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別に僕はレイラの着替えを覗くつもりは一切なかったんだ・・・


「ふむ・・・、古霊樹様の身に異変が。」


何事もなかったかのようにピンピンしているグスタフ公爵は腕を組み、思考を巡らせている様子だった。


「もしかすると状況は思ったよりも非常にまずい可能性が高い・・・。セバス。」

「はい、ここに。」


皆の視界の死角となっているところから突然歩いてきた老紳士。

まるであたかも最初からそこにいたと言わんばかりにその存在感を放っていた。


手に持っているシルバー製のお盆には綺麗な琥珀が置かれ、中には種のようなものが埋め込まれていた。

若干ではあったが薄く輝いており、淡く魔力のような物を発しているように見えた。


「すごい・・・きれい・・・」

「それを持っていくがよい。それは我が古霊樹様と交わした盟約の証だ。それを持って会いに行けば、問題なく会えるだろう。」


確か周囲には幻惑魔法が掛かっていてたどり着くことは不可能って言ってたっけか?

でも僕の持つ転移ならどうだろう・・・?


まあいきなり見知らぬ人間が目の前に転移してきたら普通に敵だと思うだろうな。

持ってて損はないか。


「レイラ、あれは君が受け取ってくれないかな。」

「え?でも・・・」

「僕よりも、君が受け取った方がいいだろう。」


グスタフ公爵の実の娘であるレイラが受け取ってこそ、敵対される可能性は実に低くなると思うし。

何も知らない奴がこれを持ってきたらそれこそ、奪われたと勘違いされかねない。


「わかりましたわ。」


そういって、レイラはセバスが差し出したお盆の上に乗せられた琥珀を手に取る。

それを大事そうに胸で抱き抱えると腰に付けていた装飾の入った黒い袋の中へと入れる。


「それじゃあわたくしはハルネの所に行ってきますわ。」

「わかった。僕はまだお義父様と話があるから、門前で集合しよう。」

「わかりました。それじゃああなた、また後で・・・。」


そういうと、レイラはグスタフ公爵たちにカーテシ―でお辞儀をした後、訓練場を後にした。


「ユリアよ、今日の訓練はここまでにしよう。今日はこのまま休みなさい。」

「あ、はい・・・!」

「明日からは訓練ではなく、礼儀作法やマナー講義、ダンスレッスンや刺繍など、立派な貴族令嬢になるための授業になるだろう。頑張るんだぞ。」


ほー、そういう所はきちんとしているのか。

でも実力主義のヴァレンタイン公爵家でそういった話を聞くのはなんだか不思議だ。


となると、これはグスタフ公爵じゃなく、シャイネ公爵夫人によるものなのだろうか。

まあこういう時にはよく、皇室派の人間が潜入のために家庭教師として潜り込むのが一般常識~だのとよく聞かされていたか・・・、懐かしい。


「お義父様、それって誰が教える予定で?」

「ハルネ・・・。そして我が妻、シャイネの親友であるミリア子爵令嬢だ。なに、ミリア子爵令嬢は我らの味方だ。安心するがよい。」


やはりそうか。

グスタフ公爵もそういってるし、問題はないだろう。


「あの、ヨスミお兄ちゃん・・・。」

「どうした?」

「その、帰ったら・・・」


・・・そういえばあんな目にあっていたとはいえ、ユリアはまだ子供だ。

それもダークエルフという種族に生まれてきたせいで、真面に遊んだこともない・・・。


遊びというものを知らない不憫な子供なんだ。


「僕の用事が終わったら、一緒に遊ぼうか。」

「・・・っ、はい!」


めっちゃ嬉しそうにしてくれるじゃないか。

誰にも恥じない立派な兄になるって言ったし、存分に甘やかしていこう・・・。


ユリアは深くお辞儀をした後、嬉しそうな足取りで屋敷の方へと戻っていった。


「さて、我に話があると言っておったが。昨晩話していたことの件についてか?」

「ああ。それらしい人物を捕まえて、信用できそうな衛兵にここに連行してもらうよう手配したよ。」


本当なら僕の転移を持ってここに直接召喚するつもりではあったけど、あそこは騒ぎを起こしたこともあって人の目も多い。


そんな中、突然消えたとかでイレギュラーな事が起きるかわからないから、とりあえず堅実な手段を使ってみた。


