心に負った傷は魔法であっても簡単に治せない
無事、レイラの父君への挨拶兼娘さんを僕にください的な話も無事終わったことだし、ここはひとつ・・・。
「グスタフ公爵様、僕からもお話が・・・」
「・・・お義父様」
「・・・え?」
「我をお義父様と呼ぶがよい。」
・・・誰だこいつ。
え、顔を若干赤らめながら突然何を言ってるんだグスタフ公爵は。
さっきまで威厳たっぷりなカッコよくてクールで渋いイケオジはどこいったよ・・・?
「・・・へ?あ、いや・・・」
「お主は我が娘との婚約を結んだ。故に、お主は我が息子と同義である。故に!今度から我の事はお義父様と呼ぶように!」
「で、でも・・・」
「 よ い な ? 」
「ア、ハイ」
・・・なぜだ。
僕はこの人からの威圧を問題なく受けられたのに、この威圧だけは拒否できなかった・・・。
「息子など持ったことがないからわからんかったが、こういうのも悪くはないモノだな。」
息子って呼ばれるほどの年齢じゃないとは思うけどな・・・。
・・・そもそも僕は何歳なんだ?
「・・・妙なことを聞いてしまうんだけど、グスタ・・・」
「ん?」
「・・・お義父様からみて、僕は何歳ほどに見えますか?」
「確かに妙な事を聞くのだな、息子よ。お主のその身長からして18歳ほどに見える。」
18歳・・・。
あの時、神様には18~20歳の健康体・・・としか言っていなかったし、詳しい年齢は言ってなかった。
だから僕はフィリオラの家で見た時にてっきり自分は20歳だと思っていたけど・・・。
この世界での168cm身長は年齢的に低く見られているのか。
ステータス画面・・・なんて便利なものが出て、自分の詳細を見れるわけじゃないんだが。
「違うのか?」
「いや、合っているよ。」
「可笑しな奴だ、我が息子は。して、我に話とは?何か相談事があったのだろう?」
「そうだった。レイラに関することで話が合ったんだ。」
そこで僕は先ほどの出来事について話した。
怪しい男3人について、ユリアの事。そして何が起きようとしていたのか。
話を最後まで聞き終えたグスタフ公爵は怒りに震えていた。
「まだ諦めておらんかったのか、あの者は・・・。」
「・・・過去にもレイラに関して何かいざこざを起こしていた経歴が?」
「クオンタ侯爵・・・、アイツはレイラを2年前に皇族舞踏会へ我が後継者として紹介するために連れて行った際に気に入ったようでな。我が娘を手に入れようと手を回してくるのだ。」
「侯爵家の人がですか?何かしら問題にならないかそれ・・・」
「ああ。我も何かと探って入るのだが・・・」
「・・・皇室の奴らか。」
どんだけ皇室の奴らはヴァレンタイン公爵家を嫌ってんだよ本当に・・・。
一応、公爵の上が大公、そして皇帝の奴らだ。皇帝が白と言えば白になっちまうような、そんな権力を持っているがために公爵であっても容易に手が出せない・・・。
皇室の奴らが証拠等を握りつぶしてくれるから、皇族派の奴らは好き勝手できるとかもうほんと馬鹿じゃないの・・・
ならいっそのこと・・・、そう。まだこの話がここで止まっている内に僕が皇室の奴ら全員・・・いや、皇国そのものを・・・
「・・・・・・ッ」
「息子よ。それはダメだ。」
何かを悟ったのだろう。
グスタフ公爵がヨスミの肩へ手を置き、先ほどまで昂った感情と極端な計画を制止する。
「・・・なぜですか。」
「先ほど誓ったであろう?我が娘と共に幸せになるのだと。お主が選択しようとしているそれは、たとえ我らに安寧がもたらされても、それはお主の犠牲あってのことだ。そんな幸せは我が娘やお主らの仲間・・・何よりも我が許さぬ。」
「・・・はあ、わかりました。でも手はあるんですよね?」
「我を誰だと心得る・・・?」
「そーでした。お義父様でしたね。」
「ぐふふふ、わかっておるではないか。」
グスタフ公爵の笑う表情はまさに悪役そのものだった。
昔らからずっとやられ続けていたんだろうし、何かしら考えてきているんだろう。
ぱっと出の僕がどうこうするような問題じゃないってことだろうな。
まあ実際にやりようは幾つかある。
この転移の力を使えば、簡単だ。
「・・・ただ、もし僕の宝を奪う輩に襲われた場合は、問答無用で誰であろうと守るために殺戮の限りを尽くすので、そこは勘弁願いたく。」
「その自衛という言葉の裏に隠された言葉、些か物騒すぎやしないか?」
「竜が守りし宝を奪う者よ、自らの死を覚悟せよ。よく言うじゃないですか。」
「我はあまり聞いたことが無いんだがな・・・。」
グスタフ公爵は苦笑していたが、目は笑っていなかった。
それは呆れているのではなく、実際にそういう状況に陥ったら躊躇なくやれ、とそういった目だった。
「さて、今の話を聞いて我も入用ができた。他に何もなければ部屋に戻って休むといい。」
「ああ、そうさせてもらうよ。お義父様。」
そう言い残すと、ヨスミは執務室を出て行った。
残されたグスタフ公爵は窓の外に広がる夜空を見上げ、蒼白く光る月夜を見て思いを馳せていた。
