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実力の証明


「レイラお嬢様に旦那様だとぉー!」


明らかに兵士長と思わしき体格と装備が傷だらけの、まさに歴戦のヴァイキング・・・じゃなくて兵士が詰所の奥から姿を現した。


「れ、レイラお嬢様・・・その男が旦那様だっていうんですかい・・・?!」

「はいですの・・・。へベラオ兵士長、これからはわたくしの旦那様に粗相することは許しませんよ。」


どうみてもあり得ない・・・といった絶望的な表情を浮かべた兵士長が何度もヨスミとレイラの顔を交互に見ている。


「で、ですがレイラお嬢様・・・。こんな平民が公爵家令嬢の旦那など・・・」

「・・・ほう、わたくしの旦那様を認めぬと?」

「当たり前ですぜ!あまりにも身分が違いすぎやす!」

「これは、わたくしのお父様もお認めになっていることですのよ。それにお忘れで御座いますの?我がヴァレンタイン公国は実力こそ全て。わたくしの旦那様・・・ヨスミ様はわたくしの実力を遥かに凌ぎますわ。もしかしたら、わたくしのお父様に匹敵する実力の持ち主かもしれませんわ・・・。」

「そ、そんな馬鹿な・・・!」


大きく後退りし、がっくりと肩を落とす。

小刻みに震え、拳を強く握ると真っすぐにヨスミを見た。


いきなり熱烈な眼光を向けられ、とてもめんどくさそうに深いため息を返す。

なぜ面倒くさがっているのか、それはこの男が次に何を言うのか簡単に予想がつくからだ。


「貴様、名はなんという・・・!」

「・・・ヨスミ。ただのヨスミで大丈夫です。」

「ヨスミ・・・貴様、俺と模擬戦を行え!レイラお嬢様が認めた実力、俺にも見せてみろ!」


まあそうなるよねえ・・・。

模擬戦だからそこまで大きな怪我とかはしなさそうだから別にいいんだけど。


「別に構いません。」

「ふんっ、逃げねえとはいい心意気だなあ。それと、俺にはそんな堅っ苦しい喋り方はしなくていいぜ。」

「・・・わかった。」

「俺の名はベベラオ。ベベラオ・フォゼンテだ。これでも男爵の地位をもらってるぜ。それじゃあついてこい、ヨスミ!」


そう言いながら、ベベラオに連れられて奥へと入っていった。






使用武器はなんでもいいと言ってたけど、そもそも使う武器がないし、僕の戦い方自体が武器をあまり必要としないものだからなー・・・。


だからといっても、僕の戦い方は手加減できるようなものじゃないし、使うとなると確実に怪我、または大怪我に繋がるものばかりだ。


「ちなみに、能力の使用等はどこまで許されるんだ?僕は剣術とかそういったものはないぞ?」

「そんなもん、何でもありに決まってるだろ?模擬戦だからと言って、剣術だけで実力を図ろうなんて思っちゃいねぇよ。いっただろ?おめえが認められたその実力を見せろってよ。」


だからといって本気でやろうとしたら、開始直後に殺せる自信があるんだよなあ・・・。

とりあえず、ベベラオ自身への能力はしないでおこうか。


「・・・なら僕はこれを使うよ。」


そういって僕が手に取ったのは普通の木剣。

レイラとハルネの特訓に付き添って何度も使った練習用武器。


使うのであれば、一番よく手に馴染む武器を使えば立ち回りとか間合いとかも掴みやすい。


「なら俺はこれだ。」


ベベラオが手にしたのは大型の斧だった。

それを両手に一本ずつ手に取り、双大斧としてまるで武芸が如く軽々と振り回す。


「やっぱ木製大斧だと軽くて仕方ねえな。」

「あれでも一応、20kg以上はするんですけどね・・・。」

「へー、それをあんな簡単に振り回せるなんて、兵士長は伊達じゃないわね。」


遠くの方で見守るレイラやフィリオラたちが、ベベラオの様子を見て感心している様子だった。

実際にあんな風に振り回すのは容易な事じゃない。


武器の重心だったり、木製が故に重量も違ったりするはずなのに、それを物ともせずに扱うのには、その武器に対しての知識、熟練が高いという事。


「確かに、実力はあるみたいだね。」

「何年兵士長を務めてきたと思ってるんだ。こんなもん、造作もない!」

「・・・そうだね。それじゃあ、始めようか。」

「おうよ、いつでもいいぜ!」


双大斧を構え、体を少しだけ落とす。

ヨスミも軽く剣先をベベラオへと向けるだけだった。


(・・・改めて対峙して感じるが、その構えは隙だらけのくせして、その目に宿る殺気は尋常じゃねえな・・・。ありゃあ、間違いなくやってる眼だ。それも躊躇いもなく、しかも作業感覚で殺しまくってやがる・・・。)

