やられそうになったらやり返す、倍返しだ!
インドラバードによる襲撃の事態も収束し、それから数日後が経過した。
あれから男は体を動かせるほどまでに回復し、その後町の衛兵に連れていかれた。
この町の町長・・・、いや今の時期だと領主様なのかな。
エルファスはその男に拷も・・・、尋問を行い、その背後にある関係者について吐かせていた。
インドラバードと交わした約束を、連れて行く際にきちんと説明したので殺しはしないはず・・・。
アリスとシロルティアは共に冒険者ランク上げに勤しみ、僕と同じGからFランクに上がっていた。
フィリオラはエルファスの元へ行き、彼女の手伝いをしているそうだ。
僕はというと・・・
『わーい!』
「きゃーう!」
「かぁいいなあぁあ・・・・・」
ハクアとディアネスが楽しそうに遊んでいる姿を見守っていた。
「ちょっとあなた、頬が緩みっぱなしですわよ?まあ気持ちもわからなくもないですけど・・・。ハルネ、菓子と暖かいミルクの用意を。そろそろあの子たちの小腹が空く頃ですわ。」
「はっ、かしこまりました。」
レイラはハルネの命を受け、キッチンへ入っていった。
ヨスミはきゃっきゃっ!と楽しそうに遊ぶ2人を慈しむような表情で眺めていたが、レイラの肩に手を置いてそっと抱き寄せる。
「あ、あなた・・・?」
「我が子も大切だけどさ、それと同じくらいレイラの事を大切に思っているんだ。君と婚約を結んでまだ日も浅いのにあんな可愛らしい子供を授かることになったけど、これから君と作っていくはずだった時間はたくさん作っていくし、大切にしていくつもりだから。」
「そう、ですの・・・。そう思っていただけていただけていたのですね。ありがとうですわ、あなた・・・。」
レイラはヨスミの体に自らの体を預け、肩にかけていた手を頭に映し、髪の毛の感触を確かめるかのように優しく撫でる。
いつか夢見た光景。
前世では決して成し得なかった夢であり、憧れた幸せであり、そして手が届かなかった空間・・・。
今度こそ、僕はこの幸せを守る。
その力も手に入った。だがまだ足りない・・・。
まずはこの千里眼を使いこなせるようにしないと。
「お待たせいたしました。」
ハルネが様々な甘味を乗せた台車を運びながらキッチンから戻ってきた。
「よし、ここで休憩しよう。みんな、おやつの時間だ。」
『わーい!』
「あーう!」
ハクアはテーブルにつき、レイラはディアネスを抱き上げるとテーブルにつく。
ヨスミはハクアに幾つかの菓子を皿に装ってあげると、ハクアは美味しそうにお菓子を頬張る。
レイラはディアネスに哺乳瓶を咥えさせ、飲みやすい様に持つと美味しそうに飲む姿を眺めていた。
ほんと、こういう時間が過ごせることに感謝だな・・・。
そんな時間を優雅に過ごしていると、そこへエルファスを連れたフィリオラがやってきた。
「あら、ヨスミ。これって所謂ティータイムってこと?」
「きたか、フィリオラ。良かったら君たちもどうかな?」
「ご相伴に与かれるってわけね。いいわ、話したいこともあったし。エルちゃんもいいでしょ?」
「みなさんがよろしければ、ね。」
ハルネに頼み、席を二つほど設けて座らせるとハルネは2人にティーカップを用意し、慣れた手つきで紅茶を注いでいく。
「ん~・・・、おいしいわ。」
「あの双蛇のハルネが入れた紅茶とは思えないわね。」
「双蛇の、ハルネ・・・。冒険者での通り名みたいなものか。」
確かにハルネが使う武器、鎖斧の戦い方からしてそう呼ばれるのも納得か。
鎖斧に付いた鎖に魔力を通せば自由自在に動くから、それが双蛇に例えられたんだろう。
訓練所で何度も手合わせした時にその戦い方を何度も見てきた。
ハルネとはまた別に2匹の蛇と戦う感覚には思う様に戦い辛かったな・・・。
「それで、ここまできたのはただティータイムをしにきたわけじゃないんだろ?」
「・・・そうね。一応ご報告を。あの男から得られる情報は全部吐き出させましたから。あの男を返しにきました。」
エルファスは指を鳴らすと、魔法文字で装飾された腕輪で拘束された男が浮遊しながら運ばれてきた。
近くまで来た男のフードを取ると、その男を知っていたのかハルネの表情が一瞬暗くなったように見えた。
この男がインドラバードの子供を殺した人物・・・、何をしたらこんな醜い顔をしているのやら。
「そうか。じゃあインドラバードに連絡を入れておく。アイツが来たらその男を渡す・・・」
「ヨスミ!!!」
その時、ヨスミ達のいる場所に不安定に揺らぐ魔力磁場が発生し、それが徐々に熱を帯びていく。
次の瞬間、足元に魔法陣が展開され、そこから流れてくる別の魔力の波動を受け、絡み合うと一つの形へと作られていく。
「<バーニングストーム>!!」
どこかからそう詠唱を叫ぶ魔法使い。
ヨスミ達の足元に展開された魔法陣から、巨大な螺旋する炎の竜巻が発生・・・するはずだった。
「これで任務は・・・、は?」
ふと足元が光り、下を向くとヨスミ達へ向けて展開していた魔法陣が自分の足元に広がっていた。
「ば、ばかな・・・!?ま、魔法障壁・・・ぐわぁぁぁああああああ!!!」
巨大な炎の竜巻が魔法使いを包み込むように天にまで昇った。
周囲に高温まで熱せられた大気を撒き散らし、周囲の木々がその熱に当てられて燃え上がる。
無数の火の粉が周囲に飛び、それが火種となって地面が燃えていく。
これだけでもその魔法の威力がいかに強いか示すには十分だった。
「いやー、かなり強力な魔法を放ったんだなー。」
「・・・へ?あれ、なんで生きて・・・」
エルファスは目を開け、なぜ自分が生きているのか理解できないのかきょろきょろと周囲を見渡していた。
「もしかしたら、この会談についてすでにどこからか情報が洩れ、この男とエルちゃん、そして邪魔だったレイラ公女が確実に一緒に居るタイミングで始末できるチャンスを・・・」
「レイラも・・・狙っていた、と?」
「あー、落ち着きなさいヨスミ。言葉にしちゃった私が言うのもなんだけど、あくまで可能性の話よ。」
「ちょっと待って、いやそこじゃないでしょう?私たちの足元に展開されてたはずだよね?なんで私たち生きてるの!?」
そんなことはお構いなしに会話を続けるヨスミとフィリオラについつい突っ込まれずにはいられなかった。
レイラはディアネスを抱きながら頭を撫でて落ち着かせており、ハルネはテーブルの上を片付けていた。
「いやいや、なんで普通にしているのよ?明らかに今私たち死ぬところだったじゃん!」
「あの人ならこれぐらいなんとかできるってわかっていましたわ。」
「そうですね。ヨスミ様なら今の状況をどうにかしてくれると信じておりましたので。」
「まあー、ヨスミの能力ならもしかしたらとは思ってたけどねー。」
「・・・どんだけ頼ってんのよ。期待掛け過ぎて重すぎだからね、そんなの・・・。」
実際、僕がやったのは魔法陣の転移だ。
僕たちの足元に広がっていた魔法陣を、使用者の足元へ転移させただけの簡単なこと。
俗に言う。
「やられそうになったらやり返す、倍返しだ!ってね。」