予想外な味方
ああ、体が軽いですわ・・・。
わたくしに足りない部分をあの人が見てくれている。
それだけでわたくしは、こんなにも自由に動けるのですわ・・・。
本当ならスライムの体ごと魔核をぶった切ってましたけど、気が付いたらわたくしの狙うスライムの魔核が体外へ現れる様になって、攻撃しやすくなったのでやりやすいですわ。
わたくしの考えていることを全て見透かしているのかな、わたくしの行動の先を常に読んで魔核を次々に露出させてくれる。
常に王眼を使っているから、今のわたくしの動きは3秒先の未来を見ながら行動しているのに、ヨスミ様はそれさえも読んでサポートしてくれるから吃驚ですの・・・!
それにわたくしが躱しきれない攻撃も全部ヨスミ様が何とか対処してくれる。
まさに背中を預けた仲、と言えましょうですの。
後ろを顧みることなく、ただただ前だけを見て突き進めるなんて、どれほど自由に動けるか。
これが、どれほど気持ちよいか・・・。
「一気に行きますわよっ!!」
スライムの魔核を正確に一閃が如く、目にもとまらぬ速さで次々と斬っていく。
その速度を決して落とすことなく、逆にその速度は増していく。
最初こそ向きを変えるために一度立ち止まってから向き変更しないといけなかったから、その度に速度は落ちていた。
でも、一度斬る度に転移でわたくしが行きたい方向へ”移動”させてくれるから、速度が止まることなく、わたくしはただただ加速していくことができる・・・。
まるでこれは・・・名付けるなら、そう・・・
「・・・【 神 速 】!」
もはや姿すら捉えられないほどの速度で、瞬き一回で何十匹ものスライムの魔核を壊していく。
これが、あの人が見ている世界・・・。
訓練所で見せてくれた、ヨスミ様のあの速度。
あの時に見ていた、全てを置いていくこの光景を・・・。
ようやく、わたくしはあの人に、近づけた気がしたのですわ・・・!
ただ・・・
「さ、さすがに数が多すぎますわー! これ以上やったら、武器が持ちませんわ!」
あれからスライムと戦い続けてどれぐらい経っただろうか。
わたくしは一体何十体もの魔核を斬り続けてきたのだろうか・・・。
数が減るどころか、ますます数が増える一方。
風の抵抗による体力の消耗は極限まで抑えられてはおりますけど、さすがに目が痛くなってきましたわ・・・。
微かに頭痛も響いてきましたし、動きが鈍くなったせいで徐々に速度が落ちてきましたわ。
黒刀を持つ手も震えてきましたし、そろそろ限界かも・・・。
レイラの動きが鈍ったのを見たのか、ヨスミは一度スライムたちから離れた場所に転移させられて一旦動きを止めて息を整える。
「はあ、はあ・・・。本当に、数だけは多いんですから・・・。」
もう一度、刀を構え直すと途端に別の場所に転移させられた。
先ほどまでいた場所に無数の腐食酸の液が吹きかけられていた。
「あっ、ありがとうですわ・・・!」
だめ、頭痛が続いたせいで思考が鈍ってる。
咄嗟の判断さえ真面にできないなんて・・・。
一端その場から大きく距離を取り、スライムたちの攻撃範囲外へと移動する。
まずい・・・、このままじゃ押し切られてしまいますわ。
スライムの増殖速度を上回るレベルでどんどん倒していかないと、スライムの波に押し切られてしまうんですの・・・。
と、まるで大きな波のように押し寄せてくるスライム群が目の前まで迫る。
覚悟を決めて斬りかかろうとした時、背後から虎の方向が聞こえ、黒い雷が雨の様に降り注ぎ、スライムの液状体を蒸発させ、魔核を黒雷撃で砕いていく。
「この雷は・・・、シロ様?!」
『すまない、レイラ。遅れてしまった。』
「たすけ、るの・・・!」
シロルティアの背から離れ、アリスはその手に大きな黒い鎌を形成すると横に大きく薙ぎ払う
