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例え周りの空気が読めなくても、己の信念を貫く覚悟は必要だ。


「え、死ぬってどういうこと?」


言葉の意味を理解できなかったのか、フィリオラが先ほどの古霊樹の言葉を再度問いただす。

だが、帰ってくる言葉は同じようなものだった。


「言った通りじゃ。ワシはもうすぐで死ぬよ。」

「な、どうして?何があったのよ・・・!?」


一瞬の沈黙の後、古霊樹は静かに語りだす。


「・・・わからぬ。数年前からワシの魔力がどこかに吸い上げられているような感覚に襲われるようになってのう。原因を探ってみたのじゃが特定には至らず、気が付けば魔力に加えてワシの生気まで吸い取られるようになっておった・・・。」

「どこかって・・・。でも一体どこのドイツがそんな真似を・・・!」

「故に、ワシの代わりにこの森を守る存在を生み出した。じゃがその子にも影響が及んでおるようでのう・・・。その精霊樹が死なぬよう、ワシの魔力を散らしてその存在を隠したのじゃ。じゃがそれにも限度があってのう・・・、ワシの命は持って数日といったところか。」


古霊樹を詳しく見ると、葉の色も緑ではなく茶色に変色しており、自らの力を最大限に使って精霊樹を守ろうとしていることがわかる。


だがそれでも追いつかないのだ。

自分の生命力を削って助けようとしても、魔力と生命力を吸い上げるという謎の攻撃が上回ってしまう。


そういえば、以前ルーフェルースにお願いする時に見たこのカーインデルトの地形の一部に違和感を感じた部分があった。


再度、千里眼を発動し、周囲の地形を見渡してみる。


「・・・やはりここだ。」

「あ、あなた・・・!? だ、大丈夫ですの?」

「ああ、大丈夫だよ。それよりも、古霊樹様。この古霊樹の真下、奥深くに出入り口の存在しない空洞のような地形があるんだけど、何かわかる?」

「む・・・、ワシの下にそのような空間が・・・?」

「ああ。僕の眼で魔力の流れを視た時、古霊樹様の魔力がその空洞へ流れていくのが見えました。原因はそこにあると思うんだ。」

「ふむ・・・、ワシの認知しない空間じゃのう・・・。」

「それに出入り口の無い空間なんて、どうやって見に行けばいいのよ・・・。」


突然できた空洞・・・にしてはその空洞の形状があまりにも人工的なものに見える。

あんなに綺麗なドーム状のような空間が自然と出来上がるのだろうか。


「移動ならば僕の転移を使えばいけるはずだよ。」

「ですけど、あなたにこれ以上負担を掛けたら・・・」

「僕なら大丈夫だよ。今は古霊樹様をどうにかすることが最優先だ。」

「・・・わかりましたわ。」

「ちなみに、その空洞の大きさはどれほどのものなのでしょうか?」

「かなり広いよ。ドーム・・・、ええとヴァレンタイン家にある訓練場の5倍ぐらいの大きさだ。」

「・・・そんな大きな空洞が自然界で自然発生するのはありえません。おそらく、調査に行った場合、高確率で罠、もしくは待ち伏せに合う可能性があります。」


ハルネはそう断言する。

人工的に作られた空間であるならば、十中八九何かしらの罠が張り巡らされているだろう。


だが、僕の眼で見た限りだと・・・


「・・・どうやら罠とか待ち伏せはないようなんだ。」


そう。


罠や待ち伏せの可能性も考慮して見てみたが、魔力がその空間内の一か所へ流れていく他、魔法陣や魔道具、また生命体などの反応はなかった。


仕方ない。

転移窓で行く前に直接、目視で確認してみよう。


その空間に幾つかの転移窓を展開し、中の様子を覗いてみる。

所々が光っており、完全に暗闇に支配されているわけではなさそうだった。


「なら一体そこには何があるっていうのよ・・・。」

「・・・中央に何かある。」

「中央に?」


それが一体何なのか転移窓を皆に見せ、確認してみてもらう。


「なんでしょう・・・?あの赤く光ってるモノは。」

「わたくしは見たことがありませんわ・・・。赤く光っている・・・魔石?」


ハルネとレイラが訝しそうに眺めていたが、フィリオラはボソッと何かを呟いた。


「【穢れた呪石】・・・なんであんなところに・・・!」

「穢れた、呪石?・・・?それは一体・・・」

「一種の呪いのような卵よ。対象の傍に置き、徐々に魔力と生命力を吸収して成長するの。そして限界まで吸い尽くしたら孵化して、対象の肉体を喰らって成体へとなるわ。その脅威度は対象によって変わるけど、おじいちゃん相手に使われたのならAランク以上・・・、ううん。Sランク相当ね。」

「確か、古霊樹様は後数日の命と仰ってました・・・。なら、急いで破壊しないと!」


そういった存在もあるのか。


でもなぜ僕の千里眼で見つけられなかったんだろう・・・。

孵化するまではただの魔石だから、生命体、魔法陣、魔道具、これらに引っ掛からなかったのか?


