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苦労人の苦労


「ふざけんなぁ!!!」


話を聞いたエルファスは、力任せに机を殴る。


「あんのアホ公爵がぁ・・・、一体どういった頭の構造をしていたらこんな愚かな手段を取ることになるのよぉ!名前通りに頭がアホで、身なりはデブ、性格はカス公爵まんまじゃないのよ!!」


ギャーギャーと喚き散らかすエルファスは怒りを色んな所にぶつけていた。

そんな姿を見てフィリオラはエルファスに同情をしながら、散らばった書類を拾い集める。


その書類の中の一枚にふと目が留まる。


~ヴァレンタイン公爵家馬車事故について~

14年前に起きた馬車落下事故について未だ皇国と繋がりのある証言や証拠はありません。

また馬車事故によって連れ去られたシャイネ公爵夫人とレイラ公女、そしてシャイネ公爵夫人の専属メイドだったピアンについての追加情報はありません。

ただし、未だにシャイネ公爵夫人とピアンの死体は見つからないため、レイラ公女の証言として目の前で殺されたという件についてはもしかしたらレイラ公女の精神を掌握するためにそう見せかけた可能性もあるとして、捜索活動を続けています。

シャイネ公爵夫人とピアンの遺体をこの地に帰らせるためにも。

どうか、グスタフ公爵とレイラ公女の元へ・・・


「・・・あなた、あの事件についてずっと調べ続けているのね。」

「当たり前でしょう!!私の親友、シャイネとピアンについての事件なのよ。諦めてなるものですか・・・!それに、私はまだ信じているの。あの2人はまだ生きているって・・・。絶対に探し出して、2人の元に帰すわ・・・。」

「エルちゃん・・・。」

「・・・それで、その男はもうすでに捕まえてあるんでしょうね?」


先ほどの雰囲気とは打って変わり、気持ちを何とか落ち着かせた後にフィリオラと向き直る。


「ええ。その男ならすでにヨスミたちの力によってすでに捕まえているようよ。ヘルマン伯爵邸跡地の建物内にて治療しているみたいね。」

「そう・・・。ということは今会ってもまともな情報は得られないわね。今はとりあえず町の被害状況の確認に事案の収束。その後にこの事件を起こした男に尋問し、アホデブカス公爵との繋がりに関する証拠を手に入れ、それをもってグスタフ公爵様と共にこの事態を起こした責任について追求するつもりよ・・・。」


その瞳には強い決意と恨みが宿っていた。


この子はずっと、あの事件に囚われている者の1人。

そして、未だにシャイネとピアンの生存を信じ、探索をし続けている者の1人でもある。

グスタフもその内の1人・・・。


レイラちゃんは目の前でシャイネとピアンを殺された光景を見ているから、それがトラウマとなってその話題はあの子にとって禁忌(タブー)となっている。

グスタフでさえあの子の前でこの話は決して出さないほどに・・・。


「そう・・・、無理しないでね。それじゃあ私はそろそろ行くわ。」

「わかった。また後で会うことになると思うわ。」

「そうね。エルちゃんが来るまでに色々と準備は整えておくから、安心して準備をしっかり整えてくるのよ。」


そういうとフィリオラは扉を開け、部屋を出て行った。


残されたエルファスはフィリオラを笑顔で見送り、完全に出て行ったと気配で感じると一瞬にして笑顔から無へと変わる。


窓際まで歩み寄ると、そこから見える町の景色を見やる。


様々な建物は崩落し、土煙が上がり、人々が泣き叫ぶ声が絶え間なく響いている。

スライムスタンピードの被害は、何故かはわからないが想定していた被害の割合が7割も抑え込めていた。


だが実際には死者数は2桁にもいかず、負傷者に関しても3桁さえ届いていない。


これはとんでもなく嬉しい誤算だ。

町の被害はどれほどかかっていても、修復してしまえば元通りにできる。


だが人間は違う。

1人の人間には無数ものしがらみが絡みつくようにくっ付いている。


故に、1人の人間を失うことはその人間に絡みつくしがらみをも失うという事。

そのしがらみが持つ財産は人知れない・・・。


町の持つ財産の価値を高めるのは、様々な武具でも、高価な宝石でも、美しいアクセサリーでもない。

それらを生み出し、作り上げることができる”人”こそが何よりも尊重されし尊ぶべき宝である。


この考えはグスタフ公爵様が抱く信念であり、公国を運営する上での礎としているものだ。

その考えは賛同できるものだったし、その意味も十分理解している。


だからこそ、人的被害がこれほどまでに抑えられたことは奇跡にも近い。

故にその奇跡について詳しく知ることで今後に生かすことが出来れば、今回のような襲撃がまた起きた際に人的被害を抑えられるかもしれない・・・。


「でも、どう考えてもわからないのよね・・・。突然人が安全地帯へ移動したり、明らかに外したと思っていた攻撃が当たったり、何よりあのスライムの堅い魔核が攻撃の当てやすい位置に現れたり・・・。私の頭じゃ全然理解できない事ばかりなのよね・・・。」


あーん、もう・・・。

もしかして本当に天使か神かの成した奇跡・・・とでもいうの?


・・・正直、もしそうならこんな事に奇跡を起こしてほしくなった。

あの子たちのためにこの奇跡を、なんて・・・領主としてはあるまじき考えね。


「はあ・・・。タタン、いるかしら?」

「ここに・・・」


どこからかエルファスのいる部屋に女性の声が響く。


「いつも悪いわね・・・。本当なら貴女たちにもっと報いるべきなのに。」

「ご主人様は私たちをお救い頂いた命・・・、ご主人様のために使うは我らの本望で御座います。」

「・・・ありがとう。では貴女たちにもうひと働きを御願いするわ。」

「はっ・・・!」


エルファスはタタンへと何か伝令を告げると声の気配は消え、部屋にはエルファスだけが遺された。


「はあ・・・、今の混乱に乗じて不当な輩を行う者もいるはず。居ない方がいいんだけどなあ・・・。」


こういった混乱の中で行われそうな事と言えば、住民たちの拉致や建物内に残された資産の盗み・・・。

殺傷事件・・・、そして女子供への暴行の可能性だってある・・・。


数人の影人(シャドウフィア)であっても、この町全域はカバーしきれない。

それでもこれ以上の被害が出るのは避けねばならない・・・。


「ああ~・・・、誰か私たちがカバーしきれない部分を誰か助けてくれないかしら・・・。」






その数日後・・・、


「だからといって、人的被害は0なんて聞いてないわよぉおおーーー!!」


部屋に報告するためにやってきた影人のタタンから聞かされた内容を聞いたエルファスは膝から崩れ落ち、歓喜にも困惑にも似た感情が入り混じった叫びをあげることになった。



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