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・・・誰だこいつ、殺してもいいやつか?


「セイクウッドドラゴン・・・」

「聞いたことのない名前の魔物ですわ。」

「私もこの竜種は見たことがないわね・・・。」

「・・・ということは新たなドラゴンの新種に立ち会えたという事か・・・!?」


己の研鑽を積むために様々な魔物の討伐依頼をこなしていたハルネとレイラに加え、<竜母>と称されている長寿のフィリオラでさえも知らないと言い放った。


ということはつまりそれは世界に迎えられた新たなる生命の誕生、その瞬間に立ち会えたのだ!

しかもそれは昆虫や爬虫類、はたまた哺乳類などではない。


ドラゴン・・・、そう、ヨスミが愛してやまないドラゴンの新種なのであるっ!!


「あああああああああああ・・・」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…

「ああ、あなた!?しっかり・・・、しっかりしてくださいましぃ!」

「・・・とうとうヨスミが壊れたわ。」

「そういえばヨスミ様はレイラお嬢様とドラゴンに対しては異常なほどまでに執着なされますよね。」


あああああああああ!!

ドラゴンの新種だ・・・僕が生み出したわけでもなく、純粋に世界で初めて生まれたドラゴンの新種なのだ・・・。


僕の知らぬ、僕の手が入らない純粋無垢なるドラゴンの新種だぁ・・・


あは、あははははは・・・あはあはあはあはあはあはあはあは・・・


無意識にセイクウッドドラゴンに近づき、そのまま飛びついた。

セイクウッドドラゴンもまんざらではなさそうで、というよりも遊んでもらっているかのように楽しそうにしていた。


ふぉぉおお・・・・、触り心地は固いがとてもすべすべしている・・・。

ひんやりしているかと思えば、じっと触れていると体温がゆっくりと伝わってくる・・・。


それに、こうして触れ合っていればとても心地よい気持ちに包まれるぅ・・・。

ヒノキのようなすっきりとした香りに紛れて、桜の甘い花の香りぃ・・・。


まるで森林に囲まれているかのよう・・・。


「はあぁ・・・、心地よい・・・。」

「心地よいですわねぇ・・・。」


気が付けばヨスミだけじゃなく、レイラまでもがセイクウッドドラゴンの体に巻かれ、だらりとした表情を浮かべながらうっとりとしていた。


「れ、レイラお嬢様ぁ!?」

「ああ、ヨスミの影響に侵されてしまった人間が1人増えてしまったわ・・・。」

『・・・人間、お前たちは面白いのであるな!』


そしてふと聞こえた誰も知らない凛とした通るような女性の声。


「あなた・・・、生まれたばかりなのにもう喋れるの?」

『造作もないのである!』


その声の主に一番に気付いたフィリオラが驚いたようにたじろぐ。


それにしても喋り方の癖も可愛いとかほんとどうなってんだこの世界のドラゴンたちは・・・。

そういう風に出来ているのか? しかも声も可愛いとか反則だぞっ!


「驚いたわ・・・。あなたは一体何者なの?」

『うん?その言葉の真意がわからないのであるぞ?吾輩は吾輩なのだぞ!』

「うーん・・・、自分の事はどれぐらい理解している?」

『んー、そうだなー。吾輩は皆の願いを受けて生まれたのであるぞ。この森に、この森に住む者らに、そしてこれまで見守り続けてきた大いなる存在に。最初はとても苦しくて、苦しくて・・・。やっとの思いで誕生したのに全身が痛くてどうにかなりそうで・・・、ずっと吾輩は助けを求めていたのである。そしたらとても暖かいモノに包まれて、そしたら何も苦しくなくなって、痛くなくなって。やっと安心して眠れると思っていたら、なぜかこうして生まれ変わっていたのである!』


・・・ということは、この子は下の地下空間で対峙した”瘴気に飲まれた竜樹根”ね。

あの状態からして不完全なままに生まれたから、体の作りも生命としての作りも未完成で、ただ瘴気によって無理やり補わされていたために、ヨスミの力で瘴気は消え去り、未完成だった体はそのまま死を迎えてしまった。


でも体に定着していた生命力があの竜樹根の種として確立された。

そして竜樹根を形成していた生命力が溢れ、精霊樹として誕生するには不完全だったこともあり、同じように不完全なまま生まれた竜樹根の生命力を吸収したことで、不完全同士だった2つが混ざり合い、1つの完全体としてこの世に生まれることができたのね。


「なるほど・・・、そういうことだったのね。」

『今はただただこうして生まれることが出来て嬉しくて、楽しくて仕方がないのである!だから人間たちよ、吾輩ともっと遊ぶのだー!』


セイクウッドドラゴンは楽しそうにヨスミとレイラ、そしてハルネも参加して遊び始めた。

その様子を座りながら眺めるフィリオラは、ふとかつての思い出に浸っていた。


いくつもの偶然がこうして重なり合った結果、この奇跡が生まれ、あの子が誕生したのね。


実際、おじいちゃんと連絡が取れなくなって何十年も経っていた。


ヨスミとこうして旅に出て、レイラちゃんの故郷へ赴き、こうしておじいちゃんに会いに行く口実が無ければ、おじいちゃんの最期を見届けられなかった。


もしかしたら、<瘴気に飲まれた竜樹根>が地上に這いだし、<黒い森>は<瘴気に覆われた死の森>として君臨し、その近くにあるこの町も大きな被害を被っていたでしょうね。


