ねえ、今拷問って言おうとしてなかったか?
「はあ、はあ・・・!」
町の路地裏を走る1人の男の姿があった。
この町はもうすぐ滅びゆくだろう。
俺がそうするように依頼を完遂したのだからな・・・!
俺がやったのは、指定された場所に設置されている魔法陣から送られてきたインドラバードの雛を、この町の中心にあるエルファス伯爵邸の地下で殺すこと。
そのためにヘルマン伯爵のエヴァージェンス子爵家令嬢のヴィクトリア嬢とカリエラ嬢を拉致し、それをヴァレンタイン公爵家にて引き合いに出してレイラ公女を娶るというなんとも馬鹿げた計画をカモフラージュ代わりにし、本命であるこの計画を成功させる。
その試みは見事に成功し、エルファス伯爵の情報の手の者は全く持って俺の存在を感知出来ていない!
派手に暴れ、動いてくれているヘルマン伯爵の奴らに感謝だな・・・!
「後はここから逃げればいいだけ・・・、な、なんだ・・・!?ぐあぁぁああああ!!」
突如、男の後方にあった建物が巨大な爆発と共に吹き飛び、強烈な突風により周囲の建物が崩壊し、飛ばされていく。
男も突風と一緒に飛ばされてきた瓦礫に飲み込まれ、大きく悲鳴を上げながら吹き飛ばされていく。
だがその男の悲鳴は爆発と突風にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
「・・・・ぐうっ、く、そ・・・早すぎ・・、る・・・。」
何とか意識が飛ばされずに起き上がれたが、右腕は骨折して反対側へ折れ曲がっており、左足の甲が折れているのか、なんとか立ち上がっても痛みのせいでうまく歩けない。
足を引き摺りながらも必死にその場から逃げようと歩き続ける。
「くそっ・・・、意識が飛びそうだ・・・。」
背後では、我が子を殺され怒り狂ったインドラバードの咆哮が聞こえる。
まずい・・・、早く逃げねえと・・・。
アイツに見つかったら・・・、間違いなく殺される・・・!
「早くあそこへ・・・、あの転送魔法陣へ・・・逃げ・・・うわあっ!?」
町の彼方此方で幾つもの爆発と地響きが起こり、その揺れに耐えられずその場に倒れ込む。
そして男の近くに紫雷が落ち、その光に男は飲まれた・・・。
インドラバードの雛を殺した人物の居場所を探さんと、この鳥さんの怒りは収まらないだろうな。
うーん、となれば・・・。
ヨスミは今まで閉じていた左目を開き、それと同時に千里眼を発動させた。
対象はインドラバードの雛を殺した者・・・、いや、インドラバードの雛の血を浴びたものに固定。
すると、町の中心から少し外れた裏路地と表通りが交差する場所の方で反応があった。
「あなた・・・!いきなり千里眼を使うなんて・・・。大丈夫?無理はない?」
「僕は大丈夫だよ。暫く休ませてたし、問題ない。それと、その子を殺した犯人の居場所は見つかったよ。」
『・・・どこだ。』
「インドラバード、まずは落ち着いてくれ。きちんと復讐する機会は与える。」
怒りに震えた声で真っ先に聞いてきたインドラバードをなんとか収める。
とりあえず千里眼で見えた事、雛を殺した男の居場所を簡潔に伝え、アリスとシロルティアは男をここに連れてくるために向かっていき、これまで起きた経由をエルファスへと話すためにフィリオラは彼女の元へ歩いていった。
さて、どうにも町の被害状況は、インドラバードとフィリオラの戦いで大きく広がっていたようだ。
一応スライムたちは全て討伐されているみたいだし、これ以上の懸念することはないんだろうけど・・・。
いや、ヘルマン伯爵邸の地下牢からダナントとデリオラ、その一味が逃げ出したんだったか。
2人の実力はかなり高いと聞いている。
ダナントは[宵闇の瞳]の暗殺者たちをいとも容易く殺したと聞いたし、デリオラはそのダナントと互角に渡り合ったって聞いたな・・・。
それも調べて・・・
「あ な た ?」
「あ、はい!」
レイラから強烈な殺気に似た威圧感を感じ、すぐさま千里眼を閉じた。
さすがに何度も無理して倒れたからね・・・。
これ以上心配はかけられないか。
連続使用してまだ間も空いてないし、暫くは使わないような状況に落ち着きたいところだけど・・・。
「つれて、きた・・・。」
『今戻ったぞ。』
黒鎖に縛られたまま、こちらに放り出された瀕死状態の男の姿があった。
地面へ叩き付けられ、うぅっ・・・と低く呻き声を開ける。
その男の姿を見たインドラバードは、その男の服に染み付いた血の匂いを嗅ぎつけたのか、その瞳には徐々に憎しみと殺気、怒りの感情が駄々洩れになっていった。
『・・・こいつだ。間違いない、こいつからあの子の臭いが・・・貴様が・・・貴様がぁ・・・!』
己の体毛がどんどん白紫の雷を帯びていく。
「待ってくれ、インドラバード。この男を殺す権利は君にある。だが、今じゃない。今だけは殺さないで待っていてくれないか。」
『・・・!!』
「どうか今だけ堪えてくれ。必ず、必ず約束は守る。」
ヨスミの必死の説得もあり、インドラバードは怒りを鎮め、静かに頷いた。
「・・・すまない。子の仇を前にして、殺したいその衝動を耐えてもらうことになって・・・。」
『約束を、守ってくれるのであれば・・・。必ず、その男を・・・我が子を攫った者たちを暴いてくれ。』
そういうと、インドラバードは自らの羽根を嘴で一枚もぎ取り、それをヨスミへと渡した。
『その羽根を持っていれば、敵からの魔法攻撃を多少なりと緩和してくれる。そして、その羽根に魔力を込めて意識を乗せると私の元にその思念が届く。そうすればすぐさま駆けつけよう・・・。』
インドラバードは大きく翼を広げ、力強く羽ばたくとその場からゆっくりと跳躍し、上空へと羽ばたいていく。
再度、巨大な咆哮を町中に轟かせ、どこか遠くへ飛び去って行った。
その後ろ姿を見送り、男の方を見下ろす。
まずはこの男に色々と自白してもらわなければ・・・。
それに合わせて、この背後に控えている奴らの存在も分かればいいんだけどな・・・。
インドラバードのためにも、必ずこの情報は確実なモノにする必要がある。
「・・・この男の傷を治そう。まずはそれからだ。」
「そうですわね・・・、今この男に死なれてしまったら大事な情報源を失う羽目になってしまいますもの・・・。情報を吐き出すのは十分に男の体力が回復してからですわ。」
「はい。ごうも・・・こほんっ、尋問に関しては私にお任せください。そういった作法に関してはグスタフ公爵様にみっちりと教えていただきましたので。」
「ねえ、今拷問って言おうとしてなかったか?」
「いいえ、言っておりません。」
拷問か・・・、別にダメといっているわけじゃないんだけどなー、この男に対してのみだけど。
ヨスミはとりあえず、その男を部屋の中に置いてあるベッドの上に転移させ、ハルネは治療用道具を持って男の治療を施していった。