表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/517

魔物の氾濫


周囲の警戒を怠らず、急いでヨスミの元へ駆け寄る。


なぜここにスライムがいたのかしら・・・

確かヨスミ様はここではなく、ここから西側に位置する廃屋の方にスライムがいたって言ってましたし・・・。


何よりもスライムは群れを成す魔物。

その群れは1体のスライムが分裂を繰り返した結果に過ぎないですわ。


故に1体だけがヨスミ様が目撃した場所から離れてこんなところにいるなんてまずありえませんわ・・・。

それか、そもそもの話として別個体だった?


「うっ・・・」

「あなた!しっかりしてくださいまし!」

「あぁー、どれくらい眠ってた・・・?」

「10分も経っていないですわ。あ、それと・・・」

「後方にいたスライムは・・・、どうやら倒してくれたみたいだね。」


意識が途切れる瞬間、背後の茂みに居たスライムの存在。

厄介な存在だと聞かされた後だったから、必死に起きようと意識していたからなんとか短時間で起きることができた。


だが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


「あなた、どうしてあそこにスライムがいたのかおわかりなのかしら?」

「・・・飛ばされたみたいなんだ。」

「飛ばされた・・・?というと?」

「西側に確認したスライムの近くに魔法陣があったんだ。多分、その魔法陣はどこかと繋がっていて、その繋がっていた先の魔法陣から転送(ワープ)される仕組みだろう。きっとヘルマン伯爵が捕まえた奴隷とかを送るために密かに作られた魔法陣だろうな。だがその魔法陣事態に異常をきたしているみたいで、相互に繋がれた魔法陣の転送座標位置にズレが生じ始めている・・・。このまま放っておいても魔法陣は擦り切れて消えてしまうが、消えるまでにどれほどのスライムが、それも彼方此方にランダムにどれほど出現してしまうか・・・。」

「・・・ならばわたくしたちが先にその魔法陣を潰せば接続が切れて機能しなくなるって事ですの?」

「そのはずだ。片方の魔法陣が消されれば、もう片方の魔法陣も消えるはず・・・。この目で見えた魔法陣の構成内容はそんな感じだった。だが、どうやらすでにエフェストルの町中に何匹かのスライムが転送されているようだ・・・。至る所で衛兵と冒険者たちとの戦闘が起きているらしい。未だに戻らないヴィクトリアたちの方にも何匹かいるようだ。」


そう、たとえ大勢の賊たちを相手にしたとしてもヴィクトリア、ましてやアリス達がいるのであればこんなに時間がかかることはない。


再度、ヴィクトリアたちの方へ千里眼を向けると賊は全て倒され、何匹かのスライムに襲われているヴィクトリアたちの様子が見える。


何体かの残骸が見える様子からして、苦戦はしているもののなんとか対処は出来ているみたいだった。


「ヴィアたちの方は大丈夫そうだ。だが、問題は町の方だ・・・。魔法陣の方は僕の方で・・・」

「だめですの!」


千里眼からの転移により、魔法陣へ直接干渉し、魔法陣の書き換えで消滅させようとしたところ、レイラが突然制止の声を上げながら抱きついてきて押し倒される。


「あなた、今また千里眼を使ったままその力を使おうとしたでしょう?!もう目の前であんなのは見たくないですの・・・!」

「・・・ああ、悪い。ごめんね・・・、怖い思いをさせてしまって。」

「本当に、あの瞬間は心臓が飛び出してしまうかと・・・。あなた、魔法陣の場所はおわかりでして?」

「ああ。場所は西側の廃屋。その地下にある一室に魔法陣は設置されている。」

「・・・わかりましたわ。あなたはここで待っていて。あなたが私を想い、心配する気持ち・・・、どれほどあなたに愛されているか、全身で感じ取れるほどに。でも、わたくしもただ守られているだけの存在ではございませんわ。どうか、わたくしを信じてくださいまし。」


