表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
473/517

なんて威力なんですの・・・!?


「いったぁあ〜い・・・。もぉ〜、よ〜しゃないんだから〜。」


<ファントム・グスタフ>が空間を切り裂いて、そこに潜んでいた【眷属】を引きずり出したはいいが、姿を現した姿はこれまで見てきた中で一番異様な姿をしていた。


いや、正確には異様な姿という表現は少し違うかもしれない。


これまで見てきた【眷属】らは全身が真っ黒なスライムだったり、火の巨人だったり、そもそも生物としての形をとらず、エネルギー体そのものだったりと、明らかに生物としての定義を越えた存在として立ち塞がってきた。


だが今わたくしたちの目の前にいるのは紛れもなく人間体。

真っ白な髪は自身の身長の倍ほどの長髪を持ち、白く長いまつ毛、真っ白な目の中に横に伸びた黄色い瞳、鼻はスラッと延びているが口は見当たらない。


肌は白く、豊満な胸、細い腰つきからして女性と見受けられる。


どこまでも人間に近い見た目をしているため、これまで見てきた【眷属】らに比べると明らかに異様な存在にしか見えなかった。


「とはいえよ〜?アスモは〜、すっごく〜?たのしめたからよしとするわ〜!」


とても大人びたように見えるのに、彼女から発せられる声はまるで無邪気な子供のように聞こえる。

見た目と声のギャップがさらに彼女の異様さを強調させているように感じた。


アスモ、恐らくそれは彼女の名前なのだろう。

こんな時、あの人はどういう表現をつけるのかしら・・・?


