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不完全燃焼な終わり方



「・・・間違いないな。この魔法士はアホデブか・・・こほん、アファタル公爵家の者ですね。自分たちの不利な証拠を掴まされているので、それを消すために送られてきたんでしょう。まさかここまでの事をやるとは思ってもみませんでしたが・・・。」

「あのアファタル公爵(のうきんバカ)ならばこういったことを堂々とやりそうな節はありますわ・・・。」


レイラはどこか諦めた表情でそう呟く。

アファタル公爵家の面倒くささはすでにこれでもかというほど体験している様子だった。


「こういったことを堂々と他国の領地でやらかすと、国際問題に発展するって普通わかるモノだと思うんだけどなあ・・・。」

「皇国もアファタル公爵がやらかす度に後始末をしているみたいで、手を焼いているみたい。」

「アファタル公爵は戦いに関しては天才なのですわ・・・、戦いに関しては。」

「まー、あの子はねー・・・。あの頭には筋肉しか詰まっていないんじゃないかと思うほどの真っすぐ過ぎる子なのよね。真っすぐ過ぎて本当に・・・。」


フィリオラも知っている人物な用で、苦笑しながらもフォローはいれている様だった。

まあ確かに頭が固すぎて筋肉になっているような人物には真面な政治はできない。


故に普通であれば宰相や参謀などといった知略的人物を傍に置いて、意見を聞いたりする相談役にすること。

でもアファタル公爵家の人がこういうことを平気でやっているとなると・・・。


「・・・あなたの想像通りですわ。カースティン公爵家の人々は全員が騎士の家系ですの。カースティン公爵家の礎となっているのは騎士道精神ですわ。」

「これが、騎士道精神・・・?」

「何かとこじらせておりますの・・・。」

「騎士の家系でありながら魔法使いを使うことに関しては・・・」

「・・・察して。」


あー、どういう相手か分かったかもしれないな。

それにしてもあのグスタフ公爵と旧知の戦友となると、数少ないSランク冒険者の1人・・・またはそれに近い実力の持ち主なのだろうか。


それから衛兵を呼んで魔法使いを捕え、ヨスミは懐からインドラバードの羽根を取り出して魔力を込め、インドラバードへ連絡を入れる。


これで後少ししたらインドラバードがこの男を殺しに来るのだろう。


「さて、これで本当の意味でゆっくりできるね。レイラ、良かったら男を引き渡した後、僕と一緒にディアネスと共に町の散策にでも行かないか?」

「まあ、嬉しいですわ!」

「あーぅ!」

「それじゃあ私はエルちゃんと一緒にあの魔法使いを連行してくるわ。エルちゃん弱いし、私が傍で守ってあげないと。」

「弱いってなによ!これでも私は元Aランク冒険者なのよ!そんじょそこらの奴らには負けるつもりはないわよ!」


元ってことは今は冒険者は引退しているってことか。

なんだかんだ言いつつも、スライムスタンピードやインドラバードの襲撃に傷1つ付かずに乗り切っているんだ。


それにヴァレンタイン公爵家は代々実力を重視しているから、自らに仕える家臣が高ランク冒険者だったとしても不思議ではない。


「それじゃあ私たちはこれで失礼するわね。紅茶とお菓子、美味しかったわ。」

「またお呼ばれしたいほどだったわ。ありがとね。」


そういってフィリオラたちは衛兵たちと共にその場を後にした。


その後、残されたヨスミたちはインドラバードが来るのを待って、テーブルを囲って談笑しているとどこからか雷雲が轟く大気の震えが感じ取られる。


ふと上空を見上げると、巨大な影が見える。


「近くにでも住んでいるのか?来るにしても早すぎるでしょうに・・・・。」

『来たぞ・・・。』


すでに怒りに満ちた声が周囲に轟く。

その言葉に男は目を覚ましたのか、周囲を見渡し、空を見上げると絶望を浮かべた表情に変わる。


「ひ、ひぃいぃいいいいい!??!」

『・・・貴様か。我が子をその手に掛けた****は。』


・・・あるぇ、一部言葉が聞こえなかったぞぉ。

明らかに憤怒を超えすぎてもはやそれを言い表せない言葉が無いために、この世界で言語化できなかったかのような・・・。


『この時を、この時をどれほどまでに待ちわびたか・・・!!!ヨスミよ、私との約束を堅実に守ってくれて心より感謝する・・・。』


インドラバードから薄く伸びた紫電の帯が男に触れると、絶叫を上げながら身体が持ち上がる。


「い、いや・・・やめてくれぇ・・・!悪かった!俺が悪かったから!!頼む、助けてくれぇ!!いやあああ、誰かぁぁああ!!」

『ではな、ヨスミよ。その羽根は預けておこう。もしどうしようもない時、その羽根を投げるがよい。ヨスミ以外の魔力に触れた時、そこに私の紫雷を落とそう。私の紫雷は浴びたものの魔力回路を見出し、魔法を暫く使えなくする。それで危機を脱するとよい・・・。』


