新たなる新種の生命の誕生に立ち会える喜びをどう表現すればいいのかわからない。
【EP13】には大まかなリグラシア大陸の成果地図を、【EP91】には簡単に描いた竜騎馬のイメージイラストが差し込んであります。
良ければ、ご参照ください。
今後、私の気まぐれでこういった大まかなイメージイラストを差し込むことがございます。
もし読者様のイメージにそぐわなかった場合の責任は取れませんのでご了承ください。
あれから幾刻かが過ぎ、古霊樹は完全に焼け落ちていた。
だがそれでも未だ消えぬ白桃色の炎は、周囲の黒く染まる森を優しく照らし、暗い雰囲気を遠ざけていた。
いつからか、ただの動物たちがその白桃炎に集まりだし、その炎の揺らめきをただただ眺めていた。
「フィー様、これは一体・・・」
「私にもわからないわ。ただ、この森に漂う魔力の元である魔素と、おじいちゃんの魔力、そして私の炎が混ざり合って何かが起きたみたいね。この感じだと周囲の魔素を原料に燃えて、煙の代わりに生命力を高める魔素を生み出しているわ。それがずっと繰り返されているみたいだから、この炎はよっぽどのことがない限りは消えないわね。」
「そんなことがありえるのですか・・・?」
ただ勝手に燃え続ける炎というのは異質である。
本来の法則としては何かを”対価”に、”効果”が発動される。
これで終わりのはずなのだが、この炎はもはや一種の永久機関的存在になっている。
「まさに人類が夢見た永久機関の完成というわけか。」
「あら、ヨスミ。起きたのね。」
「ヨスミ様・・・、ご無事でしたか!」
「ああ、悪い。大事な時に気絶しちまって、皆を危険な目に合わせてごめん・・・」
結果的にあの古霊樹さんが己の僅かしかない生命力と魔力を用いて、巨根を動かしてくれなければレイラたちがどうなっていたかわからない・・・。
結果として、古霊樹さんが犠牲になってしまったことに、どこか後ろめたさを感じてしまうな・・・。
「おじいちゃんは満足していたわ。だから気にしないで、ヨスミ。私たちの方こそ謝らないといけないもの。」
「はい・・・、ヨスミ様が竜樹根をどうにかしてくださらなければ今頃私たちもどうなっていたことか・・・。」
「そうですわよ、あなた。まあ結果としてお城に戻ったら長時間のお説教コース行きは確定として、それでもあそこまで無茶をして下さらなければ確実に誰かが死んでいた可能性が高いほどの案件でしたわ。だからありがとうございます、あなた。」
「・・・ああ。みんな無事でよかった。」
その時初めて、皆の顔に笑顔が灯る。
だがヨスミはどこか浮かない顔をしていた。
その事に気付いたレイラは優しくヨスミの頬に手を添える。
「あの竜寝樹のことですか?」
「・・・ああ。かつての僕の姿と重なって見えてな。結果的に僕はなんとかなったが、もしかしたら僕も彼のような結末を迎える可能性だって十分あったんだろうと思うとつい、な・・・。」
実験が上手くいっていたこと。
もし途中でどこかしらの歯車がズレ、とんでもない失敗をしてしまった場合、僕はアナスタシアたちと出会うことができなかった。
彼を見ているとどうしてもその時の未来を思ってしまう。
「もしそうなったら、わたくしが、いえ・・・わたくしたちがあなたを支えますわ。」
「・・・え?」
「そうよ、ヨスミ。何かあったらすぐに頼りなさい。それが仲間というものでしょ?」
「私もヨスミ様のためであれば、全力で支援させていただく所存でございます。」
「ね?他にもアリスやシロルティア、そしてわたくしのお父様、何よりもヴァレンタイン家総出であなたをお助け致しますわ。ですから、なんでもわたくしたちに話してくださいな。そのための用意が、わたくしたちには御座います。なんなりと、遠慮なく、何でも!あなたはもう一人じゃないということを自覚して欲しいのですわ。」
あの時は失敗したらその時点で取り返しがつかない状況だった。
建て直す人員も存在せず、助けてくれる味方さえもいない。
故に僕は荒事に手を染めた。
それが世界中を敵に回す行為だったとしても、僕は進み続けた。
それ以外の道を、僕は知らなかったから・・・。
でも今は、レイラたちがいてくれる。
味方になると言ってくれる仲間たちがいる。
故に、僕は今世では仲間に恥じぬ行動を・・・その、なるべく取れればいいなと思っている。
非人道的な研究ばかりしていたせいか、人間に対しての倫理観が大きく下がってしまっているのは否めないためだ・・・。
