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・・・ああ、嫁の抱擁は精神安定剤だな


昔からこういった話を聞いたことはあるだろう。

~ドラゴンの秘宝を奪う者には、ドラゴンの大いなる怒りを買うことになるだろう。~


――なぜこんなことをするんだ・・・!


誰かがそう問いかける。

それが誰なのかは知る由もなし。


「我が野望のために・・・。」


――野望のためにこのような非道な行為を繰り広げているなんて・・・!!お前には人の心はないのか!この怪物が・・・!!


人に欠ける慈悲など一切ない。

貴様たちは僕の宝を奪ったのだ。


「怪物は果たしてどちらやら・・・。」


――何を言っている・・・!違法な人体実験を繰り返すお前は我々と同じ人間としては認められない!お前こそ人類にとっての【世界最大悪(ヴィラン)】だ!


最大悪・・・


「・・・ふは、ふははははははははははっ!!ふーっはっははははははははははは・・・・!!!」


「一体何がおかしい・・・!何百、何千と貴様は罪なき人間たちを拷問にかけ、残虐極まりない人体実験の道具とした!そんな大罪を前にして、なぜそんな顔ができる!なぜ、そこまで醜く笑えるのだ!?」


「なぜ・・・、なぜ笑えるか?貴様はそう僕に問うたか?この僕に、そう、問うたのか!?我が宝を、至高なる宝玉を奪ったお前たちが、僕にそれを問いかけるかぁああ!!!」


周囲を吹き飛ばし、夜澄の周りを囲む特殊部隊を一瞬にして蹴散らした。

先ほどまで対話を試みていた部隊長も風圧に吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。


「な、なんだ・・・これは・・・」


「神の力だよ・・・。全てを失った僕を哀れみ、授けてくれたたった一つの希望だよ。わかるか?もはや僕を止める楔は貴様らが抜き去ったではないか・・・?ならば僕は好き放題させてもらうだけだ。人体実験?残虐なる拷問?だからどうした?まだこの世界には何十億と被検体(モルモット)はたくさんいるんだ。()()()()()()()()()()()だぞ?」


「たった・・・、たった、だと?!その人数を貴様は、たった、という一言で言い表すつもりかぁ!!もはや問答無用だ・・・!今すぐ、あの【世界最大悪】を殺せ!あの人間を活かしてはおけない・・・!今すぐに射殺せよ!」


その号令を受け、あの衝撃から立ち直った特殊部隊の隊員たちが銃を構え直し、狂人者へと発砲した。

だがその弾丸は狂人者に当たる事はなかった。


狂人者の直前に薄い膜のようなものが張られているようで、それに全て引っかかる様に動きを止めていった。


「ば、馬鹿な・・・!?」


隊員たちの動揺が走る。

明らかに非現実的な光景が目の前で起きているのだ。


科学では説明のしようがない現象に、恐怖や怯えに大半の隊員が支配され、その場から逃げ出し始めた。


「逃がさんよ・・・?せっかくの新たな被検体なのだ。しかも屈強な体を持つ被検体など中々手に入らないレアものときた・・・。」


隊員たちはたった一つしかない出入口に押し寄せるが、見えない壁に塞がれているようでそこから出ることは敵わなかった。


「化け物がぁぁああああー!!!!」


声を上げて狂人者へとナイフを抜いて飛び掛かる。

だが突然、胸の辺りを貫かれたかのような今までに感じたことのない激痛が走り、その後に続いて強烈な衝撃によって吹き飛ばされた。


何回転か地面を転がって吹き飛ばされていった。


起き上がる事さえできず、先ほど激痛が走った胸に手を当てると、そこには何もなかった。

大きな穴が開いており、そこから血や内臓がドバドバと流れ出し、言葉を発することもできずにただただ呻き、そのまま絶命した。


「ば、化け物・・・?!」

「くるな・・・来るなぁー!!」


「さあ、君たちは我が野望を叶える道具として大いに役立ってもらおうか・・・!!」


お前たちは我が宝を奪い、我が怒りを買ったのだ。

決して触れてはならぬ怒りを買ったお前たちに、一切の慈悲もかけず、容赦もしない・・・!


「我が野望のため、大いに役立ってくれたまえ・・・。」






「・・・なた。あなた・・・起きて・・・!!」

「・・・レイ、ラ?」


誰かに揺り起こされ、重たい瞼を開ける。

起こしてくれたレイラの表情は最近よく見せるようになった心配顔を向けていた。


「あなた・・・、さっきまで魘されていたのに、どうして笑っているの・・・?」


ふとレイラのコバルトブルーの瞳に映った自分の表情・・・、あの夢の中で見た狂人者(ぼく)の酷く醜い笑みがそこに映っていた。


自分の頬に手を当て、口元に触れる。


「あれ・・・、どうしてだろう・・・。ごめん、自分でもよくわからないがさっきまで見ていた夢が影響してると思うんだ。多分すごい気持ち悪い表情をしてると思うから、あまり見ないでくれると・・・」

「あなた・・・。」


なんとか必死に崩れないその笑みを隠そうと顔を背けようとした時、レイラがヨスミの両頬に手を添え、無理やり顔を見合わせる。


「気持ち悪くないですわ・・・。その表情は、醜いわけじゃないわ。とても悲しそうで、今にも泣きそうな辛い表情でしたわ・・・。その夢がどんな夢だったのかはわからないけど、その心は今にも壊れてしまいそうな・・・そんな危なく見えるんですの・・・。だから今のわたくしにできるのはこんなことぐらいしかありませんわ・・・。」


そういって両頬から後頭部に手を回し、そのまま自分の胸にヨスミの顔を押し当てる。

ほどよい大きさの、心地よい柔らかさに、休まる人肌の温度、そして落ち着く甘い香りが、先ほどまで不安定だったヨスミの感情が落ち着いていく。


ああ・・・、暖かい。


「悲しい時や、辛い時はいつでもわたくしの胸をこうして貸し出しますから、溜め込まずに泣いて吐き出してくださいですわ・・・。」

「・・・涙はとうの昔に枯れてしまったみたいだ。でも、すごく落ち着くよ・・・。すまない、少しだけこうさせてくれ・・・。」


どんな夢を見たら、あんな絶望に満ちた表情を浮かべられるのかしら・・・。

なんだかヨスミ様の口調が変わってしまうほどまでに、ここまで弱り切っているほどまでに・・・。


泣きたくても涙が枯れたために泣くこともできず、ただただ笑う事しかできなくなるほどまでに、心が崩壊寸前にまで追い込まれていることも・・・。


今は抑え込んでいるであろう、その胸の内に居る一人の女性に関してのことなのかしら。

いつしかわたくしがヨスミ様の心を癒す楔になれる日がくるのかしら・・・。


レイラの胸に顔を埋め、小さく震えるヨスミの頭を、まるで赤子をあやすかのように撫でる。






ヨスミがハルネに謝りに行った後、宿屋に戻って皆で夕食を取り、軽い談笑の後にそれぞれの部屋に戻って各々ゆっくり休むことになった。


今日のお昼に話していた話題がずっと心に残っていたヨスミは自問自答を繰り返し続けていた。

結果的に答えは出ず、そのまま寝てしまったがためにこんなにも揺さぶられてしまう夢をみてしまったのだろう・・・。


「・・・ああ、嫁の抱擁は精神安定剤だなぁ。」



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