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手加減の境界線ほど、難しい技術はないと思う。

修正)神精樹 → 精霊樹


となると後は古霊樹だよな。

本来なら関わらない方がいい相手ではあるんだけどなぁ・・・。


でも、あの時に見えた古霊樹の表情はとても寂しそうで辛そうな。


あの表情はよく知っている。

そう・・・、僕はその表情をよく、知っている・・・。


「古霊樹様のこと、ですの・・・?」

「・・・レイラにはきっと隠し事なんて出来ないだろうし、出来たとしても筒抜けだろうな。」

「ふふ。わたくしはあなたの妻になる女、ですもの。」

「そうだな・・・、僕の自慢の妻になってくれるものな。」


嬉しくなったのか、レイラは腕にそっと抱き着き、肩に頭を預ける。

肩にくる小さな頭の重みが、腕に巻き付く彼女の体温が、次第と僕にとってはなくてはならない体の一部となっていることに、僕は愛しさを感じるようになっていた。


・・・とりあえず今は、やるべきことをやるべきだ。


「古霊樹の傍に、苗木のような・・・小さな樹木が生えているんだ。」

「苗木って・・・、もしかして精霊樹(リトルトレント)・・・?!」

「かもしれないね。ただ、その精霊樹の様子がおかしいんだ。元気がないというか、まあ実直的に言えば、生命力がほとんどない。このままいくと、たぶん・・・」

「それってもしかして、死んでしまうってことですの?」

「・・・恐らくね。」


レイラの表情はさっきよりも暗く、何か思い悩んでいる様だった。

多分、今のレイラの様子なら僕にでもわかる。


きっと、どうにかしたいのだろう。

だってその気持ちは僕も同じだと、そう信じたいから。


「・・・なあ、レイラ。」

「・・・?」

「この後の町の案内はまた後日にお願いしてもいいかな?どうやら僕には君のためにやらないといけないことができたみたいだからさ。」

「・・・あなた!」


そういって、レイラはヨスミへと抱き着いた。


「そうと決まったらまずはグスタ(殺気)・・・お義父様に報告をしよう。また詳しい状況に関しては千里眼と転移窓で確認する。それと・・・」

「ダメです。」

「・・・え?」

「そんな、能力を同時発動なんて無理したらまた倒れてしまいますわ・・・!そんなこと、わたくしが許しません。何のために銀聖騎士団や冒険者がいると思っておりますの?!こういう時にこそ彼らを利用するのも手なのですわ!」


よっぽどスライムスタンピードで、能力を酷使して血涙と鼻血や吐血しながらぶっ倒れたことがトラウマになってしまった模様・・・。


レイラにはすごく悪い事をしたな・・・。


「だが、状況は一刻を争う可能性がある。」

「でもあなたはさっき、アナベラのために千里眼を使ってましたよね?しかもかなり無理したご様子・・・。それなのにまた使うことになったら・・・」

「全く・・・、僕の嫁がこんなにも心配してくれるなんて、僕は果報者だよ。でもね、あの古霊樹はヴァレンタイン家には大切な存在なんだろう?今後の憂いを絶つためにも、そしてレイラを曇らせる不安要素は早めに取り除いておきたいから。」


レイラの目に溜まった涙を袖で拭い、穏やかな口調で語り掛ける。

優しい目を見て、レイラはヨスミの胸に顔を埋める。


「・・・わかりましたわ。でももしもの時は気絶させてでも止めますからね?」

「ああ、歯止めが効かなくなった時はレイラが僕の事を止めてくれ。それじゃあ、いこうか。グスタ・・・お義父様の元に。」

「はい・・・!」


そういって、僕とレイラは・・・・の、前に。


「・・・そういえば、ハクアたんはどこに行ったんだ?さっきから姿を見かけないけど。」


騒ぎが起こった直後に転移して、ハクアをレイラに預けてからは一向に姿が見えなかった。


「ハクアちゃんなら・・・ほら、アナベラと一緒にいますわよ?」


そう指さした先には、アナベラと共に何かを楽しそうに話し込んでいるハクアの姿があった。


「ねね、ハクアの炎で炉に火を入れてくれよ。もしかしたら・・・・」

『まかせろーですの!』


・・・どうやら遊んでもらっているようだ。

まあ、ハクアの戦闘力なら多少の冒険者相手に引けを取ることはないし、大丈夫だろう。


「よし、気を取り直していくよ。」

「はいですの!」


今度こそ、僕とレイラはグスタフ公爵がいるであろう訓練所へと転移した。






朝訪れた時に聞こえていた金属音・・・つまり剣同士の打ち合いによる音とは打って変わり、爆発音だけが周囲に轟いていた。


・・・剣の打ち合いって、あんな効果音出てたっけ?