「・・・頼りにしているよ、みんな。」
「うふふ。」
さて、ここでひと段落付いたところで、これからどうすればいいのだろうか。
目的は果たしたと思う。
だがそれは完璧とは言えない。
本来であれば、黒い森の中心部で起きている異変を調査し、古霊樹さんとその苗木を救うことが今回の依頼だった。
だが実際は古霊樹さんは死んでしまい、苗木は最初よりかは元気にはなっているがこれといった変化が見られなない。
残された古霊樹さんの切り株から漂う魔力を原料に燃え続け、排出される煙の代わりに生命力が込められた魔素を散布し、それが周囲の大地や木々に染み込み、それらを切り株が吸収してまた燃え続ける。
そんな永久機関を生み出しただけに過ぎない。
「はてさて、お義父様にはなんて説明しようか・・・」
と悩んでいると、急に苗木が大きく膨らみ始めた。
やがてそれは大きな卵のような形へと姿形を変え始めてきた。
大きさとしては約2mあるかないか。
「・・・え、精霊樹ってああいう風に生まれるのか?」
「そんなわけないじゃない・・・!」
「じゃああれはいったい何が起きてるっていうのさ!」
「私だってわからないわよ!」
「何かが、生まれようとしている・・・?」
レイラがぼそっとそう呟いた。
そして樹の卵にヒビが入る。
そして中から生まれたのは・・・
「・・・私、あの魔物とつい先ほど対峙したばかりのような気がするのですが。」
「わたくしも同感よ・・・、さっきまで瘴気に触れて無理をし過ぎた結果、死に掛けた元凶とも言える魔物が・・・でも、若干見た目が違うわ。所々に白い花が咲いている・・・?」
「あれは・・・、桜か?」
そう、卵の中から現れたのはつい先ほど瘴気に飲まれて暴れまくっていた竜樹根だった。
だが、その見た目が若干違う。
まず大きさだ。
これは多分幼体であるからこの大きさなのだろうが、それでも下で戦った竜樹根は全長が凡そ15m以上はあるかぐらいなのに対し、この子は8mあるかないかだ。
後は体中の所々に桜の花が咲いており、その瞳は禍々しい紫色ではなく、森のような緑色をしていることだった。
「・・・これまで長く生きてきたと自負はしているけど、この竜種のような魔物は見たことがないわ。」
「そうですね・・・、どなたか鑑定スキルがあればあの正体がわかるかもしれませんが・・・。」
鑑定・・・異世界ファンタジーモノにありがちな高性能スキルの一つ。
使い方次第で最強にもなれる有能なものだ。
ただし、この世界では仮想表示・・・、つまりゲーム画面のようなウィンドウの存在はない。
故に、ステータスオープン!なんて言葉で叫んだり、心の中で願ってもそういったものは僕の前に現れなかった。
あの時、神に望んだスキルが転移じゃなくてそういった系のモノだったらまた変わっていたのだろうか。
だからといって手段があるわけじゃない。
そう、以前王騎竜”オウシュフェル”を助けた際にもらったこの千里眼という能力。
これであの魔物に関しての正体を暴けないだろうか。
―――ということで早速使ってみた。
「千里眼!」
「・・・は?え、あなた!?」
「え、一体何を見るのよ?!」
「なんの躊躇もなく発動しましたね・・・。」
当たり前だろう・・・、目の前に竜樹根のような魔物がいるのだ。
その正体を知らずしてなんとする!
他3人が知らない新種だとすれば猶更僕はあの魔物について調べる義務があるのだああああ!!
「<聖龍霊樹根>・・・」
「セイク・・・」
「ウッド・・・」
「ドラゴン・・・ですの?」
「きゅいっ♪」
~ 今回現れたモンスター ~
竜種:聖龍霊樹根
脅威度:***ランク 測定不明
生態:古霊樹が作り出した苗木が突如変異して巨大な卵となり、そこから孵化し誕生した竜種の魔物。
胴体は樹の幹のような見た目で、全身を樹鱗が生えている。
頭部からは鹿のような枝分かれした樹角が左右に2本ずつ生えており、角と体中に巻き付いているツタのような部分から白い桜のような花が咲いている。
竜眼の色は他のドラゴンにはない深緑色をしており、体中から生命力が溢れ出ているためにそのドラゴンが通った後には花や草木が生えていた。
そのドラゴンからは魔力の性質は光属性と土属性、そして風属性の3つがどれも神級なみの適正を持っているらしく、これは魔物というよりも神に近い存在ではないかと考えられる。
以上、この魔物と初めて出会った冒険者数名と竜母様の証言からによる報告です。