繰り返されそうな所業
「有罪。ギルティ。今すぐ殺した犯人は八つ裂きにして回復魔法でもなんでもかけて再生させた後に熱した鉄の入れ物に長時間入れてから蒸し焼きにしてやりましょう。」
「ちょっとあなた・・・それはいくら何でも・・・別にやりすぎでもなんでもないわね。」
『あ、ああ・・・。』
言い出したインドラバード本人が若干引き気味でヨスミたちを見ていた。
それに釣られるようにフィリオラも呆れた顔でヨスミ達の方を眺めていた。
「はぁー・・・。でもこれで確信したわ。これはヘルマン伯爵の仕業じゃないわ。」
「ヘルマン伯爵ならやりそうだけどな・・・。でもあの小心者じゃあここまではやらかさないな。自らの欲望を満たすこと、主にそういった方面の欲望だが・・・。そのためにはどこまでも落ちていけるだろう。だけど町全体を滅ぼしてしまうような計画は無理だろうよ。ヴィアとリラ、そしてレイラを自らを満たすための奴隷にでもするのが精いっぱいだろうな・・・」ゴゴゴゴゴゴゴ
思い出してきただけでも腹が立ってきた・・・!!
やっぱりあの時に転移でバラバラにしておけばよかった・・・。
「あなた落ち着いてくださいまし・・・。」
「あーぅ!」
徐々に高まる殺気にディアネスを抱いたレイラが治める様に傍に駆け寄って背中を摩る。
ディアネスもその小さな手でレイラと一緒に背中を一生懸命摩る。
あああああ、うちの嫁と娘が可愛くて仕方がないんですけどおおおおおおおおおおおお!!
「あー、ごめん。もう大丈夫、落ち着いたよ。」
「所でヨスミ?ずっと気になってたんだけど、その子は・・・例の卵の子であってる?」
「そうだ!どうだ、可愛いだろう~・・・?」
「確か水堕蛇・・・、ヒュドラの子だよね?どうみても人間の赤ちゃんにしか・・・あれ?」
フィリオラはゆっくりとディアネスに近づき、その顔を覗き込む。
「フィー様、よろしければ抱いていただけますか?」
「いいのかしら?それじゃあ・・・」
レイラに差し出されたディアネスをそーっと優しく抱き上げる。
頭や頬を優しく撫でながら手や腹部を触ったり、手に魔力を練り上げてディアネスに流したりして何やら様子を見ていた。
ディアネスは遊んでもらっていると思っているようで、きゃっきゃっ!と嬉しそうに手足をバタバタさせている。
ああー、くっそ可愛いー・・・
「・・・そういうことね。それにこの子に流れている魔力からあの水堕蛇の魔力に加え、温めている最中に注ぎ続けたであろうレイラちゃんとヨスミの魔力も流れているから強ちヨスミたちの子で間違いはないわ。名前はもう付けてあるの?」
「ええ・・・。あの人の識る言葉で”最愛”と意味する〖ディアネス〗、と。」
「最愛・・・、ディアネス・・・。古代神語にも似たような言葉があったわね・・・」ボソッ
ふと、小さく誰も聞こえない様な声でフィリオラが何か呟いたような気がした。
「ディアネス、良い名前ね。とてもかわいらしいわ・・・。レイラちゃん、そしてヨスミ。この子はきっとこの先、大いなる困難が何度もぶつかってくるわ。どうか、この子にとっていい親になってね。」
「ああ、そのつもりだ。大事に大事に育てるさ。愛するレイラと一緒にな。」
「愛する・・・!も、もう・・・、あなたったら・・・。でも、この人と同意見ですわ。ディアネスにとって、唯一無二の母親になりますわ。」
『あの、誰か忘れてはいませんか・・・』
「ああ、ごめんごめん!そうだったわね!」
何か忘れているなーと思っていたら完全にインドラバードの存在を忘れていた。
今はアリスの黒鎖とハルネの鎖斧により、これ以上暴れないために拘束してはいるがインドラバード本人はもうすでに暴れる意志はすでにないようだ。
「話を戻すわね。今回のヘルマン伯爵が起こした騒動の弊害で起きてしまったスライムスタンピードの騒ぎに乗じて、インドラバードの子を殺し、この町に擦り付けた別勢力の存在がいるわ。でも目的はヘルマン伯爵と同じ、ヴァレンタイン公爵家の弱体化ね。精神的な面での弱体化を狙っていたヘルマン伯爵とは違って、物理的な面での弱体化を狙っているみたいね。まさかインドラバードを利用するなんてね・・・。」
「どれだけヴァレンタイン公爵家は恨まれているんだ・・・。」
「そうですわね・・・。皇族家と公爵家には昔から深い因縁がありますから・・・。」
「・・・レイラ?」
レイラの表情はどこか曇っているように見える。
その因縁の中で何かあったのだろうな・・・、レイラにこんな表情をさせるほどの何かが。
・・・あー、もしかして公爵夫人とレイラの馬車落下事故は皇族たちの仕業か?