まあ一応、視界の隅で転移窓による追跡もしているから、もし途中で逃げ出そうもんなら問答無用で転移させてやるがな。


ついでに逃げられない様に足だけ別の場所に転移させて、逃げ足を潰すってのもありだな。

それか眼球を転移で飛ばして何も見えなくすれば・・・


「ふ、ふふふ・・・。」

「・・・息子よ、悪いことを考えるときにもそのような目をするのは控えた方がよいぞ。」

「あ、ごめん・・・。」

「うむ。では我はその不埒な輩を出迎える準備でもしてこよう。セバス、ゆくぞ。」

「かしこまりました。」


グスタフ公爵はそう言い残すと、セバスを連れてその場を去っていった。

残されたヨスミはこの城の屋上へと転移し、そこで屋敷全体を無数の転移窓を展開させて様子を見てみる。


使用人たちが休憩室で仲良く談笑していたり、キッチンでは料理人たちがせっせと働き、広場では無数の洗濯物をメイドたちが干していたり、部屋の中ではユリアは机に向かって日記帳のような物を書いていたり、部屋の中で着替えを持って移動するハルネと下着姿のレイラ・・・ヒュンッ。


全ての転移窓を0.1秒も掛からずに閉じ、その場にしゃがみ込む。


なんということをしてしまったのだろうか・・・。

別に僕はレイラの着替えを覗くつもりは一切なかったんだ・・・。


こんな形で、彼女が必死に隠そうとしている傷を覗き見るつもりは決してなかった・・・。

でも・・・、あそこまで傷跡が酷いものだっただなんて・・・。


あれは隠そうと必死になるよなあ・・・。

僕は全然気にならないけど、それは僕の感性であってレイラはそうは思わないはずだもんな。


・・・悪いことした気分だ。いや、実際に悪い事をしてしまったわけだが・・・。


「はあ・・・。」

「あら、ヨスミ。そんなため息ついてどうしたの?」


ふと声が聞こえた鳳へ顔を見上げると、両翼を展開しながらゆっくりと降りてくるフィリオラの姿が見えた。


「いや、なんでもないよ。」

「そう?それにしたってヨスミ、あなた顔色悪いわよ?」


そういえば、ユリアの傷を自分に転移させてたんだっけか。

幼い少女が負った傷だから別に大した痛みじゃないだろうとは思っていたけど、地味に効いてるっぽいんだよね。


「まったくもう、私が目を離すとヨスミはすぐに傷を作るんだから。ほら、じっとしていて。治してあげるわ。」

「・・・ありがとう。それよりフィリオラはどこに行ってたんだ?」


治癒魔法を掛けてもらいながら、フィリオラへそう尋ねる。


「この辺りに住んでいる古い友人に会ってきたのよ。と言っても、なかなか会えなくて結局会わずに戻ってきたんだけどね。」


古い友人・・・、となると大精霊の古霊樹に会おうとしてきたのだろうか。


「それって、あの黒い森に住んでいる黒い巨木・・・、古霊樹のことか?」

「あら、知っているの?そうよ、あのおじいちゃんに会いに行ってたのよ。ただ、どうにも幻惑魔法が強くかかってるみたいで、私でさえ見つけられなかったわ。まあ、無理やり行こうと思えばいけるけど、そしたらかけている幻惑魔法も消えちゃうし、どうしようかなって。」


となると話が早いな。

あの様子からして何かひと悶着あることは確かだ。


治癒魔法が仕えるフィリオラがいれば、あの苗木について何とかできる可能性がある。

それにもしもの時にフィリオラがレイラの傍にいてくれたら僕としても安心できるしね。


「実は、千里眼で古霊樹の様子が見えたんだよ。何やら様子がおかしいから、グスタ・・・お義父様に相談したら古霊樹と会える証みたいなものを貰ってこれから行こうとしていたんだ。よかったら一緒にどうだ?」

「あら、いいの?」

「もちろん。ただ、さっきも言ったけど、様子がおかしいんだ。もしかしたら何かあるかもしれない。詳しいことは移動の時に話すよ。」

「・・・わかったわ。それなら任せて頂戴。」


フィリオラは軽く承諾し、掛けてくれていた治癒魔法を止める。

さっきまで体中に走っていた痛みも徐々に和らいでいき、体が軽くなった。


「ありがとう。それじゃあ行こうか。待ち合わせ場所はあの門の所だ。それじゃあ準備はいいかな?」

「ええ、宜しくお願いね。」


笑顔で返し、ヨスミも頷いた後、約束場所である門の前へとフィリオラと共に転移した。



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