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僕の嫁がこんなにも愛しいと理解する者は、僕だけで十分だ。


「お主らには随分と助けられたのう・・・。」

「・・・でも、その様子だとおじいちゃんは限界なんでしょ?」

「うむ、そのようじゃ・・・。」


よく見ると葉は全て枯れ落ち、樹木の幹は萎れて所々裂け、魔核さえも無数にひび割れていた。


「ふぉっふぉっ、お主らを助けるために残りの力を全て使った影響かのう・・・。」

「そんな、古霊樹様・・・」

「わたくしたちを助けるために・・・。」

「なあに・・・、気にしなくてよい。どうせもって数日の命だったんじゃ・・・。」


目に見える速度で古霊樹がどんどん弱くなっていく。

葉はどんどん散っていき、色素が抜けて幹の色は黒から灰色へと近づいていく。


「・・・おじいちゃん!竜樹根は倒したし、ソイツからは今まで奪ってきた魔力と生命力が溢れ出しているのに、それを吸収しないの?!」

「そうじゃのう・・・、ワシにはもうそれほどの力は残ってはおらぬ。ワシの苗木の方がワシよりも吸収する力が強い・・・。それに、そろそろワシのような老い耄れがいつまでも生きておれば、若い芽も育たぬ・・・。老兵は、静かに去りゆくのみ・・・じゃよ。ふぉっふぉっ」

「おじいちゃん・・・。」


フィリオラはそっと古霊樹の体に触れる。

その手から感じられるのは、急速に冷たくなっていく温度のみ。


そのまま体を押し付け、まるで抱擁するかのように優しく体を密着させた。


「今まで、ありがとう・・・おじいちゃん。」

「うむ・・・。その子もどうか、見守ってやっておくれ。」

「・・・わかったわ。」

「・・・黒坊の娘よ。」

「は、はい・・・!」

「お主にワシからの最期の加護を与えよう・・・。これからはその者と共に幸せになることを認めよう・・・。最後に、黒坊へよろしくと伝えておいてくれ・・・。」

「わかりましたわ・・・!」

「ふぉっふぉっ・・・ではな・・・・・・・・・・。」


最後にそう言い残し、魔核は完全に破壊されるとそれぞれの破片は霧散していく。

だが霧散せずにレイラの手元に小さな魔核の破片が落ちてきた。


それはまるで葉のような形状をしているそれをぎゅっと握り、胸に抱きしめる。

微かに伝わる心地よい魔力の波動を感じ、古霊樹へ冥福の祈りを静かに捧げた。


フィリオラは古霊樹から大きく離れた場所へと移動すると突然、完全龍体化する。


「フィリオラ様?一体何を・・・」

『おじいちゃんとの約束を果たすのよ。おじいちゃんの亡骸はそれだけで十分とんでもない価値のある素材だから、それを悪用させないために焼くのよ。』

「や、焼く・・・んですの?」

『ええ。焼けたおじいちゃんの亡骸は大地に還り、この森を恵みのある潤沢な森へと成長させてくれるわ。何よりも、その子が育つ上で必要になる栄養素の1つでもあるからね。』


そういってフィリオラは古霊樹が最後に残した苗木の方を見る。

先ほどはいつ枯れてもおかしくないほど萎れていたが、大地に染み出している魔力と生命力を吸収しているのか、メキメキと成長していた。


『私の炎は、私が望んだモノしか燃やさない。だから、飛び火することはないから安心して。』


そういって口を広げ、魔力を込めていく。

そこに自らの白桃色の炎を混ぜ込むことにより、小さな球体となったそれをそれを古霊樹へと放つ。


魔核が入っていた十字の裂け目の中へと入っていったそれは、内側だけに引火し、白桃色の炎が上がる。

所々にある裂け目から炎が上がり、そして信じられない光景がそこに映った。


「・・・わあ、綺麗」

「これは美しいですわ・・・。」

『・・・最後に綺麗な花を咲かせたね、おじいちゃん。』


全ての枝から花のような形をした炎が上がり、まるでそれは満開に咲いた桜の樹がレイラ達の瞳に映った。


まるで桜の花びらが舞うかのように白桃色の火の粉が飛び、周囲に広がっていく。

その幻想的な光景に我を忘れ、その場にいた全員が心を奪われる。


ただ1人だけその光景を前にしても、たった一人のその光景に感動した表情を浮かべている人物の瞳をただ静かに眺めていた。


その視線に気づいたのか、レイラは下の方に視線を落とすとそこでヨスミと目が合った。

その安堵に涙が溢れ、優しくはにかむ。


ヨスミはレイラの潤む瞳に溜まった涙を拭い、微笑み返す。

ヨスミはレイラのの頬に触れたまま片膝で体を少しだけ起こすと、レイラの頬から後頭部へ手を回し、そこで2人は初めて逆さまの口づけを交わした。


最初はびっくりしていたレイラだったが、その心地よさに、鼓動の高鳴りに、そして胸いっぱいに広がる暖かさに満たされ、それを受け入れたかのように瞳を閉じる。


2人の時が止まったように静寂が辺りを包む。


唇から伝わるお互いの体温を感じ、漏れる吐息に愛しさを感じ、触れる舌に幸せを感じる。

互いの唇が離れることを拒むかのように、いつまでもずっと熱い口づけを交わし続けた。


そして一度離れ、お互いの瞳が交差し合う。

相手の瞳に映る自分の瞳を見て、自分以外の元が映っていないことにたまらなく幸せを感じる。


自然とまた2人は笑みを交わし、もう一度口づけをし合った。

今度は優しく、ただただ唇だけが触れ合うだけの、純粋に相手の愛を感じるためだけの口づけを。


そんな2人の様子に気付く者は、目の前に咲く満開の桜に気を取られ、誰一人としてそこに居なかった。



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