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2度目のプロポーズ


「さ、さすがあなたですわ・・・。オオ、オウシュフェルを、前にしてこんな・・・ど、堂々と出来ているなんて・・・あはは・・・。」


恐怖の笑みを浮かべながら体を震わすレイラは、必死に言葉を絞り出すように話す。

その様子に気付き、先ほどの輝きを落ち着かせ、レイラの前にそっと出る。


「ごめん、レイラ。すまないが、その威圧にも似た能力を抑えてもらってもいいかい?」

『・・・ふむ、よかろう。』


とても凛とした女性のような声。

だがどこか震えている様にも聞こえる。


「感謝するよ。」

「ありが、とう・・・ごご、ございま・・す。ふぅ・・・。」


先ほどの場の凍り付いた空気は静かに溶け、落ち着いた雰囲気が場に漂い始める。

だが、レイラがここまで恐怖し、怯えているのに対し、ずっと一緒に居たであろうこの者たちにはそれらしい様子は見られない。


それどころか、幾人かはオウシュフェルに縋りついているようにさえ感じる。


「有難うございます、王よ。ですが、何故このような場所に、あなたのような高貴なる存在が囚われているのですか・・・?」


レイラは言葉一つ一つを慎重に選びながら会話をしている様子だった。

どうやら想像以上にこのオウシュフェルという存在は、とてつもないほど上位の存在・・・。


黒狼龍と同等・・・だろうか。


『・・・我が民を守るためだ。』

「民、というと・・・この者らの事ですか?」

『うむ。我が治めし地にて、我が庇護を受けし者らよ。幾日前、我が留守にしている間に賊に襲われ、この子らを助けるためにここまでたどり着き、我が身をもってこの子らの開放を望んだ。だが結局それも果たされず・・・、我が生命力を持ってこの子等に少しずつ分け与えておったのだ。それでも・・・助けられぬ子が多かったがな・・・。』

「オウシュフェル様の治める地を襲い、その民を襲って奴隷になぞ・・・なんと下賤な・・・!」

「・・・民思いなのですね、オウシュフェルは。」


穏やかな瞳でオウシュフェルの体に寄りかかりながら眠る子供たちの奴隷を見下ろす。


『・・・ああ。我はこの子等を愛しておる。様々な感情を、意志を、思いを持ち、色々な驚きと発見をするのだ。毎日が楽しくて仕方がなかった・・・。あんなに大勢いたこの子等は・・・もう、ここにいる子等だけになってしまったがな。』


瞳を閉じ、青く光る涙が零れ落ちた。

それは地面に落ちる直前に結晶化し、砕け散る。


オウシュフェルは見た目こそなんともないが、とても弱々しく感じる。

先ほど言っていた自らの生命力を分け与え、必死に助けようとしていたのだろう。


「・・・オウシュフェル、まずはここから出よう。」

『それは無理だろう・・・。この檻に貼られている結界とこの子等の首枷が連動しているようでな。ここから逃げようとすると首枷が爆発してしまう。もうこの子等が死ぬのは見とうないのだ・・・。』

「オウシュフェル様、大丈夫ですわ。わたくしの旦那様ならばその問題を解決できますわ!ね?そうでしょう、あなた様?」

「ああ、任せてくれ。我が愛しきドラゴンに涙を流させたこと・・・後悔させてやる。」

『それは一体・・・』


と困惑するオウシュフェルを余所に、ガランと牢獄の一室に無数の首枷が突如として出現した。

その光景に一瞬理解できず、はっと我に返ったオウシュフェルは足元の奴隷の子たちを見る。


そこには先ほどまで繋がれていた首枷は付いていなかった。

また自らにも繋がれていた首枷と足枷が消えていることにも気づく。


『なんと・・・』

「さあ、オウシュフェル。ここから出る時がきた。準備は良いか?」

『・・・うむ。頼む、人の子よ。』


その瞳に強く、切実な願いを、希望を託されたヨスミはいつも以上に気合を入れる。

そして、次の瞬間には先ほどまでいた場所から、地上に上がった場所へオウシュフェルと奴隷、その亡骸全てを含めた全員を”移動”させた。


突然の事に呆気に取られ、周囲を見渡す。

今まで絶望的であると諦めていた脱出をいとも簡単に成し遂げ、自由となったオウシュフェルはゆっくりと立ち上がると一か所に集められた亡骸の所に向かうと、


『・・・すまなかった。我のせいで、お前たちが命を落とすこととなった。恨んでくれても構わない。どうか・・・』

「おう、さま・・・!」

「ぼくた、ちはおーさま、ぜったいに、うら、まない・・・!」

「そうです・・・!王様は、わたしたちの、大事な、王様です・・・!ありがとうって気持ちはあるけど、恨むことなんて、ありません・・・!この子たちも・・・!みな・・・」

