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過去と呼ぶにははるか遠い昔の記憶


屋敷の外にある椅子に座っていたヨスミの元にレイラは静かに歩み寄り、隣にそっと座った。


「あなた様・・・?」

「・・・ああ、レイラか。」


久々に忘れていた。

人間という存在について。


人間の持つその素性がどれほど醜悪なものなのか。

どれほどまでに腐りきっているのか。


生前の私自身もそうだったからだ。

初めて出来た大切なものを守るために、僕はありとあらゆる非道を重ねた。


優里はああ見えてとてもモテていた。

初めて出会った時でさえ、ひっきりなしに男性から声を掛けられていた。


本人は鬱陶しがっていたが、その頃の僕にはどうでもよかった。

僕はドラゴンという存在に魅了され、それと同時に全てに絶望し、自暴自棄になっていた。


そんなある日、大学の講義を受ける意味が見出せなくなり、途中で退出して大学を出ようとした時にどこか聞いたことのある声が悲鳴を上げていたのが聞こえた。


その日は、本当になんとなくこの虚しさを和らげるための憂さ晴らしがしたくなり、悲鳴が聞こえた方へと向かった。

大学から出て、数分の所にある裏路地の方へ向かい、その角を曲がった先でその光景が目に入った。


半裸に剥かれた状態で両腕と口を抑えつけられながら、馬乗りになった男がブラジャーを無理やりに剥かれている最中の優里の姿が目に入った。


ああ・・・。

やはり人間はどこまでも、醜悪だ・・・。


故に、殺し甲斐がありそうだ・・・!


気が付くと、涙を流しながら必死に呼びかけてくる彼女の姿が目に入った。


どうして彼女はそんな顔を僕に向けてくるのだろうか。

朦朧とする意識の中で傍に脱ぎ捨てていた上着を手繰り寄せると、彼女に掛けようとした。


だが左腕が動かない事に気づき、その方を見るとあらぬ方向に折れ曲がり、骨が飛び出している様子からしてかなりの大怪我であることがわかった。


優里は差し出された上着を泣きながら抱きしめ、ありがとう・・・と何度も何度もつぶやいていた。

ふと、パトカーのサイレンが聞こえた所で意識を失い、次に目を覚ましたのは病室だった。


―――お主はなぜ故、そこまでの絶望を背負うのか。一個人で持つ感情量ではないぞ・・・。仕方ない、その絶望を照らす一筋の光を授けよう・・・。


起きてすぐ頭痛が響き、痛みの中思い出した言葉。

誰に、どこで言われたのか思い出すことができない。


必死に思い出そうとしていると入口がゆっくりと開かれ、何かが割れる音が聞こえた。

扉の方を見ると口元を抑え、今にも泣きそうな顔で夜澄を見る優里の姿が目に入った。


彼女の話からして、あれから4か月が経っていて、僕はあの時何度も頭を鈍器で殴られていたらしい。

それでもあの男たちを殺す寸前まで重傷に追い込み、全員を病院へと送り込んだ。


頭を何度も鈍器で殴られたこともあり、また傷も傷ということで病院での精密検査を行い、幸いにも異常は見られなかったので、結果としては左腕の開放骨折にあばら骨数本のヒビ、または骨折。全身の打撲に内蔵の損傷・・・。


まあいわゆる瀕死ってやつだ。

よくそれで死んでいなかったなと、医者に開幕そうそう言われた。


あれから優里を襲った奴らは、彼女の証言と体の痣もあり、強〇未遂事件の犯罪者として病院を退院したら逮捕されることになった。


優里の両親からは大いに感謝され、多大なる謝礼金も払おうとしたが、あの時の僕はそんな気持ちで助けたわけじゃないし、そもそもあのまま殺されてもよかったと思っていた節すらあった。


ゆえにそんなものを受け取る義理もないと頑なに断り続け、ならばと本人の希望もあり、優里の友人として付き合う様になった。


それからは友人として優里と過ごすうちに互いの共通の趣味がると知り、交流を重ねるうちに気が付けば交際し、そして結婚するまでに至った。


彼女は元々裕福の出だったこともあり、他の家からの縁談話が何度も持ち掛けられ、それが結婚後も何度か続いたこともあり、そしてとうとう拉致未遂にまで何度か発展することもあった。


自らが欲しいと決めたもの、それがたとえ他人の宝物であろうと容赦なく手を出そうとする。

ここの貴族共はアイツらと全く変わらない。


そして僕はあの日・・・、優里を失った。

不慮の事故、遺跡の崩落に巻き込まれた僕たちだった。


だがあそこの地盤はしっかりしており、地震なんて起きるはずもなかった。

故に、きっと僕だけを殺そうとしたのだろう。


爆発にも似た地響きに遺跡が崩れ始め、何とか脱出しようとしたが足が瓦礫で押し潰され、動けなくなった僕を助けようとした優里がその崩落に巻き込まれてしまい、瓦礫に押し潰されてしまった。


あの時の優里の最期の表情が脳裏に焼き付いて離れなかった。


「あなた様、大丈夫ですの・・・?」


後から追いかけてきたであろうレイラは酷く心配した顔でヨスミの顔を覗き込む。

どうやら僕は酷い顔を、本当にひどい顔をしているようだ。


あの可愛らしいレイラの顔をこんなにも悲しそうな表情にさせるとは・・・。


「ああ、ごめん。ちょっと思い出したことがあってね。」

「それは、あなた様の心にいるわたくしではないもう一人の、想い人の事ですの?」

「・・・どうしてそう思ったのかな?」

「女の勘という奴ですわ!・・・なんて。ただ、あなた様がここまで怒りになるなんて、自らの大事な物を、大切である存在を貶めようとした時以外なかったですのよ?気が付いてまして?あの書類に何が書かれていたのかは存じませんが、かつてのあなた様のお方とわたくしを重ねてみたのではなくて?」


・・・そうか。

僕はレイラと優里を重ねて見てしまっていたのか。


よくよく考えれば2人の境遇は似たものがあったな・・・。


「女の勘って本当に怖いものだね・・・。概ね合ってると思うよ。彼女も色んなイザコザに巻き込まれてね。力のなかった僕は彼女を守り切ることができなかった・・・。その時のことを思い出してしまったようだ・・・。」

「もう・・・、あなた様はわたくしの力を舐めすぎですわ。これでもヴァレンタイン公爵家の令嬢として研鑽してきたつもりですのよ。そこら辺の貴族なんて相手にもなりませんわ。それでも、わたくしではどうしようもない時は・・・あなた様に、頼らせていただきますわね。」


そう最後に呟き、ヨスミにそっと寄りかかる。

肩から伝わるレイラの体温を感じ、その温度にどこか安心感を覚える。


肩に手を回してそっと抱き寄せ、レイラの頭に自分の頭を預けた。


「ああ。任せてほしい。いつでも頼ってくれ・・・。レイラは僕が守るよ。」

「頼もしいですわ、わたくしの騎士(ナイト)様・・・。」



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