったから。」
一向に終わりを予見出来ない彼の演説に、呼吸困難になりかかった僕が納得の意思表示をした時、ダッシュボードの時計は午前1時を回っていた。
別れ際、まだ言い足りなかったのか、助手席から追い払おうとする僕に向かって、涼介は最後の一撃を見舞った。
「だってさ、俺、リサの元カレじゃん?
責任が、ね?」
(えっ!!!!
涼介はリサと付き合っていたのか!?
知らないぞ! そんなの!!
って、元カレの責任てなんだ?!)
僕は気を失いかけた。
こうして怒涛の2日目の夜は更けていった。