僕の手元に残された数少ない宝物なんだ。
~お知らせ~
読者の皆様へ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
急用により、7月6日の更新はこの話で止まります。
次の51話は明日の7月7日の21時以降になると思います。
お待たせしてしまうことになり、大変申し訳ございませんがどうぞ宜しくお願いします。
「あなた様!落ち着いてくださいまし!わたくしはその、ほ、ほら!ご覧の通り、何ともありませんわ!」
『だがこいつらは僕の宝物の宝双山に触れた・・・。これは、もはや万死に値する・・・』
今までに聞いたことのないヨスミの怒りに震える声に、レイラはこれ以上被害が広がるのではないかと焦り、必死に止めようとする。
「ただ掴まれただけですから!ただそれだけ!それだけですから!」
『あんのド畜生共が・・・、我がヴァレンタイン家の宝をその薄汚い・・・いや、ドブにどっぷり浸かったような醜い手で触れるとは・・・絶対に許されない・・・。覚悟はよろしいですね?ド畜生の屑どもが・・・』
「ちょっと!ハルネまで!!落ち着きなさいな!」
『レイラ・・・?君は気づいていないかもしれないが、君の身体はあの男に触れられてからずっと震えているのですよ?』
「・・・え?」
レイラは自分の手を見てみる。
確かにヨスミに言われた通り、小さく震えていた。
無意識に、体に刻まれていた恐怖を思い出したかのように反応していた。
気が付けば目から涙を零し、視界が潤む。
ヨスミに抱き寄せられ、頭をそっと撫でられた。
先ほどまで思い出してきた恐怖が、ヨスミの手に撫でられるたびにスゥーっと抜けていく。
「・・・君にこのような思いをさせてしまうとは。君にどれほど謝っても許されない僕の罪だ。本当にごめん・・・。」
「そんな、ちが・・・あなた様は何も悪くない、のですわ・・・!」
「お嬢様・・・大変申し訳ございません・・・。私が傍に居ながらこのような失態を犯してしまい・・・」
「ハルネ・・・、あなたのせいでもありませんわ・・・。」
「ハルネ、どうかレイラを頼む。」
はい、と了承し、抱き寄せていたレイラをハルネへと託し、男たちの方を向く。
・・・なぜ人間という奴らは人の持つ宝に手を出そうだなんて欲深く、醜い思考に陥るのか。
これだから僕は、人間が嫌いなんだ。
「ぐうぅ・・・いでぇぇえ・・・!は、外してくれよぉ・・・」
「なんなんだよぉ、これはよぉ・・・!」
「全然、動けねぇ・・・!」
「そうなるようにブラックリリーを行使したからな。」
突き刺さった二の腕と太もものブラックリリーに伝う血。
どこからか突然現れ、両腕、両足、そして地面、この3つが固定されるかのようにブラックリリーは突き刺された。
前腕や脹脛ではなく、二の腕と太ももを突き刺した理由は、両腕と両足を動かすための基盤となる筋肉量が多い。
故にこの部位を切られたり打撃したりな損傷すると、腕や足を動かす力が上手く入れられず、活動に大きな支障をきたすことになる。
てこの原理で説明すればわかるだろう。
より大きな力を加えようとした時、内側ではなく、外側の方がより効率的に力を行使できる。
「貴様ら、楽に死ねると思うなよ・・・?」
「ま、待ってくれ貴公殿!」
突然、肩を掴まれ、誰かと振り返るとそこに金髪の女性騎士が焦った表情で立っていた。
「・・・あなたは?」
「私はヴィクトリア。怪しい男たちがここに向かうのを見かけた故、気になって追いかけたらこの惨状だった故、彼女らを助けようと助太刀しにきたのだが・・・」
「・・・、確かにあなたのような者を見かけたな。そうか、あなたが・・・。」
「だが、貴公殿がこうして事態を治めてしまった。どうやら私の力は必要なかったようだったがな。」
困ったかのように笑うヴィクトリアの表情を見て、再度この状況を見る。
全ての屑たちはブラックリリーによって繋がれ、全ての身動きが取れない状況にあった。