ドガァァアアアアン!!とか、ドゴォオオオオオオオオオオン!とか。


なんなら、キュウウゥウウイイイイイイイイイイイイイイン・・・ドォォオオオオオオオオオオオオオオン!!とかもう口にするだけで頭が馬鹿になってんじゃないのかな?って思うぐらい意味わかんない効果音しか聞こえてこない。


あ、ほら・・・地響きすらなってるよ?

あ、ほら・・・訓練所から兵士たちが雲を散らすかの如く、逃げるように出てきたよ?

あ、ほら・・・訓練場の屋根部分が木っ端みじんになってるよ?

あ、ほら・・・我慢できなくなったレイラがものすごい怒った顔で訓練所(跡地)に向かっていったよ?


その後、レイラの怒りの怒声が聞こえ、強力な打撃音の後・・・、事態はどうやら収束したようだ。

暫くして満面の笑みを浮かべたレイラが訓練所(跡地)から出てきてヨスミの元へやってきた。


「お父様はもう大人しくなりましたわ。ささ、いきましょう?」

「ア、ハイ」


レイラと共に訓練所(跡地)の玄関だったであろう場所を通過し、中に入ると壁に突き刺さったままのグスタフ公爵とその近くで正座しながらガタガタ震えているユリアの姿が見えた。


「本当にお父様ったら・・・ユリアはまだ12歳の子供なんですのよ?加減という言葉を覚えてくださいまし。」

「すまぬな・・・。まさかあそこまでの逸材だとはつゆ知らず・・・、どこまで行けるか試したくなってしまった・・・。ユリアよ、我を許せ。」

「そそそ、そんなななな、わ、わたたたししは、だだ大丈夫でですすからら・・・!!」


ユリアがとんでもないほど怯えている。

これでもかっていうほど怯えまくっている。


「ユリア、本当に大丈夫か?」

「・・・し、死ぬかと・・・思いました・・・。最初は・・・まあそれでもかなり厳しいモノだったんです。でもどんどんパパの攻撃の勢いが増していって、私は必死に流したり、逸らしたり、防いだりして・・・もう必死で・・・うう・・・、ヨスミお兄ちゃあん・・・」


と耐え切れず、ヨスミへと抱き着きながら泣き始めた。

堪らずユリアの頭を撫でながら、レイラを呼び寄せ、一緒になってユリアを励ましていた。


その後、ヨスミからレイラの方へと抱き着き、ヨスミは立ち上がると改めてとても悲惨な光景となった周囲を見渡す。


一体どれほど暴れればここまで崩壊できようか・・・。

こんなふうになった攻撃を多少怪我を負っているとはいえ、ユリアはグスタフ公爵の攻撃を防ぎ切ったのだ・・・。


確かに逸材と言われれば、逸材なのかもしれないな・・・。


「ほら、ユリア。傷を負った場所を見せてごらん。治してあげるよ。」

「え?ヨスミお兄ちゃんは回復魔法が唱えられるんですか・・・?でも・・・」

「大丈夫、僕のは痛みを感じない回復魔法だから安心して良いよ。」


渋々頷き、怪我を負ったであろう場所を差し出した。


右腕の深い切り傷、左手の打撲や幾つかの指が骨折。

また左肩や腹部、両足に打撃痕と無数の切り傷がついていた。


そして右頬に出来た切り傷からは少量の血が垂れている。


・・・うん、かなり重傷じゃないのこれ?


「・・・お義父様、さすがにこれはやりすぎだと思います。」

「・・・悪かった。」


瓦礫に埋まりながら謝罪をするグスタフ公爵を余所に、ヨスミは千里眼でユリアの全身をくまなく眺め、全ての傷を感知するとそれを転移を持って全て自分へと移した。


「・・・あれ、本当に痛くない。体が楽になった・・・!」

「ともあれ、流れちゃった血はそのままだから今日はゆっくり安静にすること。」

「・・・あなた?頬に傷が・・・一体いつに・・・?」

「ああ、さっき立ち上がって周囲を見渡した時に何か当たった感触があったから、きっと上から小さな瓦礫が掠ったんだと思うよ。」

「・・・そうですの。」


とりあえず、古霊樹について相談するためにグスタフ公爵の方を向き、僕たちの近くへと転移させた。



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