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一難去ってまた一難


「・・ぉ・・・て、くだ・・・し・・・!」


どこかで声が聞こえる。

まだ眠い・・・。でも、この声は・・・とても愛おしい。


「起き・・・、・・なた・・・!わた・し・・・・供が・・・ますわ!」


何かを言っている・・・。

とても焦っているような様子が、声の緊張感から伝わる。


「あなた!」


ああ・・・、わかったよ。

君の声には敵わないな・・・、その言葉を君の声で聴くだけでこんなにも起きたくなるんだから・・・。


「おはよう・・・、どうした?」

「あなた、見てくださいまし!わたくしたちの子供が孵りますわ!」

「僕たちの、子供・・・子供!?まさか・・・!」


そういって体を起こすと、その傍に置かれていた大きな卵がゴトゴトと動いている。

所々にヒビが入り始め、そこから光が零れ落ちている。


どんな子が生まれてくるのだろうか・・・。


水堕蛇(ヒュドラ)から託された子だから、4つ首の蛇子だろうか?

それとも1つ首の蛇子だろうか・・・。


確かあの水堕蛇は緑色をしていたから、美しいエメラルド色の鱗を持った子だろうか・・・!


だが、卵から生まれたのは水堕蛇でも蛇でも、ましてやそれ系統の魔物ではなかった。


「こ、これは・・・」

「・・・あ、ぅ?」

「ひ、人の赤ちゃん・・・?!」


そう、人間種の赤ちゃんだった。

期待していた分、この変化球はデッドボールすぎて開いた口が塞がらずにいた。


「ななな、なんという・・・異世界転生物にありがちなご都合・・・だがこの子は僕たちの子供・・・残念がる必要はない。むしろ祝福せねば・・・!」

「ああ・・・か、可愛い子ですわ・・・。」

「あぅ・・・?」


赤ん坊を慈しむような瞳を向けるレイラの表情を見て、はっと我に返る。


・・・はは、僕は愚かなだな。全く持って愚かだ。本当に、僕は大バカ者だ・・・

子供を持つことを選択できる親にとって、子供は親を選べない・・・。


故に、子供を持つ親の責任、責務というのは、生まれてきた子供を心から信じ、心から愛すること。

子供たちにとって大人としての見本となるべき道しるべであり、共に成長をし続ける親友でなければならない。


生まれてくる子供には何があろうと、どんなことがあろうと、何の罪もない。

生まれてきた子供が想像とは違っていたから落胆したなんて、なんて烏滸がましい、思い上がりも甚だしい・・・。


「あなた・・・?」

「なんでもない。こんな可愛い子が僕たちの元に来てくれたのに、僕の眼は何も見えていなかった愚か者だということに気付いただけさ。」

「それにしてもあの卵から人の子供・・・、ん?この子は・・・」


ハルネはどこからかお湯が入った桶と布を持ってきて、ゆっくりお湯につけていた布で拭いた後、そっと抱き上げた時何かに気付いたようで、じっとその子を見つめていた。


「・・・どうやらこの子は普通の子ではないようです。」


そういってその子を優しく布で包みながら、レイラへ渡した。


「金色の・・・、竜眼かしら?この手・・・うっすらと鱗模様のこの肌・・・。多少なりとも水堕蛇の影響を受けているみたいですわ。」

「なるほど・・・。だが、どうして人間の子供の姿をしているんだ?」

「水堕蛇は本来、異種族での交尾はしないはずです。水堕蛇の体液等には猛毒が含まれていて、その毒に耐えられるのは同じ種族の雄の水堕蛇のみですから。」


なるほど、水堕蛇と交尾したがるほどの人間(へんたい)はいない・・・、いや?自分の身を犠牲にしてやりたがる奴なんて探せばいせそうな気がするが・・・。


「さすがにそれぞれの大きさ的に無理だな。」