「それにしてもこの我に対してもため口で話してくるとは、大した息子よ。・・・シャイネ。我らの娘レイラはどうやら大物を婿として迎えたようだぞ・・・。」
誰にも聞こえないほどの小さな呟きに反応したのか、1つの流れ星が流れた。
さて、そろそろ風呂にでも入って寝ようか。
今日は色々と体を動かし過ぎたから疲れたな・・・。
剣術かー、まともに剣すら触れないから、打ち合うと絶対に僕の方が弾かれるんだよなー・・・。
だからこそ、死角を何度も狙って打ちあわないよう、直接与えられるような感じでやるしかないんだけど、さすがにそれだけじゃ限界もあるしな・・・。
相手の攻撃を武器で防御なんてできないし、受け止めたり受け流すこともできない。
僕が出来るのは転移による死角からの奇襲攻撃、もしくはブラックリリーを使った直接攻撃。
もしくは対象自体を別の場所に転移させたり、別の物体を上空に転移させて圧死させたりするぐらい。
まあ正直に言えば、これだけで十分なんだよね・・・。
千里眼もあるから、相手の弱点看破で、弱点部位に直接攻撃ができるわけだし。
懸念すべきは・・・、
「集中力、か。長期戦になれば脳への負荷が高くなって自滅するし、集中力も落ちて相手の動きを見切れずに転移回避が遅れてそのまま・・・か。まあ暫くは集中力が持続するような鍛錬でもしようかな。」
そう独り言を言いながら、部屋の前まで来て扉を開けて中に入る。
部屋の奥にあった扉を開け、浴室にて服を脱ぎ、赤い石がはめられた取っ手に触れると淡く光り、繋がった先のシャワーヘッド部分から暖かなお湯がヨスミへと降り注いだ。
その後、体の隅々まで綺麗に洗い終え、何故かすでに溜まっていた浴槽にずっぷりと浸かった。
「あー・・・、真面なお風呂に入るのはいつぶりだろうか・・・。今までは川で水浴びか、お湯で濡らしたタオルで拭いていたかぐらいだったしなー・・・。ああー、やっぱり日本人には風呂が一番だぁ・・・」
「失礼しますわ、あなた。」
「おぉ~・・・、どうし・・、たぁあっ!?」
突如、部屋にバスローブのような薄着のドレスを纏ったレイラが浴室に入ってきた。
「いやいやいやいや!れ、レイラ?!な、なな、なぜここに・・・!?」
「いえ・・・わ、わたくしはただあなた様に見せたいものがありまして・・・」
なぜだ・・・。
今の僕の精神年齢は82歳のおじいちゃんなんだぞ?!
た、たかが女性の裸体を見てしまったぐらいでどうしてこんなに動揺が・・・
ま、まさか今の僕の体に、精神年齢が引っ張られているという事か?
つまり18歳としての健全な男としての精神年齢になってるせいで、レイラのあの、服の隙間から見える胸の谷間、そして生足・・・
ええい、齢(精神延齢)82歳の竜永夜澄!
レイラがあそこまで顔を真っ赤にしながら、勇気を出してくれているのだ。
そんな彼女にこれ以上動揺し続けていれば、彼女の勇気に泥を塗るだけだぞ・・・!
覚悟を決めろ、ヨスミ!
「あ、ああ・・・。すまない。それで、見せたいものってなんだ・・・?」
「・・・その、あの・・・」
だが、そこでレイラの様子がおかしいことに気付く。
恥ずかしい感情と一緒に、どこか怯えているように、体が少し震えていた。
ふと、フィリオラから聞いた話を思い出した。
過去に受けた聞くのも憚れるほどの惨い虐待。
ようやっと気づいた。
ここまでレイラにやらせてやっと気づくなんて、僕はどこまで愚かなんだ・・・。
ヨスミはその場で立ち上がり、浴槽から出るとレイラへとゆっくり歩み寄っていく。
突然近寄ってくるヨスミに困惑しながらも、そのまま抱き寄せられた。
「ごめん。考えが及ばなかった。レイラ、無理はしなくていい。君の過去に何があったのか、何を見せようとしてどうしてそこまで怯え、体を震わせているのか・・・。今はまだ、君の心は傷ついたままだ。それなのに無理やり見せようとしたら、君はもっと辛い思いをしてしまうかもしれない。」
「で、でも・・・」
「大丈夫、僕はどこにもいかない。君の元から離れないし、何を聞いても何を見ても君を手放すことはしない。僕はいつまでも待つよ。君の心が強くなって、見せても大丈夫だって、そう思える時がくるまで、いつだって待つ。だから焦らなくていい。僕の事をもっと信じてくれてもいい。甘えてくれたっていいさ。だからどうか安心してくれ。」
「う・・、うう・・・っ・・・」
慈愛に満ちた表情を浮かべ、レイラを安心させてあげたい。その気持ち一心に、ヨスミはレイラの眼を真っすぐ見ながら、穏やかな口調で語った。
目に涙を浮かべ、ヨスミの胸へと顔を埋め、小さな声を上げて涙を流した。
小さく震えるレイラの体をそっと抱きしめ、背中を摩る。
「大丈夫だ・・・、大丈夫。僕は君をこんなにも愛しているんだから、君の思う心配は決してあり得ないからね。」
6年という歳月に渡って受けた傷は、そうそう癒せるものではない。
彼女が負ったその深い傷をいつしか癒せる存在に、僕はなってみせる・・・。