表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/517

闇vs闇


「くそが・・・!!」


手に持っていたグラスを投げつけ、目の前に立っていた男の真横をすり抜け、壁にぶつかり砕け散った。

ガラスの破片が男の頬を切り付け、傷口から血が一滴流れる。


「奴らに頼んだのは間違っていたのか・・・?あいつらに頼んでおけば何も問題ないと言っていただろう!」

「ヘルマン様・・・、それはカーインデルトでの襲撃が上手くいったのであればの話です。本来であれば、あの襲撃で2人を捕え、この町に転送門にてここに送り、彼らに拉致してもらい、我らの領地へ送り届ける手はずでした。ですが、最初の段階でヴィクトリアが無理やり転送門を発動させたせいで確保できたのは妹のカリエラだけ。今は離れの廃屋の地下に捕えておりますが・・・」

「アイツの事だ。今回の件について、色々と調べ上げているのだろう。グスタフ(あやつ)の耳に入るのも時間の問題だ・・・。その前にアイツも捕えれば問題なかった。だがそれさえも失敗に終わった!情報が漏れるのを防ぐための防衛処置は取ったが、契約違反を犯した場合、依頼主を逆に殺しにいくような連中だ。今回の件できっと私たちを殺しにくる・・・!急いで準備して出るぞ。カリエラも連れて行く!」


そう言いながら、机の引き出しや金庫の中の書類を取り出すと無造作にカバンの中へと詰め込んでいく。

護衛騎士のような男はひとまず、頬を伝う血を拭い、深くため息をつくとヘルマン伯爵を手伝うべく、足元に広がった書類を拾い集める。


すると突然、扉が勢いよく開け放たれ、1人の兵士が部屋の中へ乱暴に入ってきた。


「何事だ!」

「し、失礼します!たった今、この屋敷が襲撃され、すでにこちらの被害は甚大です!」

「馬鹿な・・・、まさかヤツラなのか?!それにしたって早すぎる・・・!おい!私を守れ!」

「はっ!」


そういって手に持っていた書類を手放し、腰に差していた剣を抜いて構える。

扉を閉めていたからか聞こえなかったが、開け放たれた今、兵士たちの悲鳴が幾度なく聞こえてくる。


そこに何人もの兵士たちが駆けつけて防衛陣を展開させ、その扉から入ってくるであろう襲撃者たちに備えて警戒を向けていた。


最期の悲鳴が聞こえ、静寂が周囲を包む。


だがその静寂を破るかのようにヘルマン伯爵の背後の窓が割れ、幾本の矢が背後から兵士たちの首や頭に突き刺さる。


護衛騎士がヘルマン伯爵の前に立ちはだかり、全ての矢を瞬時に叩き落とす。


全ての兵士が何事かと窓の方へ注意を向けた瞬間、入口の方から何人もの黒ローブの襲撃者たちが部屋に入り、瞬時に生き残っている兵士たちを抜いた短剣で首を切り落としていく。


護衛騎士はすぐさまヘルマン伯爵を机の下に押し込み、手を襲撃者たちの方へ向けると


「風よ、我が身をそよぎし旋風よ、螺旋をなし、我が敵を穿て。<風槍(ウィンドランス)>!」


突如、部屋の中に突風が吹き荒れ、書類や家具が次々と切り刻まれ、それらが4つの細長い槍のような形状に姿を変えると、襲撃者たちへ目にもとまらぬ速さで放たれる。


襲撃者たちは突然吹いた突風で足止めを喰らい、避ける動作が遅れ、胴体や頭が螺旋状に捩じ切れるように抉れ、大きな穴を開けながら、周囲へ血肉を撒き散らす。


3名に当たり、いう間でもなく即死。

1名は腹部に当たり、そのまま壁へと叩きつけられたが時間差で出血死を迎える。


突然の魔法に動揺し、護衛騎士はその隙を逃さず、襲撃者たちへナイフを投げつける。


「まずいっ!?」

「い”っ・・・!?」


突然の魔法に、仲間の死を見て、冷静さを欠いた襲撃者の肩や防いだ腕にナイフが突き刺さる。

そこにすかさず机を飛び越え、近くに居た襲撃者の肩にナイフが突き刺さった部分に蹴りを喰らわせ、そのまま後方の壁へと蹴り飛ばす。


剣を低く構え、そのまま横にいた襲撃者へ舌から切り上げる。

襲撃者はそれを防ごうとしたが、腕に突き刺さったナイフのせいで力が上手く入らず、そのまま腹部から右肩に掛けて深く切り裂かれ、内臓と血が飛び散る。


切り上げた勢いで回転を加えて襲撃者の横腹に強い蹴りを入れて吹き飛ばし、再度剣を構え直すと襲撃者へと斬りかかる。


襲撃者はその攻撃を受け止めようと両手に持った短剣を交差させてその一撃を何とか防ぐが、護衛騎士の方が力が強かったのか、そのまま押し切られるように肩から首に掛けて深く食い込む。