「ちょっと何言ってるのあなた!」

「ああ、すまん。だけど、どう考えても理屈が通らない・・・。本当にご都合主義な展開ってだけなのか・・・?いやさすがに・・・うーん。まあいいか!」

「あぅー・・・あぅー・・・!」


ヨスミへ必死に手を伸ばしてくる姿に、先ほどまで考えていた悩み全てが吹き飛び、レイラから受け取って自分の顔を触らせる。


「あぅーあ?きゃぁーう!きゃーあ!」

「そうでちゅよ~・・・!僕がパパでちゅよぉ~・・・・!」

「もう、あなたったら・・・。」

「きゃっきゃっ!」


この子がどんな存在かどうかは、僕とレイラの可愛い娘ってだけで十分だ。

他に理由なんて必要ない。


「・・・この子はディアネス、僕の知る言葉で”最愛”という意味だ。」

「ディアネス・・・、良い名前ですわ。」


ヨスミは再度、レイラへディアネスと名付けた我が子を渡し、受け取ると僅かに生えたエメラルドブルーの髪の頭を優しく撫でる。


ああ、懐かしいなあ。

アナスタシアが生まれた時、とても尊い存在で何をするにしても初めてでとても慌てていたっけ・・・。


それからメラウス、ヘリスティア、そしてネレアン・・・。

あの子等が生まれてから僕の子育てスキルはメキメキと上がっていった・・・。


だが・・・


「人間の赤ちゃんを育てたことがない・・・。」

「ヨスミ様のその歳で赤ちゃんを育てる機会はないはずですが・・・」

「もしかしてあなた・・・」

「いや、人間の赤ちゃんを育てたことがないってだけで他の赤ちゃんなら育てたことがあるだけなんだ。」

「他の赤ちゃんって、例えば犬とか猫とかですか?」

「あなた、もしかして獣人の赤ちゃんを・・・!?」

「違う違う!そうじゃない!そういうことじゃない!」


なんか拗れていってないかこれ・・・。


あれから何とか2人の誤解をなんとか解き、ディアネスを愛でるレイラの姿を眺める。

もし、優里が生きていてアナスタシアを共に育てられていたのなら、きっとこういう感じになっていたんだろうか。


ふと頭にちょっとした衝撃のようなものを感じた。

きっと、そんな馬鹿な事考えてる暇があれば、目の前の宝物を大事にしろと優里からの活が入れられたんだろう。


ああ、僕にまた守らなければならない宝物が増えてしまった。

あれからどんどん増えてきている宝物に、いつしかこの手から零れ落ちてしまうことがあるかもしれない・・・。


そうならないために、僕はあの時よりももっと強くならないといけないな。

まあ、とりあえず今は、今の幸せを享受しようじゃないか!


そう思っていると、突然町の方で大きな爆発音が聞こえた。


「な、なに・・!?」

「わかりません・・・、突然町の方で大きな爆発が起きたご様子ですが・・・。」

「あ、あなた!だからといって千里眼や転移窓は使わないでくださいまし!」

「え?あ、ああ・・・。」


まさに、爆発の理由を調べようと転移窓を展開しようとしていた矢先に制止され、やり場を失った手を下ろした。


ベッドを囲むように寝ていたルーフェルースがふと何かに気付いたようで頭を持ち上げ、爆発した方へ顔を向けていた。


まるで何かに威嚇するかのように低く、唸り声を上げる。


「グルゥゥ・・・!!」

「ルーフェルース、お前は何か知っているのか?」

「グルゥゥゥ、グルゥ・・・!!」

『なんかねー、あそこにてんてき?がいるみたいなのー。』

「天敵・・・?」

「疾蛇竜の天敵・・・、思い当たる魔物は一匹います。疾蛇竜と同じAランク級の魔鳥・・・、紫雷鳳鳥”インドラバード”だと思われます。」


インドラバード・・・、そんな魔物があそこにいるのか・・・。



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