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エヴァージェンス家令嬢拉致事件の計画の全容


突如として牢屋に入れられた者たちは全員困惑していた。


それもそうだろう。

瞬き一つで先ほどいた場所とは全然違う場所にいるのだ。


突然、何の前触れもなく、いきなり。


「こ、ここは・・・」

「ここはお前たちが戦っていた屋敷の地下に牢獄だよ。えっと・・・、お前がヘルマン伯爵だね?あんたならここがどこだかわかるはずだよ。」

「・・・私たちは先ほど執務室に居たはずだ。一体どうやってこんな場所に、それも一瞬で連れてきたのだ・・・」

「おいおい、自分の屋敷だっていうのに、()()()()()()なんて言い方は酷いと思うぞ?この場所でもあんたの屋敷の一部なんだからさ。」

「そういうことを言っているのではない!どうやって私らをここに連れてきたのかと聞いている!こんな類の魔術は聞いたことがない!」


そうだろうね。


魔力を必要ともしないこの力は魔法でもなんでもない。

神から与えられた権能だということを知っているのは僕しかいない。


ヘルマン伯爵は酷く狼狽えた様子で、地面へとしり込みを突く。

理由は、ヨスミの隣に立っていたヴィクトリアの圧がより一層強まったからだ。


「ヘルマン伯爵・・・、貴殿は我が妹のカリエラをどこにやった?」

「カリエラだと?そんな奴は知らん!私はたまたまここにとある用事で訪れただけだ!」

「ふーん・・・。はい、ヴィア。」


そういって僕は様々な書類が無造作に入れられているカバンがヴィクトリアに現れた。

ヴィクトリア自身も突然の事に吃驚しつつも、カバンに入れられている書類を幾つか手に取り、目を通していく。


ヘルマン伯爵は、ヴィクトリアの足元に置かれたカバンを一目見ると、見る見るうちに表情が青ざめていく。


「な、なななな・・・!?ど、どうしてそれがそこに・・・!?やめろ!見るな!」

「・・・・・・・・・・・・・。」


そんなヘルマン伯爵を余所に、どんどんと書類に目を通していく。

ヴィクトリアは読み進めていくうちに、どんどんとその手は震え、書類を移す瞳は憎しみが滲むようになり、溢れ出てくる気持ちが涙となって頬を伝う。


全てを読み終えたのか最後には目を伏し、必死に冷静になろうと気持ちを落ち着かせている様子が見える。


「・・・ヘルマン伯爵。貴殿は・・・、確かに我が家が仕えし主君と敵対している。その影響も、あって・・・忠義を誓う、我らエヴァージェンス家にも、同じように敵意を向けることも、何とか理解出来よう・・・。だが、だがこれは・・・これはあんまりにも・・・!!こんな、ことが出来るほど、我らエヴァージェンス家は、貴殿の恨みを、買ったか?貴殿の家族を、殺したか?!貴殿は、・・・貴様は一体どこまで我らを貶め、辱め、惨めにさせようとするのか・・・!!!」

「ひぃいっ・・・!?」


最後の方は、ほぼほぼ怒りの叫びだった。

普段はここまで感情に振り回されなさそうなヴィクトリアがここまで激昂するほどとは、一体どれだけの酷い内容がその書類に書かれていたのやら・・・。


一枚だけを手に取って軽く目を通してみる。


簡易的にまとめるとこうだ。


ヴィクトリアとカリエラを捕え、この町に転送門で送った後、[宵闇の瞳]に拉致させ、ヘルマン伯爵の領地へと移送。


その後は奴隷契約を施し、

主人はヘルマン伯爵に。身代金を要求し、エヴァージェンス家当主をこの町に呼び出して殺害。


その後はヴィクトリアとカリエラは自らの愛玩奴隷にし、グスタフ公爵の勢力を削るという算段だったようだ。


また、グスタフ公爵は自身が治める領地で臣下の殺害を防げなかったことを追求し、公爵としての果たすべき義務の放棄、そして自らの臣下を守れなかったことの責任問題を追及し、公爵としての爵位を剥奪・・・とまでが筋書きなようだ。


正直、ここまではよくある貴族間でのいざこざだと納得はできるが・・・、


「ぎゃあぁあぁああああああああああああっ!!」


突如として、ヘルマン伯爵の両手と両足が消え去った。

問題はグスタフ公爵に関する計画に2つ目があったことだった。


ヴィクトリアの件はそのままに、レイラ公女を愛人として要求することでその対価として公爵としての失脚を撤回し、公爵に恩を売るのと同時にレイラ公女を人質にグスタフ公爵を思うがままに操ろうという計画だった。


「こ、これは・・・、・・・ッ!?ヨスミ殿!?」

「こいつは・・・生かしちゃいけない部類の屑だ・・・。こんな奴がいるから、腐敗貴族が大手を振って横暴なんてするようになるんだ・・・」

「あなた様・・・落ち着いてくださいまし!わたくしならば大丈夫ですから!」

『お、オジナーが怖いのぉ・・・!』

「ハクア様、こちらに。」


ハクアはヨスミの怒りに中てられたのか、手招きするハルネの元へ飛んでいき、ブルブルと震えていた。


ヴァレンタイン公爵家(わたしたち)があんな計画でどうにかなるほど脆弱ではありませんわ!」

「・・・そうか。そうだね。ごめん、気を取り乱した。少しだけ席を外すよ、ヴィア。後は頼む。」

「あ、ああ・・・。」


そういって、ヨスミは頭を抱えたまま部屋を出ていく。

その後ろ姿に思う所があったのか、レイラもヨスミの後を追いかけ、その後をハルネとハクアも共に出て行った。


残されたヴィクトリアは深くため息をついた後、再度ヘルマンが捕えられている牢獄内へと入り、両手首と足首を強く縛り、これ以上の出血を止め、断面部分にポーションを掛け、治療を施した。


「・・・今ここで貴様を楽に死なせたりはしない。」

「ひいぃ・・・ひぃいい・・・・」

「吐く物を吐いて、それからしかるべき裁きを受けてもらう・・・。本当は、この手で貴様を殺してやりたい。だが、それは貴様に取って安寧を与えることになるから殺さぬよう、抑えねばならない。・・・なぜ、抑えねばならないのか。なぜ・・・」


とブツブツと呟きながら、放心状態のヘルマン伯爵を治療した後にロープで身動き一つ取れないように縛り上げた。


その様子を見ていたダナントとデリオラは大人しく見守っていた。


(・・・何が起きたのかわからないし、何をされてるのかも、何をしたのかさえもわからない。)

(ただ一つわかったことは、あのヨスミと呼ばれた男が今のこの状況を生み出し、そしてアタシらの命をも握られているって事ね・・・。)

(敵意を向けたらその瞬間、頭か心臓を潰されていただろう。私の長年の勘が、この2カ所を強く指している・・・。)


「今は、大人しくしていた方が身のためってこと(ね。)(だな。)」


この子らが気絶したままでよかったわ。

あんな光景を見せつけられたんじゃ、真面な精神なんて消し飛ぶわ・・・。


近くで木を失っている仲間たちの頭をそっと撫で、思いに耽った。



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