嫁と妹に僕の思考が見透かされてきた件・・・
あの後、ヨスミたちはタタンと別れ、<冥闇城>へと戻ってきていた。
僕はレイラたちと一旦別れて自室に戻り、テーブルに座ってタタンたちと話していたことを思い出す。
さて、どうしたものか・・・。
実際にそのドラゴン・・・まあ<人化>中だから人?に会っても別に構わないんだが、タタンやジーニアはそのドラゴンに対して否定的な様子を見せていた。
さらにはディアネスまでもがそのドラゴンと会うのはだめだという始末・・・。
僕としては新たなるドラゴンとの出会いに関してはもうウキウキで仕方がないわけだが、こうも周りのみんなが止めてくるところを見るに悪いドラゴンなのかな・・・?
【真理眼】を使えば、すぐに相手がどんなドラゴンでなぜ周りのみんなが接触するのを止めてくるのか、その原因もわかるとは思うんだけど、それすら許してはくれないし・・・。
僕がそんな風に悩んでいると、すぐ傍で丸まっていたハクアがむくりと体を起こし、悩んでいる僕の体に顔を埋めてきた。
『オジナー、だいじょーぶなの?』
「ああ、なんでもないんだ。」
『今考えているのって、オジナーに会いたい!っていうドラゴンのこと?』
「・・・まあ端的にいえばそうだね。僕としては自分の知らない未知のドラゴンとの出会いがそこにあるわけだから是非とも会いに行きたいという気持ちはあるんだけど、まさかみんなの反応があんなにも否定的だとは思わなかったから。まだどんなドラゴンなのかさえわかっていないのに、どうしてそのドラゴンが危険な存在だと言えるのかなって疑問に思っていてね。」
『うーん、わたしにはよくわからないけれど、それでもなんだかその話をしているととても胸がむずむずするかのように嫌な気持ちになったの。そのドラゴンの話になると特に強かったの・・・。』
「それで会わない方が良いってことかな?」
『うん・・・。なんだかオジナーとそのドラゴンを引き合わせたらすごく辛い思いをするんじゃないかってわたしはそう感じたの。』
「僕が辛い思いをする、か・・・。」
僕はとても悲しそうなハクアの頭を優しく撫でながら、少し思考を巡らせることにした。
ハクアたちの言う、会わせたくない理由のひとつ。
それがハクアとしては、”僕が辛い思いをする”というもの。
他の者たちは別の理由かもしれないが、とりあえず僕がそのドラゴンと会うことに否定的な意見のひとつは聞けた。
後はその理由・・・まあ、今の時点でわかるはずもないか。
となれば、やっぱり一人一人に話をしてなぜそんなことを思ったのか、直感的な意見を聞いた方がいいのかもしれないな。
「ということでジーニア。そこにいるんだろう?」
「・・・。」
ベッドの影から現れた頭と腕だけの存在であるジーニア。
彼女は僕とレイラの持つ魔眼でしか視認することができず、またその声も僕とレイラにしか聞こえない。
なぜそうなのか、その原因はわかっていないが少なくともジーニアは敵ではないようなのでこうして一緒に行動を共にしている。
まあ僕がドラゴンに対する特効を持った特殊な遺物を<転移>させたことで何かの条件が満たされ、誕生してしまった結果、ジーニアと僕は離れることができなくなってしまったために共に行動している・・・と言い換えた方がいいかもしれない。
「話は聞いていたんだろう?」
「・・・うん、聞いてたよ。」
「なら聞かせてくれ。どうして僕がそのドラゴンと会うことに否定的な意見を持つんだ?具体的なことを求めているわけではないんだ。ただなぜそう思ったのか、直感的な気持ちが知りたい。」
「・・・ヨスミは僕(私)の立ち位置についてはある程度察してはいるんでしょ?」
「ああ、そうだね。」
「なら、私(僕)の立場として言わせてもらうけれど、そのドラゴンの話題が出た瞬間、僕(私)のこの瞳が反応を示したの。絶対に野放しにはしてはいけないドラゴンだ!って。そんなドラゴンをヨスミが会ったら、絶対にいい展開にはならないのは確かだって思ったの。」
「ジーニアの瞳ってたしか・・・。」
「【竜殺しの瞳】・・・、他のみんなはそう呼んでたよ。この瞳に睨まれたドラゴンはありとあらゆる能力発動を封じ、さらには固い甲殻や竜鱗の強度を失くしてしまう。そしてその対象が悪意あるドラゴンであるならばなおさらその力は増していく・・・。」
「そんなものが反応を示した・・・、というわけか?」
「うん。それも強く反応したよ・・・。」
悪意あるドラゴンであるならばその効果は増していく、か・・・。
ジーニアの体は全てドラゴンに対して特効を持つ遺物で構成されている。
その理由は、かつて【魔王】と呼ばれた存在が4頭のドラゴンを引き連れ、人類を滅ぼそうと戦争をしかけたとき、旧文明の者たちが自分達の持ちうる技術力がつぎ込まれた、まさに旧文明の叡知の結晶とも言える存在。
それが後に【勇者】と呼ばれるようになった者。
