<マガツ・ヴァルキリー>討伐戦 IV
レイラがすぐに<嘆く槍の戦天使>へと向かおうとしたが、すぐに目の前に大勢のアンデッドたちに立ち塞がれてしまった。
「これじゃあ<ゲイラエル>の所にいけないじゃないですの・・・!ほら、そこをどきなさいまし!!」
手に持っていた大盾を振り回して次々と押し潰したり、吹き飛ばしたり、薙ぎ払ったりしながら前に進んでいく。
レイラの行動を援護するかのようにその背後から50体は越える<巨顎>たちがアンデッドたちに飛びかかり、次々とその巨大な顎で食い散らかし始め、スケルトンナイトには<双鎌>たちが腕に生えている鎌で対処していく。
リオンハルトも自ら作り出した12体の分身体らと共にアンデッドらに殴り掛かり、次々とその拳一発で粉々に吹き飛ばしていく。
その背後からはユトシスの強力な魔法の援護もあって、どんどん<ゲイラエル>との距離が縮まっていく。
ある程度進んだところで、突然<ゲイラエル>が天を仰ぎながら涙を流すと、流れた涙が頬を伝って地面に堕ちるとその地中からひときわ強力な個体のアンデッドが姿を現した。
「こいつは・・・<リッチナイト>だと!?」
「はははっ!まさかあの<死の騎士>なんて恐れられているあの魔物が出てくるとはな!」
全身合金鎧を装備した骨馬に乗り、黒く禍々しい黒鎧と赤いマントを靡かせ、頭はフルフェイスアーマーをつけており、視線を通すための目線部分の溝からは赤い炎のような物が揺らいでいた。
その手には長杖と大鎌が合わさったような独特な武器を手にしており、明らかに他のアンデッドたちよりも一線を画する存在であるとわかる。
「<リッチナイト>?それってどういう魔物なんですの?」
だがレイラはやつの存在を知らない様子で、大盾でアンデッドたちの攻撃を受けながら問いかけてみる。
「<リッチナイト>、またの名を<死の騎士>と言いまして大鎌にも長杖にも見えるあの武器で切られると、肉体は傷つきませんが、魂本体にダメージを与えられると言われ、非常に厄介な存在です。もし奴に魂を刈られてしまうと肉体はただの動かなくなった人形と化し、その魂もまた輪廻の輪に還ることができなくなり、消滅してしまうそうです。」
「それゆえに奴の危険度は文句なしの<S>ランクに認定され、過去<S>ランク冒険者の何名かが奴の討伐に失敗して死んでしまったこともあったそうだ!最終的には魔女の炎に骨の隅々まで焼かれて倒されたと聞くぞ!」
「そんなやべぇやつがよりによってなんでこんなところにきやがった・・・!?」
「アイツは私が相手にします。どうやらアイツもそれを望んでいるようですので・・・。」
そういうと、<リッチナイト>はまっすぐにユトシスの方に視線を向けていた。
「・・・やれんのか?」
「やらなければここでみんながやられてしまうわけですし、粘ってはみます。ただその間皆さんの回復はできなくなると思うのでどうかそこだえ気を付けてください。」
「その辺りなら問題ありませんわ。そういう状況を見越して大量の<ハイ・ポーション>を持ってきておりますの!」
そういってレイラは腰にぶら下げていたマジックポーチに手を突っ込んで中から10本入りの<ハイ・ポーション>が入った箱を4つ取り出した。
「おいおい、こんな大量の<ハイ・ポーション>とかみたことねえよ!1本辺りの値段知ってるのか?!」
「もちろんですわ。せいぜい金貨1枚でしょう??」
「あーそういやこいつの実家、公爵家だったわ・・・。そりゃあこんぐらいの高額なポーションを大量に用意できてても仕方ねえわけだ・・・。」
「はははっ!ちなみに俺は1本も買えないぞ!父親からはそういった援助はしてくれないからな!」
「そういやこいつの実家も公爵家だったけど、くっそめんどいしきたりがあるんだったな・・・。」
と、そこへ突然ユトシスの足元にあの黒いモヤが展開されるとそのモヤから手のようなものが生えてきて彼の足をがっちりと掴んだ。
「ロリコン皇子!」
「私なら平気です。きっとアイツとやりあうための空間に連れていかれるだけだと思うので。それよりも私が戻ってきたら全滅してたなんてことはやめてくださいよ!それに私はロリコン皇子じゃな」
と最後まで言いきる前にそのまま黒いモヤの中に引きずり込まれてしまった。
完全にユトシスが黒いモヤの中へ入ったのを確認した<リッチナイト>は骨馬を走らせ、宙を駆けるとその大鎌を振るって目の前にユトシスが入った空間であろう入り口を開き、そのまま入り口を潜って空間内へと入って消えた。
「ここからは回復などの支援は一切ありませんわ。できる限り気を付けて<ゲイラエル>のもとに向かいますわよ!」
「そうだな・・・。明らかにやばい相手が消えてくれたのはいいが、もっとやばそうなのがあそこに控えているわけだしよ・・・。」
「はははっ!全力で叩き潰せばいいだけのこと!さあ、いくぞ!!」
真っ先に飛び出したのはリオンハルト公子で、その勇猛果敢な戦いぶりは見ているこっちも感化されてしまうほど激しいものだった。
その拳を振るう度に強力な爆発が発生し、その爆発に周囲のアンデッドらを巻き込んで吹き飛ばしていく。