その誰もが、もはやレイラたちに一切の手が出せない状態であると火を見るよりも明らかだった。
「いや、あなたが止めに入っていなければ、あれよりもっとひどい結果になっていただろう。あなたには心より感謝する。」
とヨスミはヴィクトリアへ深々と頭を下げた。
「そんな、頭を上げてくれ貴公殿・・・。結局私は何もできなかったからな。」
「・・・では、これで。僕は今からこいつらに地獄がどんな所かをその身で感じてもらうため、その身で体験してもらわないといけないからな。」
「って、待て待て待て!そうだ、その事で貴公殿を止めたのだ!」
「・・・なぜだ?」
「ひっ・・・!?」
先ほどの憎悪と殺気に満ちた眼光に睨まれ、ヴィクトリアの全身を悪寒と絶望が走る。
(この者は、どんな境遇を迎えれば、どんな絶望を見れば、あんな瞳をその目に宿すことができる・・・? 話をしている時から感じていた。感謝こそされたが、終始その瞳には憎しみがちらついていた。きっとこの男たちにだけではない。私に対してもその憎しみは無意識だろうが少なからず向けられている。身内にはそんな様子は見られなかったことから、これは・・・身内以外の全ての人間に対する憎悪だ。)
「この者らの処遇は、どうか私に任せて、くれないだろうか・・・?」
「だから、なぜ?」
言葉の一つ一つがとても重い。
聞いているだけで全身が重くなり、意識も若干ではあるが鈍り、呼吸も苦しくなってきた。
だが、ここでこの者に奴らを殺されてしまえば、せっかく掴めそうな情報が・・・希望が・・・消えてしまう。
それだけは絶対に・・・!
「こ、このクズどもは、私の欲しい情報を・・握っている可能性が、あるのだ・・・。情報を聞き出した後・・・しかるべき処置を、いや、それ以上の苦痛を与えることを約束する・・・だから、どうか・・・貴公殿の矛を、収めてもらえないだろうか・・・」
「・・・・ふぅ、わかった。」
向けられていた瞳に映る憎悪と殺気が薄まり、ヴィクトリアは肺に溜まった空気を深く吐き出した。
先ほどまでの苦しさが収まり、一安心したかのように胸を撫で下ろす。
「すまない、貴公殿の気持ちもあるというのに、私のわがままに付き合わせてしまって。」
「しかるべき処置をきちんとその身に受けてくれるのであればいい。だが、1人でも逃れるようなことがあれば、容赦はしないよ。」
「・・・ああ、任せてくれ。」
・・・ああ、徹底的にやらないと私自身の身も危ない奴だこれぇ・・・
あれから衛兵たちが現れ、男たちを拘束して連れて行く。
そんな光景を眺めながら、レイラの肩を抱き寄せる。
「大事に、本当に大事になされているのだな。」
「・・・ああ。僕の手元に残された数少ない宝物なんだ。これ以上、失いたくはない。」
「あなた様・・・。」
「改めて自己紹介を。僕はヨスミ、この宝物はレイラ。」
「私はヴィクトリア・エヴァージェンス。ヴィアと呼んでくれ。」
ふいに掛けられた言葉にレイラの頬は赤くなる。
先ほどの震えもなくなり、表情も柔らかくなっていた。
「わかった。ではヴィア、一つ、いいかな?」
「ああ。何でも聞いてくれ。」
「アナタが欲しがっている情報と、以前ステウラン村で寄越した救援に来れなかった事。その二つには、関係あるのだろう?」
そう。
確かギルドマスターは自分と同じAランク冒険者に救援を出したと言っていた。
その名をヴィクトリア。そして、彼女のピアスについている結晶の色は金色。
金色を示す結晶はその者を”Aランク”冒険者であることを示している。
彼女がいたであろうカーインデルトからステウラン村までかなりの距離があるのに、ギルドマスターは彼女を呼んだ。
その距離を移動できる手段を持っているということだ。
なのに彼女は現れず、この町で出会った。
そして何かしら訳アリのようで、この男たちを殺すことを止めてきた。
「・・・そうだ。この町のどこかに私の相方・・・、いや、私の妹が囚われている。」