そう、ジーニアこそまさにその【勇者】であるからだ。
4体の巨大なドラゴンに対抗するために作られた【勇者】は自然とその体に叩き込まれた技術は全てドラゴンを倒すことを考えられた兵器であるため、ジーニアの体のパーツがどれもドラゴンに特効効果を持っているのだ。
しかもその効果はどれも非常に強力で、あのフィリオラでさえ【竜惑わしの魔手】を使っていた人間相手にでさえ手も足も出ずに瀕死の重体にまで追い込まれてしまうほどだ。
それゆえ、彼女の言葉はある意味では無視することができない。
その悪意あるドラゴンというのが、人間たちに害をなすドラゴンという認識で間違いないから、僕に会いたいというドラゴンに対して反応を示す理由も繋がってくる。
「瞳以外にも他の部位は反応していないのか?」
「うん。基本的にドラゴンが悪意ある存在か否かについての判断はこの瞳が担っているの。しかも効果範囲も広くて、風の噂で流れてきた悪意あるドラゴンのことにも反応できるぐらい。だから私(僕)はおすすめしない。」
「・・・わかった。ジーニア、答えてくれてありがとうな。」
「ううん、僕(私)の方こそきちんとした回答ができなくてごめんね。」
「別に構わないよ。むしろ僕の方から、この質問の答えとしてそこまで言及しようとは考えていなかったからな。」
「・・うん。気を付けてね。」
そういってジーニアの姿がゆっくりとモヤが散るかのように消えていってしまった。
だがジーニアからは中々の意見は聞けたな。
【竜殺しの瞳】から感じたその意見についてはある意味その説得力は凄まじい。
だがまだまだ判断材料として他の意見もきちんと聞いておきたい、がこれからディアネスにこんな話を聞きにいくのはこの時間帯だとあまりよくない。
聞くとすれば、明日のお昼頃に昼食をとった後、デザートを食べさせたあとにでも聞いてみる方がいいだろうな。
となれば、後はタタンとユリアにレイラの3人か・・・。
レイラとユリアはそこまで否定的な意見は出していなかったが、タタンはその<人化>したドラゴンと会っていたという理由も存在してか、ジーニアたちと同様の様子を見せていた。
彼女に聞くのも明日にするべきだな・・・。
「はあ、今ここで色々と考えても埒が空かないか。とりあえずこの後の予定を色々と見直して計画を経てていかないと。」
『オジナー、やっぱりそのドラゴンとは会うの?』
「そうだな・・・。とりあえず向こうが会いたがっているわけだから、ドラゴンを愛する者として、そしてなぜかはわからないがいつの間になっていた<ドラゴンの御父>とかいう立場からして、子の面会をむげにすることは今の僕にはできないからね。」
『・・・そっかー、ならわたしがそばにいるの!』
「おお、それは本当か?お前が一緒ならもう怖いものはないな。」
『えっへん!オジナーはわたしが守るの!』
なんてどや顔で決めているハクアの頭をもっともっとわしゃわしゃと撫でてあげた。
それから数刻が経ったころ、突然部屋の扉がノックされ、扉を明けて入ってきたのはユリアだった。
「あの、お兄ちゃん?今いいかな・・・?」
「おお、ユリアか。どうしたんだ?こんな時間にやってくるなんて珍しいな。さあ、入ってくれ。」
そういって僕はユリアを部屋に招き、すぐ近くにあったソファへと座らせ、対面側のソファに座り直した。
なんだかそわそわしていて落ち着かない様子のユリアに、なにか異変でもあったのかな?と疑問的な表情を向けていると、意を決したかのようにまっすぐに僕の方を見てきた。
「お兄ちゃん!」
「は、はい!」
「えと・・・!あの・・・、お、お兄ちゃんに会いたいっていうドラゴンのことなんだけど、もし会うときには私も傍にいたらだめかな・・・??」
予想外な提案を持ってきたことに僕は思わず驚いてしまった。
「・・・え?あ、ああ・・・。別にそんなことならもちろん構わないけれど、でもどうして急に?」
「だってお兄ちゃん、みんなにそのドラゴンと会うのはやめた方がいいって言われてると思うけど、実際は会うつもりなんでしょ?レイラお姉さまも同じこといってた。あの人は色々悩み抜いた末、結局のところ最終的にはそのドラゴンと会うつもりですわって。」
・・・さすがレイラ。
見事に僕の考えを読まれてしまった。
「それならむしろそのドラゴンと会うときは傍にいてあげた方がいいのではなくて?って言ってもらえたから、そうすることにしたの!あ、もちろんレイラお姉さまも私と同じで一人でそのドラゴンとは会わせないっていってたよ!」
「まあそうだよな・・・。でも僕だってそのドラゴンと会わない選択肢だって・・・」
「お兄ちゃんがそんな選択肢選びっこないよ!」
「・・・よくわかってるじゃないか!」
そーだよ、端から会わないなんて選択肢はなかったよ!
それでも僕はそのことについて考えたぞ?!・・・5秒ぐらいだけだけどな!ーーーーーー