『・・・おまえ、たち。すまない・・・すまなかった・・・。』


オウシュフェルの足元に駆け寄る奴隷の子たちにそっと広げた翼膜で覆う様に抱きしめる。


ここまで人を想う竜は初めてみる。

あの子たちも竜人とかではなく、ただの人間たちだ。


ただの気まぐれなんかで、ここまで互いを信頼し合い、互いに想い合える関係を気付くことはできないだろう。


奴隷の子たちはひとしきり泣いた後、疲れてしまったのか、スヤスヤと寝息を立てていた。


『ありがとう・・・人の子らよ。ソナタたちの名を、聞かせてもらってもよいだろうか?』

「もちろんですわ。わたくしはレイラ。レイラ・フォン・ヴァレンタイン。」

「ぼくはヨスミだ。オウシュフェル、君たちを救えてよかった。」

『レイラ、そしてヨスミ。ありがとう、我からの心よりの感謝だ。受け取ってほしい。』


そういうと、王冠に似た螺旋状の黄金角が光り輝き、どこからか2つの蒼く光る結晶を生み出した。

それらの蒼結晶はヨスミたちの近くまで来ると、強く光るとそのまま消えていった。


『レイラには我が右目と同じ力を持つ王眼を、ヨスミには我が左目と同じ力を持つ千里眼を授けた。そなたたちにならきっと正しく使いこなせると信じておる。そしてこれも受け取るがよい。』


白いたてがみから1本の<王騎竜の体毛>が風に乗ってレイラとヨスミに流れていき、それらはローブの中に溶け込んでいった。


『我が体毛を取り込んだ衣服は低俗な存在を寄せ付けず、またソナタたちに授けた瞳の力の恩恵を大いに扱えるだろう。』

「ありがとうございます・・・オウシュフェル様!」

「ありがとう、オウシュフェル。」

『感謝しきれぬのは我の方だ。・・・ヨスミ、お主を見るとどこか嬉しさのような温かい思いを感じる・・・。お主に授けた瞳であれば、我らの居場所がわかるはずだ。いつでも遊びに来るがよい。我はそなたらをいつでも歓迎しよう。』

「ああ。もちろんだ。」

「ご招待、ありがとうですわ!」

『では、また会おう・・・』


そういうと子たちを背中に乗せ、その翼を大きく広げるとゆっくりと羽ばたいていき、どこか遠くの方へとあっという間に姿を消した。


その後ろ姿が消えるその時まで、見守り続けたヨスミとレイラ。

途端に一気に疲労感に襲われたのか、レイラがその場に座り込んでしまった。


「・・・わたくし、王眼をいただいてしまいましたわ・・・。」

「レイラ!大丈夫か?」

「あはは・・・腰が抜けてしまったみたいですわ・・・。」


上手く立てそうにないレイラの傍に、ヨスミはゆっくりと座り込む。

先ほどの出来事に未だ覚めぬ興奮に、互いに顔を見合わせ笑い合った。


「あの、あなた?しばらくこのままが良いですわ・・・。」

「そうだね。僕も君と少しだけこうしていたい・・・。」

「あなた様・・・、あの時はわたくしのために前に立っていただき、ありがとうですわ。」

「いや、すぐに君を気遣えなくてごめんね。今度からは君を第一に考えて・・・・」

「あなた?無理する必要はありませんわ。好きなモノを第一に考えればよいのです。それこそ、あなたがとても生き生きしている姿を見るの、わたくしすっごく好きなのですよ?」

「とても配慮深い可愛い妻を持てて僕は幸せだ。」

「つ、妻・・・ですの・・・!」


レイラの顔が見る見るうちに赤くなっていく。

そんな表情を見ていつも以上に可愛く、そして愛おしく思う。


「さっき、オウシュフェルに僕の事を、”旦那様”と言ってくれただろう?ならば、僕はその想いに応えないとね。」

「そ、それって・・・」


そういうと、レイラの方に再度向きなおし、真剣な眼差しでレイラの目を、コバルトブルーに輝く瞳を見つめる。


「レイラ・フォン・ヴァレンタイン。どうか、僕と生涯を共に生きる最愛の人として、僕の傍にいてくれませんか?」


その言葉に、大きく見開かれたコバルトブルーの瞳。

そこから大粒の涙が、まるで波のように揺らめぎ、流れていく。


「はい・・・っ! よろこんで、ですわ・・・っ!」


その言葉を聞いて、ヨスミはレイラをそっと抱きしめる。

レイラの高揚する熱を感じながら、彼女の存在をその身体で感じ取る。


2人の祝いを祝福するかのように、2人の間を風が吹き抜けていった。



~ 今回現れたモンスター ~


竜種:王騎竜(オウシュフェル)

脅威度:Sランク

生態:カラミアート全土に生息する全てのドラゴンたちを統べる王。

白銀の鎧のような身体に白きたてがみ。螺旋状の黄金角はまるで王冠を模したように輝いており、その成はまさに騎士のよう。

その尾はサソリの尾の様に甲殻が連なっており、まるでレイピアの様に棘が尾先に生えている。

それぞれの瞳には別々の力を有する魔眼が宿っており、右目には王眼、左目には千里眼を有している。

王眼は未来を見通し、千里眼は現在を見通すとされている。

それぞれの魔眼の力を持ちいて、未来と現在を同時に攻撃することができるとされているため、王騎竜の攻撃は絶対必中攻撃とされ、決して避けることはできない。


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