明らかに主人公のやる事じゃない
どこかの一室。
「・・・ん、ここは、どこだ?ぐああ・・・いってぇ・・・う、腕と足が・・・動かせねえ・・・」
ふと見渡すと自分とは他に2人、仲間が自分と同じような状況であることが理解できた。
自分と同じように両肘と両膝に細長い楔が突き刺さっていた。
すると少し奥の方で何やらものすごく怯えている少女・・・、クオンタ侯爵に頼まれたあの黒髪の少女が部屋の隅で怯えながらこちらを見ていた。
「くそ・・・、そこの女ぁ・・・さっさとこっちに来て俺らを助け・・・」
「ああ?ようやっと起きたか。」
そういって一人の男がコツコツと地を鳴らしながらゆっくりと歩いてくる。
その表情は暗く、きちんと見ることは出来なかったが、その向けられた瞳を見た瞬間、全身を走る恐怖と絶望で体が硬直する。
やべぇ・・・こいつはやべぇ・・・!
どうやったらあんな眼になるんだ・・・・??
人を人と思ってねえあの軽蔑の眼差しは、奴隷商の奴らや平民を見る貴族共と同じ眼をもっていやがるからそんなもんだと感じていたが、ありゃあ格が違う・・・。
「な・・・なな、なんだよ・・・」
「ああ、お前に聞きたことがある。虚偽なく答えることだ。」
「んなこと・・・俺が従うとは・・・ひっ?!」
あああ・・・あの眼は人のする、・・・いや、人がしていい眼じゃねえ・・・。
「おめえ・・・、一体何モンだよ・・・。なんで、そんな眼が出来るんだ・・・。」
「貴様が知る必要はねえよ・・・。貴様に質問した後、残りの奴らにも同じような質問をする。もしそれぞれが別の事を言っていたら、お前たちについているブラックリリーの数を増やす。他2人の仲間がきちんと真実を言うことを祈ってるんだな・・・。」
「ひ、ひぃぃぃいいいいい・・・・!?!?」
それからヨスミは男に、まるで作業のように淡々と質問をしていく。
出し渋ったり、はぐらかそうとすると各関節に突き刺さっているブラックリリーをグリグリと動かし、激痛を与えていく。
それはもはや尋問ではなく拷問・・・いや、一種の人体実験に近いものだった。
どこまで痛みを与えれば情報を吐くのか、どう動かせば抵抗する意志を無くせるのか。
1人目の奴から情報を引き出し尽くした後、そのまま口と目だけを封じ、2人目を起こす。
2人目にも同じような説明をした後、1人目と同じ質問を淡々と話し始める。
度々1人目と違う答えが出る度に、必死に呻き声を上げて悶えていた。
これでどちらかの答えが違うという事。
それらの回答を覚えた後、2人目を同じように縛り上げた後、3人目にも同様の事を繰り返した。
全ての拷問に近い尋問を終え、3人の出した答えのすり合わせを行う。
そうして見えてきた答えはいくつかあった。
まず、皇族の家臣の1つであるヤントラ侯爵家の依頼で、レイラと同じような背丈、恰好、容姿が限りなく近い少女を拉致してくること。
そしてその少女に幻惑の魔術を掛け、本物のレイラ公女に仕立て上げること。
その後、レイラ公女が出かけている時に合わせて騒ぎを起こし、それに合わせてレイラ公女を拉致して偽のレイラ公女をすり替える。
その後、本物のレイラ公女をヤントラ侯爵家へと移送すること。
主にこの3つがこの者たちに課せられた任務であることがわかった。
「・・・君も被害者というわけか。」
「は、ぃ・・・。」
彼女の名前はユリア。
皇国ダーウィンヘルトにあるどこかからの村が襲撃され、その際に見つけて内密にここまで来たらしい。
何とか隙を見て逃げ出したものの、さすがに大人の速さには勝てるはずもなく・・・。
「ユリア・・・君は本当にこいつらの仲間ではないんだな?」
「ち、違います・・・!私は!私は・・・う、ううっ・・・」
「・・・わかった。君を信じよう。ユリア、僕の傍に来てくれるか?」
「ひっ・・・・」
僕から向けられる目線に耐えられないのだろう。
ユリアは酷く怯え、先ほどよりも強く震えていた。
まあ無理もないだろう。
こいつらと共犯だと思っていたために、この男たちと同等に見ていた。
未だに信じ切れていないとはいえ、疑いの眼は晴れてはいない。
「何もしないよ。だから僕の傍に。」
「ほ、ほん・・とう・・・ですか?」
「ああ。君が僕に手を出さない、僕も君に手を出さない事を誓う。」
ゆっくりと、ゆっくりとした足取りで震える足で近づいてくる。
そして、ヨスミの傍まで来るとそっとヨスミから差し出された手を取った。
「・・・いい子だ。」
近くまで来て初めてユリアの容姿がわかる。
確かに黒い長髪、背丈はレイラよりも数センチ低く、そしてその瞳の色はコバルトブルーではなく、輝くようなルビーレッドだった。
だが、レイラに似せて連れてこられたとは言っても・・・
「君の胸は(レイラより)小さいんだな・・・」
「・・・ブチッ」
「ん?」
何かが切れた音が聞こえた。
その音に気付いた時には僕の頬へ吸い込まれるかのように迫ったユリアの平手がすぐそこにあった。
その直後に右頬に走る痛みと、バチィン!という響き渡るビンタ音だった。
「胸が・・・、胸が小さくて悪かったですね!!」
「・・・あー、すまない。失言だった。だが、僕への恐怖心はだいぶ薄れてくれたようでなによりだ。」
「あっ・・・そ、その・・・ご、ごご・・ごめんな、さい・・・!!私、私から・・・ビンタ、しちゃって・・・」
途端にまた表情に絶望を浮かべ、体中を振るわせ始めた。
・・・あー、さっき僕が言った”君から手を出したら~”ってやつを気にしているのか。
「ああ、今回は僕が先に君の体の一部を侮辱したからね。気にしなくていい。」
「・・・はい、わかりました。」
「それじゃあ君は今から暫く目と耳を塞ぐこと。」
「えっ?どうして・・・」
「僕がこれからやろうとしていることを、君は見てはいけない。心の傷になってしまうからね。」
何かを察し、急いで耳を塞ぎ、目をぎゅっと瞑った。
それを見てどこかレイラの幼き頃のような姿に見え、つい頭を撫でそうになったが我に返ると手を引っ込める。
そのままゆっくりと立ち上がり、必死に呻いている3人の男たちの元へ向かっていく。
「さて、待たせてしまったね。君たちの話を聞いて久々に心の奥底に閉まってた感情の一部が漏れ出してしまったよ。だからこれは君たちが悪いんだ。」
「んー!!んんーーー!!!」
「一人は返すよ。依頼主にきちんと伝えてくれ。もし僕の大事なレイラに手を出すつもりなら、地獄以上の苦しみを味合わせると。どうあがいても絶望しか存在しえない地獄を見せると。だから君たちには選ばせてあげよう。たった一人返す人間を、お前たちで決めるといい。その人だけを無事に返すと約束するよ。」
そういって3人の各関節に突き刺していたブラックリリーをローブ内に転移させる。
なんとか動けるようになった男たちは血走った眼でそれぞれの顔を見やると、上手く動かない手足を使って・・・
――――殺し合いを始めた。