それは正確にスライムの魔核を捉え、一刀両断していく。
振り払った後、黒鎌を回転させて再度薙ぎ払い、次々とスライムの魔核を切り裂いていく。
それに合わせる様にシロルティアの黒雷を広範囲に浴びせていく。
液状体は蒸発し、魔核は砕け散る。
「この殲滅速度なら、あのスライムたちを押し込めますわ・・・!アリス、シロ様、2人に合わせますわ。自由に動いてくださいまし!」
「ん・・・!」
『ああ、わかった!』
自らに再度、<疾風の鎧>を纏い、王眼を見開くとスライムだけでなくアリスとシロルティアの未来を読み、どう動き、どう攻撃をするのか読み、2人の息の合った連携の小さな隙を埋める様に立ち回る。
3人の連携に一切の隙もなく、その殲滅速度は先ほどの3倍以上となり、目に見えてスライムが倒されていく。
『「「はぁぁあああああっっっ!」」』
雷撃による広範囲攻撃に、黒鎌の薙ぎ払い、そして取りこぼしを確実に切り伏せていく。
そしてとうとう、地上に溢れている分の7割のスライムを倒すことができた。
だが、ここで一つ予想外な出来事が起きた。
小屋の中で溢れかえっている無数のスライムたちが小屋を破り、まるで噴水の様に吹き出していく。
先ほどまで減らしたスライムが一瞬にして元に戻ってしまった。
3人は急いでその場から離れ、様子を窺う。
「うそ・・・、まだあんなに・・・!?」
「おお、い・・・ですの・・・。」
『これは厄介な・・・、魔法陣の先では一体何が起きているんだ・・・。』
「これじゃあどうしようもないですわ・・・。」
よく見ると元に戻るどころか、それ以上の速度でスライムの数が増えていく。
どうしようもない状況にどうすればいいのか途方に暮れていると、上空から咆哮が聞こえてきた。
一体何事かとレイラたちは空を見上げると、こちらに向かってくる大きな影が見えた。
こっちにどんどん近づいてくると、それは自ら回転し始め、まるで竜巻となったそれはスライム群へと突っ込み、一瞬にして半分以上のスライムが粉々に切り刻まれ、消し飛んでいく。
そして向きを変え、再度上昇してある程度の高さまで達すると再度スライムたちへ向けて下降し、突っ込むと多くのスライムを切り刻む。
殆どのスライムを切り刻み、竜巻の中から現れたそれは・・・
「さ、疾蛇竜・・・!?どうしてこんなところにいるんですの!?」
「グルルゥ・・・」
「大きな、蛇さん・・・?」
『なぜこのような場所にアヤツが・・・。』
「それは私がお願いしたからよ。」
そう言いながら、レイラたちの前にフィリオラが姿を現した。
「フィー様・・・?」
「遅くなってごめんね、3人とも。本当は私の吐息で全て焼き払おうかなと思ってたんだけどね。この近くを飛んでたこの子にお願いしたの。」
そういってフィリオラは疾蛇竜の方を見る。
レイラたちのいる地上へ降りてくると、えっへん、とでも言いたげなどや顔を決めていた。
『それにしてもなぜアヤツがこんな離れた場所におるのだ?』
「確かにこの辺りは疾蛇竜の生息地から大きく離れていますわ。なのにここに、しかも1体だけいるなんて・・・」
「この子はルーフェルース。どうやら誰かを探してここまで匂いを追ってきたみたいなの。」
「誰かを探してって・・・一体誰を・・・」
「まずはあのスライムと魔法陣をなんとかするのが先よ。」
指を差した先は、先ほど減らしたのにまた溢れかえっているスライムたちの姿があった。
「・・・そうですわ。まずはあれを何とかしてから詳しい話を聞かせてもらいますわ!」
「それ、じゃあ・・・いくよ・・・!」
『ああ、いくぞ!』
レイラたちは疾蛇竜とフィリオラを迎え、スライムスタンピードに向けて立ち向かっていった。