やはり今度からは情報なんて絞って千里眼を使わず、全力で見るべきだった。


でも一体誰がそんなことを仕掛けるんだろうか?

もしかして、これも皇国の奴らの仕業だろうか・・・。


「フィリオラ、その物騒な卵を壊すとどんな影響が出る?」

「そうね・・・。溜め込んだ魔力と生命力が一気に周囲に広がるわ。でも一番の問題は生まれ来ようとする存在の体を形成する”瘴気”も一緒に溢れ出ちゃうこと。瘴気に触れた者に呪いが発症してしまうの。掛かった部位に黒い斑点模様が浮かび、常に激痛を生み出し続け、回復系の魔法でも治らず、教会の聖水を掛けたとしても効果を薄めるだけで根本的な回復は見られない。一番の治療としては瘴気にかかった部位を切り落とすことしかないわ・・・。」


なっかなかヘビーな内容だな・・・。

そんなもの、頭とか胴体に瘴気が触れたら終わりじゃないか。


そんなヤバい卵を今ここに持ち出して破壊したら、魔力と生命力、そして瘴気も一緒にこの辺り一帯に溢れてしまうと・・・。


迂闊に転移できないな・・・。

となれば直接乗り込んで、その地下空間で破壊しないとまずいというわけだ。


「なんとも面倒な・・・。」

「その地下空間に行って、その場で破壊して戻らないといけないわね。」

「・・・やはりあなたにまた無理をさせてしまうことになりますわ・・・」

「僕なら大丈夫だって言っただろう?それに今は緊急事態だ。迷っている暇がない。」

「あなた・・・。」


レイラがヨスミへとそっと体を寄せる。

不安がる彼女の頭を慰めるかのように撫で、フィリオラたちにアイコンタクトを送る。


全員静かに頷いた後、レイラの方を見る。


「フィリオラに治癒魔法を掛けてもらうし、何よりそれ以上の無理はしないから。」

「・・・わかりましたわ。」

「ごめんなさい、ヨスミ。あなたにばかり無理を言ってしまって。くそったれな卵の破壊は私に任せてくれればいいから。」

「わかった。それじゃあみんな、いくよ。」


そしてヨスミ一行は問題の空間へと転移した。

残された古霊樹は消えたヨスミ達を見送った後、空を眺める。


「・・・頼んだぞ、人の子等よ。」






「・・・ついたようね。」

「でも真っ暗で何も見えませんわ。」


とそこでレイラが一歩、足を踏み出した途端、足ともが急に光始める。

一瞬、トラップかと警戒したが、ただ光っただけのようだった。


よく見るとそれは光っているコケのようなものだった。

天井を見上げるとそのコケはびっしりと生えており、まるで幻想的な夜空のような空間がそこに広がっていた。


そしてその空間の中央、大地が盛り上がっている部分には真っ赤に脈打つ禍々しい魔石が置かれていた。


「あれが、【穢れた呪石】か。」

「なら後は私に任せなさい。」


そういうと、フィリオラの口元が大きく裂け、炎が魔力に寄って圧縮されていく。

それは蕾となり、やがて開花する。


「【白桃焔花(フィリオラブレス)】」


花から放たれるそれは一直線の光線となり、呪石に直撃した。


甲高い金属音のような音と共に、呪石に徐々にヒビが入っていく。

後もう少しで割れそうだとなった、その時・・・


「グオオォォォォォオオオオオオオ・・・・」


突如、何かの唸り声が響いた後、周囲が大きく揺れ始める。

その揺れによりバランスを崩したフィリオラの攻撃が大きく逸れ、後方の壁へと降り注がれた。


フィリオラから受けた傷に、更に呪石は脈動していき、やがてヒビの入った呪石は大きな音を立てて砕け散った。


だが、それは破壊に成功して砕け散ったのではなく・・・。


「うそ・・・?!」

「なんで・・・、まだ古霊樹様は生きておりますのに・・・」

「あれが、呪石より生まれた魔物・・・?!」

「・・・あれは、ドラゴンか?!」


孵化に成功したが故に呪石は砕け、中から木の根を模したような巨大な蛇のような魔物が姿を現した。


その邪悪さから来る禍々しい魔力に当てられたのか、無意識に体中が震え出していた。

ただし、その中でたった一人だけ違う理由で体を震わす者がいることを、他の3名は気づくことはなかった・・・。



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