「・・・それじゃあ、いくよ。」

「おうよ!いつでもこい・・・なっ!?」


10mほど離れていたはずのヨスミの姿が、瞬き1回ですぐ目の前に”移動”していた。

その構えは完全に振りかぶっており、あまりにも異様なその状況に口元が引き攣り、冷や汗がどっぷりと流れる。


が、


「舐めるなぁ!!」


木剣の下段からの切り上げを上半身を大きく反らして躱し、その勢いで双大斧を交差するかのように切り払う。

が、それは空を切り、気が付けば見上げている視界の先に、上空から木剣を振り下ろすヨスミの姿が目に入った。


体勢が崩れないように左足を一歩後ろに下げ、腕を引いて双大斧をクロスさせて持ち上げ、ヨスミの木剣を防ぐ。


「はぁぁぁぁああああー!!」


そのまま双大斧で木剣を弾き、急いで上体を起こすと死角になっている背後に向けて体ごと回転させて、双大斧で切り裂く。


だがそこにはヨスミの姿はなく、ふと視界の先で距離を離してベベラオの様子を窺っていた。

姿を確認したと同時にまたもや一瞬で姿を消したかと思うと背後から殺気を感じ、上体を反らしながら後方へ飛び、間一髪でヨスミの木剣が空を切り払い、空中で1回転した後に地面へ着地した。


その直後に地面を蹴ってヨスミへと跳躍し、体を捻って双大斧による2連撃を叩き込もうとする。

だがその攻撃が当たる直前でヨスミは姿を消し、後方へと距離を取られていた。


空を切った双大斧の2連撃は地面へと直撃し、地響きと共に土煙が舞い、地面は大きく抉れていた。


(おいおい、マジか。なんつう動きだよ。ほんと目で全然追えねえなあ・・・。)

「まだまだいくよ。」


そういうとヨスミはベベラオに向けて剣を真っすぐ投擲したと思ったら、一瞬にして顔面前木剣は移動していた。


(んだよ、くそ!)


当たる直前に腕を振り上げて木剣を防ぎ、防がれた木剣は回転しながら宙へ飛んでいったかと思えば投げられたはずの木剣はヨスミの手に収まっていた。


ベベラオは再度跳躍し、その勢いで双大斧を上段から振り下ろすが、やはりそこにはヨスミの姿はなく、ヨスミは後方の上空に移動しており、落ちながら剣を振り下ろしてきた。


ベベラオは地面に突き刺さった双大斧を軸に、体を捻って落ちてくるヨスミへ横蹴りを繰り出したが、当たる直前に姿が消え、距離を取って遠くの方へ移動していた。


双大斧を抜きながら、地面を抉り、瓦礫を弾け飛ばす。

無数の石や瓦礫が散弾のように飛んでいき、ヨスミは飛んできた石の合間を瞬間的に移動しながら避け、そして一気にベベラオと距離を移動すると木剣を振り下ろすが、双大斧をクロスさせてそれを防ぐ。


「まだまだぁ!! <身体強化(フィジカルブースト)>!!」


体が一瞬光と同時に先ほどよりも動きにキレが増し、先ほどよりも早い連撃をヨスミへと繰り出す。

それら全てが目にも止まらぬ速さで全てを躱していく。


全てを躱した後に一気に距離を取り、再度木剣を構える。

ふぅーっとため息をつき、双大斧を回転させて構え、片方の大斧を肩に担ぐ。


「やるじゃねえか、ヨスミ!ここまでやるたあ、驚きだぜ!」

「僕もだよ。あんなの人間の動きじゃないよ。」

「これでも俺はAランク冒険者で、5度行われた領地戦を潜り抜けてきたんだぜ?ちなみに対人に関しちゃ俺はSランク冒険者にも匹敵するらしいぜ?」


確かにあんな動きしてくるんじゃなあ・・・。普通の動きじゃないし、一度だって僕の攻撃は当たらなかった。


それにスキルだって<身体強化>しか使ってない。しかも後半のあのラッシュにのみ。

スキル無しであの動きはさすがになー・・・。


「しっかしよぉー、おめえの攻撃は当たらなかったが、俺の攻撃も当たらなかったんだよなぁ~・・・。ったく、ここまでだ!このまま続けても、先に俺が疲労でだめになっちまう。それにおめえ、まだ手隠してるだろ?」

「・・・バレたか。」


そういうと、ベベラオの持つ双大斧をヨスミの真横へと転移させた。

突如、軽くなった両手に違和感を感じ、ヨスミの横に移動した双大斧を見て何回か瞬いた後、腹からこみ上げるとある感情を我慢できずに口から吐き出した。


「がーっはっはっはっ!!いやー、そうかそうか!おめえ、つえぇな!いやー、まいったまいった!認めてやるぜ、おめえは確かにレイラお嬢様の旦那だ!」

「・・・ありがとう、ベベラオ。」


そういってヨスミとベベラオは互いに堅い握手を交わした。



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