インドラバードは男を足で掴むと、そのまま飛び去って行った。

その姿が完全に消えるその瞬間までずっと、男は叫び続けていた。


完全にいなくなってから、別の方向から今まで姿を隠していた疾蛇竜がヨスミ達の前に姿を現す。

やはり天敵がいたからこそ、あの戦いからの一件から姿を消していたのはそのためだったのだろう。


甘えるような声を出しながらヨスミに顔を押し付ける。


「おー、よしよし。ルーフェルースや、やっぱりインドラバードは怖かったかー。」

「きゅるるぅー・・・」

「・・・何度見ても違和感しかありませんわね。」

「ええ。生ける災害と言われた疾蛇竜のこんな姿を見ることになるなんて・・・。」

「きゃーきゃー!」

「あら、ディアネス?あなたも遊びたいの?」


とここでディアネスが必死に手を伸ばして興味を示していた。

ルーフェルースは自分に興味を示してきたディアネスの方を見ると、まるで自分よりも高位な存在に敬愛の意味を示すかのように、頭を静かに下げた。


「これはいったい・・・。」

「テイム・・・ではなさそうですわね。」

「疾蛇竜が頭を垂れるほどの高貴なる存在、というわけですか。」


うーむ。


水堕蛇から生まれた子は水堕蛇ではなく、人の赤ん坊。

この時点で明らかにおかしかったが、僕の魔力とレイラの魔力が注がれ・・・あれ?


そういえば僕に魔力なんてあったのか?

卵に何度も触れたり撫でたりヨチヨチしたりしていたけど、魔力を注ぐようなことはしていなかった。


レイラの方はわからないが、少なくとも僕は意識してしたことはなかった。

でも、フィリオラはあの時、”確かに僕とレイラの魔力が流れているのを感じる”と言っていた。


つまり僕には魔力があり、気が付かずに魔力を流していたということ。

だが僕には流すようなことをしていなかった・・・ということは、卵に近かったもの・・・それか卵に触れた人から無条件に魔力を吸い上げていたということか。


それで生まれてきた奇跡的に人の比率が増えたことで人の赤ん坊になったとすぐに想像は出来たけど・・・そのイレギュラーな影響がこの状況を生み出した・・・のか?


そもそもあの水堕蛇事態に何かしら特異個体だったのか。


「でもまあ、良き遊び相手になってくれるみたいでよかった。」

「・・・そうね。どうしてディアネスに敬礼しているのかは後々考えましょ。ルーフェルースはこうして味方になってくれるみたいだし、いざとなったらハルネにディアネスを託してルーフェルースに乗せて逃がすこともできそうね。」

「レイラお嬢様、それは・・・」

「いい、ハルネ。いざというときはこの子を必ず守ること、いいわね?」

「・・・・かしこまりました。」


どこか不服そうなハルネは名を受け、深くお辞儀する。


<・・・ハルネ、聞こえるかい?>

「ひうっ?!」


突如、ハルネの耳の奥から囁かれるようにヨスミの声が聞こえてくる。


鼓膜に直接触れるか触れないかの位置で聞こえ、直にその声の振動と吐息のようなくすぐったい感覚が直に伝わり、一瞬腰を抜かしそうになるも何とか堪える。


(これは、ヨスミ様の声・・・でも一体どこから・・・耳が、くすぐったい・・・)

<ごめん、ハルネの耳中に小さな転移窓を展開してそこから声を送っているんだ。レイラに感づかれるといけない内容なんだ。すまないが耐えてくれ。>


全身を駆け巡る快感にも似たくすぐったさに足の力が徐々に抜けそうになるも必死に堪える。


「・・・あれ、ハルネ?どうかしたのです?」

「い、いえ・・・なんでも、ありま、せんわ・・・。」

<いいかい?もしそのような状況になったら問答無用でディアネスだけじゃなくレイラも連れて逃げてくれ。例え気絶させてでも、レイラとディアネスを連れて行くんだ。>

(は、い・・・わかり、ました・・・)


何とか平常心を保とうとするも、ヨスミが話す度に全身を駆け巡るその快感とくすぐったさは想像以上だったようで、もはや立つことさえ精いっぱいだった。


「ハルネ?本当に大丈夫?さっきからすごい顔を赤らめて体を震わせてるけど・・・」

「なんでも、ありま、せん・・・。」

<すまないが、よろしく頼むよ。>


その言葉に小さくカーテシ―で返し、今にも倒れそうな体を近くの台車に縋りつくように体を預ける。


「それ、では・・・片づけて、参ります・・・ので、これで、失礼致します・・・。」

「そ、そう・・・?もし体調が悪いなら、そのまま休むのですわよ?」


最後の力を振り絞ってレイラに挨拶を返すと、震える体で台車を押しながら一瞬、真っ赤に顔を染めた恨めしそうな瞳をヨスミに向け部屋を出て行った。


あー・・・、後でハルネに謝りにいかないといけない奴だこれー・・・。



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