「ばか、な・・・!?」

「ふんっ」


そのまま腹部に強い蹴りを加え、大きく仰け反るとそのまま首を叩き斬られた。

一瞬にして多くの仲間が殺され、襲撃者たちは酷くたじろいだ。


「・・・弱いな、[宵闇の瞳]よ。」

「おお、いいぞ!ダナント、そのまま全員を殺してしまえ!」

「そういうことだ。悪く思うな。」

「くっ・・・、これほどの手練れがいるとは・・・!」


ダナントと呼ばれた護衛騎士は再度剣を構え直し、残りの襲撃者たちを殺そうと殺気を込めた所でふと何かに気付き、ナイフを窓方向へと投げつける。


窓の向こう側で呻き声が聞こえた後、叫び声と共に下へ落下した様子だった。


その直後に窓を蹴り破って、数人の襲撃者たちが部屋の中に入ってきた。

地面に着地すると同時にそれぞれ短剣、曲剣を抜き、ダナントへ向けて襲い掛かる。


振られた曲剣を横に割けて伸びきった腕を掴み、体を軽く蹴りかけて回転を加え、そのまま後方から斬りかかろうとしている襲撃者へと投げ飛ばした。


短剣を構えて飛び掛かってきた襲撃者の攻撃を背中を向けたまま前へと移動して攻撃を避けると、剣の柄頭で攻撃を振り切った襲撃者の頭を打ち付け、地面へうっ伏すとダナントはそのまま首元へ剣を突き立てて軽く捻る。


「アイツ・・・強い・・・。」

「ここまでは順調だったのに、アイツ1人に仲間の7割が殺されちまった・・・」

「まさかアイツは”残影のダナント”・・・、確かアイツはエフェストルの町長が雇っている護衛だったはず・・・なのになぜこんなところに・・・・!」

「残影のダナント・・・くそ、俺たちが勝てる相手じゃねえ・・・。あんなに殺しておいて汗1つ流してすらねえぞ・・・!」

「遊びはここまでか?ならばそのまま死ね。」


首に突き刺した剣を引き抜き、軽く振って剣に着いた血を払うと再度剣を構え直す。

そして残りの襲撃者たちへ斬りかかろうとした時、突如としてその場から後方へ飛び、距離を取る。


その直後にダナントがいた地面から血で作られた槍がどこからか飛んできて突き刺さる。


「あんたみたいな大物がそんな小物を守っているなんてねえ・・・。」


部屋の隅から姿を現したデリオラ。

その目は怒りと憎しみを抱いており、強い殺気をダナントへと向ける。


「鮮血のデリオラか・・・。まさかこんなおままごとをしているとはな。」

「あんたこそ、人のこと言えないんじゃないの?あんなクズに仕えているとか、あんたの腕も鈍ったもんね。」

「・・・貴様には関係ないことだ。」


デリオラの手に周囲に流れている血が集まり、2本の血斧が形成され、それを両手でそれぞれ掴むと斧を回転させながら構えた。


「あたしの家族を殺した報いを受けてもらうわよ。そこの屑と一緒にね!!」

「できるものなら、やってみるがいい。」


そしてダナントとデリオラは互いに睨み合い、一瞬の静寂の後に地面を蹴って一気に距離を詰める。

後寸での所で互いの武器がぶつかった・・・と思っていたが、実際にぶつかったのは相手の武器ではなく、突如目の前に鉄格子が現れ、共に頭から突っ込んだ。


鈍い音と共に顔面から突っ込み、一瞬意識が飛びそうになるが、顔面を抑え、痛みに蹲る。


「ったぁあ・・・。なんで、いきなり、鉄格子が・・・・」

「くぅう・・・・。一体・・・、なんなんだ、これは・・・。」


ふと先ほどまで握っていた武器が無くなっていることに気付き、周囲を見渡すと先ほど血や死体で荒れた部屋ではなく、石レンガで出来た頑強な牢獄の中に向き合う様に入っていた。


ダナントとデリオラ、それぞれの檻にはヘルマン伯爵や他の襲撃者たちの姿もあった。


「こ、ここは一体どこなんだい・・・?」

「ここは・・・」

「そんな、どうしてここに・・・この屋敷の地下の牢獄にいるのだ・・・!?」

「それは僕があなたたちを呼んだからです。」


声が聞こえ、牢獄の外に目を見やるとそこにはヴィクトリアの姿と、近くの椅子に腰かけている男と他数名の姿が見えた。


「では話してもらいましょうか。カリエラの居場所について・・・。」


男はゆっくりと立ち上がり、彼らに近づいて目線だけを向ける。

その瞳は禍々しく、真紅に光る様から人間ではない恐ろしい存在だと感じ取り、デリオラとダナントの背筋が凍り付いた。




【残影のダナント】

かつてはAランク冒険者ではあったが、自らの力を追い求めるが故に冒険者にまで手を掛けた冒険者狩り。

今では冒険者を抜け、とある闇ギルドに身を寄せることになった男。

その実力は確かなもので、幾数年と冒険者活動を続けていればSランク冒険者になっていたかもしれないとさえ言われている剣豪だった。

彼の振る剣が遅れて見えるほどの高速なる斬撃を放つことで、残影のダナントと呼ばれている。



【鮮血のデリオラ】

かつては孤児で、己の特殊な体質のために周りからは忌子と迫害されていた。

その特殊な体質というのは魔力が一切扱えない代わりに、自分を含む周囲の血を操ることが出来るものだった。

森の中で1人孤独に死を待っていたところ、1人の竜人に拾われ、生きる術と己の体質との向き合い方を教えてもらい、その力を自由に扱えるようになった。

故に鮮血のデリオラと呼ばれるようになり、周囲から恐れられるようになった。

それからは竜人の元を離れ、とあるギルドに身を寄せることになったのだが・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