ああ、新たなるドラゴンが、ここに・・・!
「ヨスミ殿、カリエラの居場所がわかったぞ」
そういってヴィクトリアが地下室から出てきた。
その手は真っ赤に染まっており、手甲も所々が凹んでおり、それはヨスミが出ていった後に何をしていたのか明白だった。
「それはどこだ?」
「エフェストルの郊外にある廃屋・・・そこに地下室に通じる道があるようで、そこに囚われているそうだ。」
「・・・廃屋はこの6つだ。」
そういって転移窓を6つ目の前に展開し、それをヴィクトリアに見せる。
1つ1つが違う特徴を持っており、1戸建てのような廃屋に物置小屋のような小さな廃屋、2階建ての廃屋や広い牧場のような廃屋、2つの廃屋が一緒になったものや完全に廃屋として原型を成していない様な建物さえあった。
「・・・無理を言ってすまないが別の角度から見れたりはしないか?廃屋に目星としてヘルマン家の紋章の片割れのような印が入っていると言っていた。」
「わかった。」
転移窓を一旦閉じ、別視点からの転移窓を展開してヘルマン家の紋章・・・いや、そもそもヘルマン家の紋章ってどんなものか知らないが・・・。
何かしら変な印のようなものが入った廃屋を探せばいいってだけだ。
うーん・・・、うーん・・・。腐って変色したような痕や何やら粘液が這ったような痕、これは・・・血飛沫か?明らかにこれは血痕じゃないか。
・・・血痕ねえ。
「・・・あった、この建物だ。」
そういってヴィクトリアが差したのは2階建ての廃屋だった。
玄関の横にある壁に”月桂樹の花”のような印が掛かれていた。
これが、ヘルマン家の紋章・・・その片割れ。
「この廃屋には見覚えがある。ありがとう、ヨスミ殿。後は私がなんとかする。これでもAランク冒険者なのだ。腕には自信がある。」
そういって背中に背負う大剣をトントンと叩いた。
「・・・ならアリスたちを向かわせるよ。彼女らはAランク冒険者以上の実力を持っている。役に立つはずだ。」
「ヨスミ殿・・・、恩に着る!ではまた!」
そういってヴィクトリアはその場を後にした。
ヨスミは展開していた転移窓の中から、アリスたちの映るものを手前に寄せる。
「アリス、聞こえるかい?」
<・・・はい。でも、どこから・・・?>
「ああ、ごめんね。僕の能力の応用編といったところか。それで今、時間は空いているか?」
<今、依頼を、終わらせた・・・、とこ、ろ。何か、用事?>
「ああ、今から君たちをとある場所に”移動”させる。そこで、ヴィクトリアと行動を共にしてほしいんだ。」
<・・・わか、った。まかせ、て。>
「頼む。」
そういうとアリスはシロルティアを呼び寄せ、その背に乗ると小さく頷いた。
「ではよろしく頼むよ。」
<・・まかせ、て。>
アリスたちの姿がその場から消え、2階建ての廃屋の近くへと”移動した”。
その後に、ヴィクトリアがやってくると何かしら話をし、家の中へと入っていった。
とりあえず、後はヴィアたちに任せるとして・・・。
目の前にある転移窓を寄せ、そこに映っている光景をじっくりと見る。
先ほどヴィクトリアと共に見ていた廃屋の1つ、血痕がついた廃屋。
その場に立ち上がると突然目の前が揺らぎ、足元に力が入らなくなったためにもたつき、転びそうになるが、急いでレイラがそれを支える。
「あなた様・・・!」
「大丈夫・・・、問題ない。」
「問題ない、ではありませんの!ほら、お座りになって・・・。」
レイラに支えられ、結局再度座らされることになった。
「・・・それで、この廃屋には一体何があるんですの?」