レギオンも負けてられないと先程よりの倍の数の召喚獣たちを出現させるとアンデッドたちに向けて突撃させていく。
<巨顎>たちは食い散らかしつつも、アンデッドの大群に囲まれて次々と逆に食い潰されたり、<双鎌>たちも次から次へとアンデッドらを切り刻んではいるものの、その圧倒的な数を前に押され、各個撃破されていく。
「ちぃっ・・・!」
「これ大丈夫なんですの・・・!?」
「仕方ねえ・・・、<鞭鼻>!やつらを蹂躙しろ!」
すると背後から6体の巨大な獣が姿を現し、次々とその大きな足でアンデッドらを踏み潰していった。
また襲いかかってくるアンデッドたちは湾曲した長牙を振り回して薙ぎ払ったり、その3本もある鞭のような細長い鼻の乱打で吹き飛ばしていく。
するとここで突然レギオンが膝をつく。
急いで駆けつけてみるとどこか様子がおかしく、息切れしていた。
「レギオン!?」
「大丈夫・・・、少し無理をしただけだ・・・。」
これまでに何百体といった召喚獣らを召喚し続け、更にはあんな上位個体を6体も同時に出現させてしまえば、レギオンにかかる負担もかなり大きいものとなっていたのだろう。
<鞭鼻>による蹂躙はかなりの制圧力で、これまで進めなかったアンデッドの軍勢に対してどんどんその数を減らしながら<ゲイラエル>に近づいていく。
分身体らもだんだんとアンデッドたちの反撃にあって消滅していき、リオンハルト公子の息もあがりつつあった。
レイラも他のみんなと同じように<アイギスの大盾>で前方にいるアンデッドの軍勢たちを叩き潰したり、地割れを発生させてそこに落としたり、全力で投擲させて衝撃波を発生させて一掃したりしていたがそれでも<ゲイラエル>に近づけば近づくほどアンデッドの魔物たちも強くなっているようで、とうとう<エリートスケルトンナイト>らと<ブラッドグール>たちの軍勢にぶち当たる。
それでも何とか対処しようとはしていたが、そこにまた<ゲイラエル>が大きく泣き声をあげる。
案の定、またその瞳から涙が流れ、頬を伝って地面に堕ちると、その地中から巨大な骨の腕が現れるとがっしり地面を掴む。
そしてもうひとつの腕が現れ、同じように地面を掴むとその黒いモヤから巨大な髑髏頭がレイラたちの前に姿を現す。
「な、なんなんですのあれは・・・!?」
「くそが・・・今度は<スケルトンキング>だと・・・!?」
「なんともでかいスケルトンだな!」
「あれが、<スケルトンキング>・・・!とても大きいですわ・・・!」
なんてレイラがその大きさに圧倒されていると、リオンハルトが突然動きを止める。
その足元にはユトシスと同じように黒いモヤが広がっており、そこから無数の手のようなものが延びて彼の足を掴んで引きずり込んでいた。
「リオン!?」
「はははっ!どうやら今度は俺が指名されたらしいな!なあに、問題ない!たかがでっかくなったスケルトンだろう!すぐに倒して戻ってくるから心配するな!それよりもレギオン、レイラ公女を頼むぞ。」
リオンハルトはそれだけ告げるとそのまま黒いモヤの中へと引きずり込まれてしまった。
それを確認した<スケルトンキング>はでてきた場所からもう一度中へ引っ込んで消えてしまった。
これで残されたのはレイラとレギオンの2人だけ。
<ゲイラエル>まであと50mほどの距離まで来たが、目の前には未だに強力な個体のアンデッドたちがレイラたちの進行を塞いでくる。
だがこれまで大量の召喚獣らを出し続けてきたレギオンもそろそろ限界に近づいてきている様子。
明らかに戦力が足りない。
「ダメですわ・・・。この大盾では満足な立ち回りもできませんから、あの強力な個体の軍勢を相手にしきるなんて・・・。」
「いい・・・、ここは俺様の<鞭鼻>どもでなんとか・・・ぐふっ・・・!」
とうとう嗚咽しながら吐瀉物を撒き散らし始めた。
「レギオン!?」
「ゲホッゲホッ・・・くそ、久々に魔力枯渇症になっちまった・・・。」
「全くもう・・・、とりあえずあなたはここで休んであとはわたくしが・・・」
「とは言うが・・・あいつら相手にどうするつもり・・・げほっげほっ・・・」
確かに目の前にいる魔物たちにこの大盾だけじゃ・・・なんて顔をしかめていると突然奴らのど真ん中に銀色に光る何かが堕ちてきたかと思った瞬間、その衝撃によって目の前にいたエリートアンデッドの軍勢たちが薙ぎ払われた。
その衝撃波はレイラたちにも及び、大盾でレギオンを庇うようにして守る。
「なんだ、一体どうした・・・!?」
「わかりませんわ!でもなにかが目の前に空から落ちてきたかと思ったらこの衝撃波が・・・。」
やがて衝撃波が止まり、大盾の構えを解いて落ちてきたものを確認すると、その落ちてきたものにレイラは目を離せなかった。
まるで鏡のように磨き上げられた刀身には桜のような枝木が刻まれており、鍔の部位には龍麟がふんだんに使われているようで煌めいている。
そして柄の部分に龍が巻き付いているかのような装飾が施されており、そこにはまさにわたくしが追い求めて止まなかった<シラユリ>の姿があった・・・ーーーーーー。




