選んでくれ。情報を吐いて安らぎを得るか、情報を吐かずに地獄を見るか
ヨスミ達はあの後、宿屋で部屋を取り、詳しい話を聞くため部屋にヴィクトリアを呼んでソファーへと座らせた。
「私は妹と共にステウラン村の冒険者ギルドマスターの要請を受け、カーインデルトに設置された転送門を使って救援へと赴こうした。だが、転送中に突然、謎の集団に襲撃され、転送門の一部が破損してしまい、座標位置に異常をきたしたまま転送され、気が付けばステウランではなくこの村から6日ほどの距離にある港町”ヘルイーズン”近くに飛ばされてしまった・・・。一緒に転送されたはずの妹の姿は別の場所に飛ばされてしまったようで姿が見当たらず・・・。5日掛けて色々と調べた結果、この町に飛ばされ、誰かに囚われ監禁されたという所までは調べ上げたのだ。だが・・・」
「なるほど、その先の情報は掴めず仕舞いということか。」
「救援に行けず、本当に申し訳ないと思っている。だが、あの子は・・・カリエラは亡き母が遺してくれた唯一の忘れ形見であり、私の唯一の肉親なのだ・・・。」
震えるその手に握りこぶしを作り、俯き、涙を必死に耐えている様子がうかがえる。
「あなた様・・・」
レイラが何か言いたげな顔で僕の顔を見つめてくる。
まあ、そうなるだろうな、と内心、ヴィアの話を聞こうと思っていた時から決めていたことだ。
「わかっているよ。ヴィア、そういった事情があったことで救援に来れなかったこと、理解した。村の危機と身内の危機、それらを天秤にかけた場合、僕も迷わず身内の危機を選ぶだろう。だから気にしなくていい。」
「ヨスミ殿・・・。」
「我々も手伝おう。1人で調べてみるよりも、人数を増やして事態に当たった方がより早く見つけられるだろうし。」
「そんな・・・!?」
「家族を失う怖さは僕も一度経験しているからね。後でフィリオラとアリスたちに事情を明かして手伝ってもらう様にする。だから今ヴィアが掴んでいる情報について教えてくれないか?」
「・・・、この御恩は決して忘れない。どうか、よろしく頼む・・・!」
ヴィクトリアは深々と頭を下げ、礼を言う。
その表情はとても切羽詰まっていて、危なっかしいぐらいに追い詰められている顔だった。
「カリエラは6日前にここに飛ばされた時、この町にはヘルマン伯爵が来ているという情報は掴んでおり、奴がカリエラを拉致、監禁したのではないかと疑っている。」
「ヘルマン伯爵とヴィアの関係性はなんだ?」
「私はエヴァージェンス家の令嬢で、騎士で成り上がった家系なのだ。私の父はヴァレンタイン公爵家が抱えている銀製騎士団の隊長を務めていて、ヴァレンタイン公爵家に絶対の忠義を誓っている家系でな。だが6日前、皇族派閥であるヘルマン伯爵は、我らヴァレンタイン公爵家と敵対関係であるのだが、ヴァレンタイン公爵家の庇護を受けているここ、エフェストルへ密かに赴いているらしい。」
「そういえばお父様からヘルマン伯爵についての話を聞いたことがあるわ。”我らに仇なそうとする皇族派閥の中で、ワーゲスト侯爵家とヘルマン伯爵家には気を付けよ”とお窺った事がありますわ。」
なるほど。平民から実力だけで騎士の称号と爵位を貰い、またヴァレンタイン公爵へ忠義を尽くすほどまでの存在へ成り上がったエヴァージェンス家。
貴族たちはそういった平民上がりの者たちの偏見や差別意識が強い傾向がある。
敵対している家門であればなおさらだろう。
「そしてヘルマン伯爵は裏で何やらこそこそとやっているという噂もございますわ。正確にはそれが何なのかはわかりませんけれど・・・。」
「・・・確かにそうなるとヘルマン伯爵は怪しく見えるね。ヴィアの妹がこの町に飛ばされた時期とヘルマン伯爵が秘密裏にここに来たという時期が重なっていることは果たして偶然なのかどうかというところか。」
「ああ。私はヘルマン伯爵が怪しいと睨んでいる。だが、その潜伏している場所が見つけられないのだ・・・。」
カリエラがここに飛ばされたことは確かだとしてもヘルマン伯爵がここにいるという情報は確定したことではない。
だからといって、その情報は偽りだというわけでもない。
実際にヘルマン伯爵がここにいるという情報が出ている以上、何かと面倒なしがらみがあることが多い。
わざわざ敵対している相手の庇護がある町に誰が好んで行く貴族がいるだろうか。
もっと別の思惑があるのではないかと疑ってしまうほどに、事態は複雑なモノになっていた。
「まずはヘルマン伯爵がどこで目撃されたのか、その情報はないのか?」
「確か町長の屋敷の裏門の方で見たと使用人が・・・」
と言いかけた所でヨスミは急に手でヴィクトリアを静かにさせ、自分たちのいる部屋の出口に通じる扉の方を見る。
ヨスミはそっと転移窓を展開し、何かを確認すると同時に目を瞑ると、突然隠密ローブを着込む男たちがしゃがんだ状態のまま目の前に姿を現した。
一瞬の沈黙の後、次に聞こえてきたのは男たちの悲痛なる叫びだった。
男たちの両手、両足だけが突如として消え、別の場所にゴロンと音を立てて落ちてきた。
ヴィクトリアは一体何が起きたのか理解できずにいる中、レイラとハルネは何事もなく急いでロープと布のような物を持ってくると男たちを縛り上げ、布のような物を口へと突っ込んだ。。
「ヨスミ、殿?これは一体・・・」
「部屋の外に誰かしらいるのだろうかと思ってね。転移窓で覗いてみたらこいつらが盗み聞きするようにドアの横にしゃがんでいたからここに”移動”させただけ。」
「手と足が無いのは・・・?」
「暴れたりしないしないように?」
「それにしたって、レイラ殿とハルネ殿はこんなにも迅速に・・・」
「部屋の外の気配に気づいた瞬間、わたくしの旦那様ならこうなるかなとすぐに予想はできていましたわ。故にわたくしたちがするべきことは、この者らの自決手段を防ぐこと、ですわ。」
「手足はヨスミ様が。どうにもならなさそうな口は私たちがするべきだと判断しました。」
「・・・わー、慣れてるのねー」
5秒も立たずして起きた出来事に、若干引き気味のヴィクトリアだった。
男たちを椅子に縛り付け、面と向かい合って座るヨスミ。
彼らは痛みに耐えながらも、鋭い目つきでヨスミとヴィクトリアを睨む。
「多分、ヴィアの後を付けていたであろう君たちよ。ここの話を終えた後、ヴィクトリアが外に出て一人になった瞬間を狙って襲おうとしていたようだったが・・・」
「・・・!!!」
「・・・・・。」
「君たちはきっと僕たちが持っていない、求めているであろう情報を握っているのだろう?それらを全部吐いてもらうよ。」
その時、ヨスミの瞳からは殺気交じりの鋭い眼光で男たちを睨みつけ、それに酷く怯んだ男たちだったがなんとか持ち堪えているように、ヨスミへ睨み返す。
「選んでくれ。情報を吐いて安らぎを得るか、情報を吐かずに地獄を見るか。」
その言葉の意味を知るのにはそう時間は掛からなかった。