プロローグ「向日葵の涙」
「バタ、バタ、バタタタタタ……」
急に降り出したゲリラ豪雨のように、激しい濁音が部屋の中に鳴り響いた。
週半ばの水曜日。昼過ぎのアンニュイな空気が張り詰めた。
大きな瞳にも蓄えきれなくなった彼女の想いの滴は、大粒の涙となって床にこぼれ落ちた。
お陽様を仰いで咲く向日葵を思わせる彼女の印象は、その日、頭を垂れた初秋の枯花となって僕の痛い処を締めつけた。
予想はしていた。
それでも、何もできないと高をくくっていた僕の心は、彼女から溢れる涙の迫力に揺さぶられた。
所在なくなった視線を床に落とすと、彼女の足元にできた滴溜まりに目を奪われた。
既視感を見た。
僕の何処か深い処で、ずっと行方知れずになっていた記憶の断片が再生された。
永い間、索引を見失っていた、ある少女との記憶が蘇った。
「犯人、⋯見つけて欲しい?」
僕の覚悟ない言葉に彼女は、
「はい。⋯見つけて、ください」
と強い願いを込めた声で答えた。
記憶の中で、少女の傍らに立つ少年が僕に問いかけた。
「おまえはまた、同じ後悔をするのか?」
僕はその声に、今度は覚悟を決めて応える。
「わかった」
それだけ言うと、僕は彼女を残して部屋を出た。
あてなどない。自信もない。
在るのは、訳のわからない衝動とおぼろげな少女の記憶だけ。
今日僕は、この問いの答えを探す冒険に出る。