そういってヨスミの頬に手を添える。

まっすぐに瞳を見据え、優しく微笑んだ。


ああ、僕が思っている以上にレイラは強く、更に美しく成長したんだね・・・。


その頬に添えられた手に自らの手を重ね、千里眼(ひとみ)を閉じた。


「・・・みんなを頼んだ。僕は、少し休むよ。」

「ええ、このレイラ・フォン・ヴァレンタインにお任せくださいまし!」


ヨスミはレイラに1つの転移窓を付ける。

自らに<疾風の鎧>を纏うと地面を抉る勢いで蹴り、転移窓で示された方へ目にもとまらぬ速さで跳躍していった。


レイラが過ぎ去っていく風を感じ、一息ついた後に仰向けになる。


とりあえずここでヴィクトリアたちを待とうか。

どうせ、今目を開けることは出来ないんだからな。


「・・・あー、やっぱうちの嫁は最高だな。」

「ほう、レイラ嬢ととうとう結婚したのか?」

「け、っこん・・・。夫婦・・・す、てき・・・!」

『抜け目ないのだな、我がパーティーリーダーさんは。』


どこからか聞こえるヴィクトリアたちの声。

その足取りの音からして、かなり奮戦していたのだろう。


そこに見覚えのない気配が一つ。


「やあ、ヴィア。それにアリスとシロルティア。それに、君がヴィアの妹・・・カリエラだね。」

「うん。えっと・・・僕を助けるために尽力していただき、感謝するね。」


なるほど、僕ッ子か。

あの凛々しくも凛としたその性格のヴィアとは打って変わり、どんな子なのか気になるところではあるが・・・


また今度の機会にしようか。


「ところでヨスミ殿。先ほどよりずっと目を瞑っているけど、何かあったのか?」

「ん?ああ、ちょっとね。それよりもヴィアたちもかなりダメージを貰ったみたいだね。」

「うん・・・、あのス、ライムって・・・めんどう・・・。」

「縦横無尽に動き回る小さな魔核を壊す他に倒すことはできない魔物だ。」

「その魔核もとんでもなく堅いと来たもんだから、普通にやっただけじゃ攻撃が全然通じないんだよね~・・・。」

『そうか?あれぐらいであれば動きに合わせて軽く振るうだけで簡単に潰せるのだが・・・』

「さす、が・・ママ・・・!」

「それはティア殿が大聖霊獣だからです・・・。」

「Sランク冒険者でも苦戦するほどの実力を持つ大聖霊獣の一角・・・最初聞いた時どれだけ僕が驚いたことか・・・。あの動き回る魔核を目で追うだけでもきついっての・・・!」

『そういうものか。』


どうやらあの戦いの中で互いの親睦を意図せずとも深め合うことができたようだ。

少し心配してはいたけど、さすがAランク冒険者。かなりの実力者だな。


「一仕事終えた所で申し訳ないんだが、もう一仕事頼む。」

「ああ、町中に居るスライムに関してのことだろう?」

「・・・いや、そこではない。ヴィア、覚えているか?ここから西側にある廃屋の・・・小さな小屋について。」

「もちろん。あそこがどうか・・・、いや、そういうことか。」


さすが貴族令嬢、頭の回転率が速いな。


「ああ。今はそこにレイラが1人で向かっている。レイラの今の実力ならスライム程度問題はない。ただ、今回はその数が100を超えている。」

「な、100・・・だと!?それじゃあこれは、【魔物の氾濫(スタンピード)】じゃないか・・・!」


魔物の氾濫・・・。そういうモノもあるのか。


「スライムの増殖率はゴブリンに匹敵するとされている・・・。故に定期的にAランク冒険者と衛兵による合同討伐が義務付けられている・・・。この町でもそれはきっちりと果たされているから、ここ何十年もスライムに寄る【魔物の氾濫】の予兆も現れていない・・・。」


スライムに対してかなり警戒しているんだな。

さすがにAランクの魔物がゴブリン並みの増殖率・・・まあ、分裂なんだろうが、それによる数の増殖はかなりの脅威だから仕方のない事だろうか。


「ああ。このスライムは別の所から来ている。ヘルマン伯爵の領地とこの町は転送の魔法陣が設置されているようで、ヘルマン伯爵の領地側からひっきりなしにスライムが転送され続けているみたいだ。ただ、ヘルマン伯爵領側の魔法陣に何かしら問題が発生したみたいで、今現在はランダムに座標位置が設定されているようであちこちにスライムが転送され続けている。」

「ヘルマン伯爵の領地から・・・しかもランダムだなんて・・・。となると、あっちの方は・・・」


そう。

あの数のスライムがこうしてひっきりなしに転送され続けている。

それはとどまる様子さえ見えない事から、1つの最悪な事態が瞬時に予想された。


その結果を、カリエラは怒りに満ち、震える声でつぶやく。


「・・・つまり、向こうはすでにスライムの氾濫に飲まれ、滅亡している可能性があるってことね。」



~ 今回現れたモンスター ~


竜種:スライム

脅威度:Aランク

生態:体が液状体によって構成された魔物。

物理攻撃を無効化し、魔法攻撃によるダメージも半減させてしまう。

弱点はその体内を高速で動き回るビー玉ほどの小さな魔核。

その強度は、現鉱石の中で一番の堅さを誇るとされている【アダマンタイト鉱石】並みとされている。

故に生半可な攻撃は一切受け付けないため、確実に壊す強烈な一撃、その1回で壊しきれない場合、犠牲を伴う危険性が高い。

その液状体は主に強烈な腐食酸で出来ており、並みの武器は簡単に溶かしてしまう。

またその腐食酸を吹き出し、または霧状に散布し、その身体を持って相手を丸ごと飲み込んだりしてくる。

どの攻撃も一度でも当たった場合、腐り落ち、また循環する血液にスライム液が流れ、全身に広がり、体の内側から腐って死んでしまう。

最初の攻撃で軽く死ぬことが出来ればまだ良い方ではあるが、もしそうなった場合はすぐさま当たった部位を切断しないと想像を絶する生き地獄を味わうことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