「わからない。でも、この血痕はまだ真新しいんだ。怪我を負った何者かがこの近くに居た可能性が高い。・・・何か気になるんだ。なんとなくだが、これを見逃したら危険だと僕の内から叫んでいるような気がするんだ。だから確認し、僕たちに危険が及ぼすものならば、事前に潰す必要がある・・・。」
最後の言葉にどこか殺気じみた感情が強く込められていたようで、レイラはその言葉と表情に恐怖を感じるよりも自分たちを心配してくれている思いやりの裏返しであるとわかっていた。
「あなた様・・・。ならば、わたくしたちも一緒に行きますわ。確かにあなた様はお強いですけど、今の状態じゃ危険ですもの。」
「・・・敵わないな。それじゃあ頼む。いくぞ。」
「はいですわ!ハルネ、ハクアちゃん!ここをよろしく頼みますわ!」
「かしこまりました。どうか、お気をつけて・・・。」
『はいなのー!』
レイラの手を握り、ヨスミたちはその場を後にした。
一瞬にして郊外に移動し、目線の先には血痕がついた廃屋が見えていた。
先ほどよりも展開していた転移窓の数を最小限に減らし、脳処理の負担を減らす。
目眩と頭痛が減り、重かった体も思う様に動けるようになった。
「あなた、大丈夫ですの?」
「大丈夫だよ、さあ行こうか。」
ヨスミとレイラはゆっくりとその廃屋に向かっていく。
まともに原型さえ留めておらず、野ざらしの部屋に朽ちた家具。
そして、とある一室に着いた無数の血痕。
その部屋を調べてみると、その血痕は部屋の隅に置かれたタンスのような家具の所にまで続いていた。
「・・・この下か。」
「そのようですわね・・・、ではこれを・・・」
とレイラがどかそうとした時、その家具は全く別の所に”移動”する。
「そうでしたわね、うふふ。」
口元に手を添えて笑うレイラを見て、その姿を微笑ましく見る。
視点を再度、どかした床へと移す。
何かを動かしたような痕に、扉のような入口が設置されていた。
「・・・鬼が出るか竜が出るか。いくぞ、警戒を怠るな。」
「はいですわ・・・!」
ヨスミはその扉を別の場所に”移動”させ、入口を露わにした。
そこには地下室に続く階段が現れ、ゆっくりと階段を降りていく。
「汝、我が道を照らせ・・・<導光>。」
レイラは周囲を照らす光玉を生み出し、光玉はヨスミとレイラの周囲をゆらゆらと周っていく。
先ほどまで暗かったそこはレイラの魔法により明るく照らされ、そこはとても異質な空間が広がっていることに気付いた。
「・・・これは。」
「そんな、酷い・・・!」
ヘルマン伯爵邸の地下室で見た地下牢とは違い、そこには大きな牢獄が1室のみではあったが、その中にはまともな衣服を着ていない、首枷が付けられている男女、種族様々な者たちがそこに囚われていた。
そのほとんどが衰弱、一部は死に絶えており、人間や様々な獣人、そしてその奥に・・・
「あれは・・・、騎竜?いえ・・・そんな、王騎竜”オウシュフェル”・・・!?」
全長はおよそ6mほど。
竜の頭、胴体に尾はサソリの様な甲殻の連なり、尾の先には真っ赤な棘が生えていた。
翼と腕が一体化しており、今は折りたたんでいるが広げれば3m以上もあると推測される。
白いたてがみをなびかせ、その眼光はまさに王のように凛と猛々しく、その佇まいには威厳その物を感じるほど。
王冠のような螺旋状の黄金角が特徴で、まさに王と呼ぶにふさわしい。
「オウシュ、フェル・・・。美しい・・・!」
ああ、新たなるドラゴンが、ここに・・・!
ヨスミの瞳はまるで少年の頃に戻ったかのようにキラキラと輝いており、対してレイラは酷く怯えたように体を震わせていた・・・。
オウシュフェルの全長 4m → 6m
翼の全容 1m以上 → 3m以上