逆に早く来た時、おじいちゃんは助けられなかったとしても、その時は下の呪石の完全破壊に成功し、<精霊樹>が生まれ、<聖龍霊樹根>は生まれてこなかった。

もしかしたら<精霊樹>も助けられず、<聖龍霊樹根>も生まれてこなかったかもしれない。


今のこの結果は、考えうる中で予想されていなかった未確定の結果であり、誰も成し得なかった最良の結果だと私は感じる。


今までの事象の中で、その中心にいる人物こそヨスミだ。

彼が関わるモノ全てに必ず何かしらの影響が及んでいる。


ヨスミがいなかったら、それこそ<瘴気に飲まれた竜樹根>との戦いでは私以外が死んでいた可能性が高い。


ヨスミがいてくれたから、最悪の未来を回避することができた・・・と考えればいいのかしらね。


初めて出会ったあの日も、人間たちに恐れられている”生ける災害”と恐れられている<疾蛇竜>と仲良くなっていた。


ヨスミ・・・、あなたは本当に何者なの?


今まで生きてきた中で、私はあなたという存在を知らない。認知したことさえない。

ある日突然現れて、私の日常を変えてくれた、心に深い闇を抱えるあなたは一体どこから来たの?


何度もヨスミの過去について調べようとした。

この旅についてきたのだって、未知の存在であるあなたが一体何者なのかを確かめるために付いてきたのだもの・・・。


でも、結局調べることもしなかった。

だって、この旅が想像をはるかに超えて、とても楽しいモノだったから・・・。


私は竜母。

幾千もの長い年月を生きてきた古龍。


故に私は誰かに特定の感情を、恋心を抱くことはなかった。

短命な人間に抱いてしまったら、失ってしまった先の未来、どう生きていけばいいのかわからなくなるのが怖かった・・・。


もちろん、それはヨスミに対しても同様だ。

ヨスミと共に旅をするのはすごく楽しい。

ヨスミの傍にいるととても心地よい。

ヨスミと歩く道がは胸が躍る・・・。


でもこれは恋心ではない。

どこか、甘えたい気持ちが強い・・・。


レイラに向ける視線を私にも向けてほしいとは思わない。

でも、すっごく寂しい時がある。


まるで父親に構ってもらえないような、上手く言葉にできない感情が私の心の中にある。


彼と触れ合ってきたドラゴンたちは例外なく、敵意を向けず、甘える様に接していた。

私にも、ヨスミの持つそんな特別な何かに触れてしまったが故に、そう感じてしまうのだろうか・・・。


「・・・フィリオラ、そんなところでどうした?」


突然、ヨスミが目の前に立っていた。

座り込んでいる私へとその手を差し伸べてくれている。


私はその優しい手に触れ、握るとそのまま立たせてもらった。


「ええ、なんでもないわ。それよりももういいの?」

「ああ。十分に堪能したぞ。どうやらあの子はこの森の新たなる守護者としてこの黒い森に君臨することにしたようだ。」

「・・・そうね。おじいちゃんの思いも託されているもの。きっと、大丈夫よ。彼女なら・・・。」

「あなた、フィー様。そろそろ戻りましょう。」


セイクウッドドラゴンと遊び終えたのか、レイラが2人の方へと向かいながらそう声を掛ける。


「そうだな。それじゃあ、いこうか。」

「・・・ええ。」


ヨスミとフィリオラは歩み出す。

その傍にはレイラとハルネがおり、森に入る前に一度全員が止まり、再度振り向く。


ヨスミ達を見送るセイクウッドドラゴンの姿が見えた。

手を振り、別れの挨拶を告げると、ヨスミ達はカーインデルトへ帰るためにすっかりと霧が晴れた森の中へと入っていった。






行きとは違い、その半分の時間で森の出口にたどり着くと、そこに見慣れぬ豪華な馬車が停まっていた。

森から出てきたヨスミ達の姿に気付いたのか、馬車の扉が開き、中からなんとも豪華な衣装を身に纏う金髪の長身の男が降りてきた。


するとレイラの姿を見つけると、にやりと笑い、ゆっくりと近づいてくる。

そしていちいち鼻の付くミュージカルのような動きでレイラの傍まで来るとその左手を取り、


「おお、そなたは我が愛しき婚約者、レイラ・フォン・ヴァレンタインではないか!なんとも偶然、まさかこのようなところで出会えるとは!」


と見せつけるかのように手の甲へ口づけをした。


「・・・誰だこいつ、殺してもいいやつか?」



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