それで確かレイラの母君である公爵夫人が亡くなったって話だったか。
「・・・あなた?」
無意識にレイラを抱き寄せていた。
突然の事に困惑しながらも、そっと頬を赤らめながら頭をヨスミに預ける。
「それで、その別勢力の存在ってのは誰かわかるか?」
「こういった大掛かりな実力行使を平気で行ってくる家門はたった一つだけありますわ。4大公爵家の1つで、わたくしのお父様の旧知の戦友であるカースティン公爵家当主、アファタル・デネブ・カースティン公爵その人ですわ。」
アファタル・デブネ・カースティン公爵・・・。
うーん・・・、なんかその名前を呼ぶだけで貶しているようにしか聞こえないのは気のせいなのだろうか?
「それで、そのアホでデブでカスな公爵家の手の者が、今回のインドラバード襲撃騒動の犯人は今どこにいるのかわかるか?」
「ブフッ・・・」
「・・・レイラ?」
「い、いえ・・・、なんでも、ございませんわ・・・ぷぷっ・・・」
どこか必死に笑いを堪えるレイラの様子にどこか訝しむ様子を見せる。
「それにインドラバード、君の子供は一体どこで殺されたんだ?」
『この町であることは確かだ。この町に私の子供が連れていかれた気配を感じたのが最後で、この町の近くまで来たところで我が子の悲鳴が聞こえ、その直後に命の灯火が消えたのだ・・・。』
「つい先ほどこの町はスライムスタンピードに襲われた後だ。もしかしたらスライムに襲われ、死んだ可能性は?」
『幼くとも我が子、スライム如きにやられるほどヤワではない。例えそれが10匹でも20匹でも同じだ。』
ふむ・・・。
相当強いんだな、インドラバードという魔鳥は。
そんなインドラバードが殺されたとなると、可能性は幾つか。
魔物の力を封じるような魔道具のようなものを付けられ、弱体化されていたために殺されたか。
それともその状態でスライムに襲わされて殺したか。
そもそも実力ある強者に実力で潰されたか・・・。
考えられるとしたらこれぐらいだろうか。
雛であったとしても束になったスライムであろうと勝つことができないっていうなら、少なくともSランクに近いような実力を持ったAランク冒険者か、そもそもSランク冒険者が手に掛けたって可能性もある。
『私と子にはどれだけ離れていても、私たちを繋げる電波の糸で繋がっている。だからこそ、あの子にどのような死が迫ったのか、この身でしかと感じた。鋭く冷たい鉄がその身を、その首を落とした感覚・・・。首に走る冷たさ、その後に襲う熱さ・・・。あの子から伝わってくる絶望と恐怖・・・私は、許しはしない・・・!』
戦う意思はもう持っていなかったが、憎悪と憎しみ、殺気が徐々に増しているかのようにワナワナと震えている。
胴体、きっと心臓部位だろう。その心臓を貫かれ、その後に首を斬り落とされたと。
・・・きついな、自らの可愛い子が死ぬその瞬間までの感情が流れ込んでくるそれは。
「それで、ソイツは今どこにいるかわかるか?」
『私が一番最初に破壊した建物、あそこで我が子の最期の気配が、命の灯火が消えた最後の場所だった。故に、あの子が人間共に利用されないために、我が子もろとも破壊した。まだ生きているかどうかはわからないが、この町全てを破壊し、ここに住む人間全てを殺せば、我が子の仇も取れるだろう・・・。』
「なんともまあ極端なことね・・・、わからなくもないけど。」
なるほどねー・・・。
確かに最初の攻撃で取り逃がしたとしても、この町を吹き飛ばす勢いで破壊し尽くせば確実に仇は取れるわけだし。
「まあ、実際に僕も同じようなことを前世にやったし・・・。」ボソッ
「え?」
「あぅ?」
「え?」
「え?」
「・・・。」
『え?』
「きゅう?」
『え?』
その場にいたレイラ、ディアネス、フィリオラ、ハルネ、アリス、シロルティア、ルーフェルース、そしてインドラバードまでもが、ボソッと呟いたヨスミの言葉を受け、反射的に言葉が口から零れた。