「あなたの目的はなんですの?」

「それをきいたところで〜、あんたたちにりかいできるとはおもえないけどね〜?」

「そうだろうな。俺様たちはてめぇらのことを理解しようとは思えねえしよ」

「はははっ!確かにお前たちのような絶対悪の考えなど俺たちには理解できそうにないな!まあ理解しようとも思わないがな!」

「ちょっと〜、なにそれムカつくんだけどぉ〜?」


そういいながら、ムキになってほっぺを膨らますアスモ。

その仕草はどう見ても子供のそれである。


「ま〜、もともとはなすつもりもなかったし、べつにいいや〜!それにどーせ、いまここであんたたちをころすつもりだし〜?」


そういって目元に笑みを浮かべ、彼女の両手にはこれまで感じたことのないほどに凝縮された魔力の固まりが生成されていた。


「あれはまずい・・・!」

「ちっ、ここは俺様の召喚獣・・・」


と2人が余裕がなさそうに焦り始めたとき、突如として彼女の両手が突然切り落とされた。

供給されていた魔力が断たれ、生成された魔力の固まりは消滅する。


その瞬間、わたくし含め、その場にいた全員が呆気にとられていた。

アスモ自身も何が起きたのか理解できていないようで、突然なくなった自身の両手を見る。


そしてとある人物を見て天を仰いだ。


「そーじゃん・・・、そっちにちょ〜めんどくさいやついんじゃん・・・!」


駄々をこねるように空中で地団駄を踏んだ後、何事もなかったかのように切り落とされた両手を生やした。

彼女の両手を切り落としたのは他でもなく、<ファントム・グスタフ>だった。


「うっそ・・・。お父・・・<ファントム・グスタフ>、あなたが奴の手を?」


わたくしの問いかけには答えず、ただチラッとわたくしの方を一瞥したのちにもう一度アスモの方を見る。

その感じがどこまでもお父様にそっくりで、わたくしはそれが肯定であると理解できた。


「やっぱ、姫さんの親父さんはおかしいぜ・・・」

「はははっ!この感じからして、先ほど俺たちと戦っていたときは明らかに手加減していたということか!」

「なによも〜、ほんっと〜にめんどくさいな〜!とりあえずおまえからころ」


と彼女が最後まで言いきる前に突然アスモの首が飛んだ。


だがそれで【眷属】が死ぬなんてことは到底考えられなかった。

実際、首を切り落とされ、宙を待っている最中、彼女の表情はこれまで以上にうんざりしたような怪訝な表情を浮かべていたからだ。


アスモは飛んでいく頭を掴み、そのまま何事もなかったかのように元あった場所にくっ付けた。


「さいごまでセリフをいわせてよも〜!」


ここまで<ファントム・グスタフ>にやられているアスモではあるが、その態度はどこまでも余裕そうに見える。


「首を切り落としても死なないのか・・・?本当になんなんだ【眷属】ってのはよぉ・・・!」

「はははっ!もはや笑うことしかできんな!」

「とはいえ、わたくしたちもお父様の援護をしますわよ!」

「お父様って・・・、まあ違ぇねえけどよぉ、いいのか?」

「訂正するのはもうめんどうなんですの!それに<ファントム・グスタフ>がお父様を模倣したのなら、もうそれはお父様で・・・」


と言い返していたとき、突然それは起こった。


いきなり<ファントム・グスタフ>に突き飛ばされたかと思った次の瞬間、目の前で<ファントム・グスタフ>はミンチ状に吹き飛ばされた。


何が起きたのかさっぱりわからない。


なんの前兆もなく、その場で<ファントム・グスタフ>だけが何かを察知して行動を起こし、わたくしを庇って細切れに吹き飛ばされてしまった。


わたくしたちはすぐさま臨戦態勢を取り、急いで【幻想眼】を発動させる。


その瞬間、【幻想眼】で見えた少し先の未来視にて、わたくしたちは容赦なく<ファントム・グスタフ>と同じように細切れにされて殺される未来が見えた。


それも数秒後にそれが起こるのだ。


<神速>で限界まで加速してそれを回避する未来を探すが、何をどうしてもわたくしたちはミンチ状になってしまう。


逃れられない死を前に、その未来がだんだんと近づいてくることによる不安感に蝕まれ、呼吸が荒くなっていく。


ない、ない、ない、ちがう、だめ、これもだめ、ちがう、ない、ない、だめ、ちがう、だめ、だめ、だめ、だめ・・・!!


何をどう足掻いても、死を回避する未来が見えない・・・!

どうして・・・!?


いったいどうやれば、みんなの死を回避できるんですの・・・!!

こんなところで死ぬなんてできませんのよ・・・!?


わたくしが死んでしまったら、あの子達が・・・、あの人が悲しんで・・・


無情にも近づいてくる死の未来。

どんどんわたくしの精神が掻き乱されていくのを感じる。


脳裏をよぎる、あの人が静かに涙を流す光景に、動悸が激しくなっていく。


あっ、だめ・・・だめ・・・!!

そして・・・。


パァアンッ!


未来視で見えたわたくしの死、その瞬間にわたくしに叩き込まれたのは理不尽な死ではなく、ジェシカのビンタだった。


「お婆様、しっかりしてください!」

「・・・えっ?あれ、生きて・・・」


周りを見渡してみると、<ファントム・グスタフ>や他のみんなは死んではおらず、アスモへ攻撃を叩き込んでいた。


だがアスモの周囲には魔力障壁によるバリアが張られており、レギオンやリオンハルト公子の攻撃らを防いでいた。


「よお、姫さんや。ようやっと正気を取り戻したみてぇだな。」

「レギオン・・・?なんでみんな生きて・・・」

「それはあの【眷属】の仕業だ。」


話を聞くに、どうやらわたくしは突然無反応になり、ボーッとし始めたらしい。


直後、わたくしを禍々しい霧のようななにかが漂い始めたかと思えばそのまま段々と様子が豹変していき、次第には精神が狂ったかのように叫び始めたとのこと。


必死にわたくしを正気に戻そうとしたらしいけれど、元に戻るどころかさらに悪化してしまい、最終的には<ファントム・グスタフ>がわたくしを包み込む<禍霧>をその身に引き受けたとのこと。


それでもわたくしは無気力にぼーっとしたままだったため、<治癒>魔法をその手に宿した状態でジェシカがわたくしの頬にビンタを食らわして正気に戻したということだそうだ。


<ファントム・グスタフ>の方をみると彼は膝を着き、どこか苦しそうに動けなくなっていた。


「あ〜あ、もうめをさましちゃったの〜?みらいがみえるってきいたから、とってもすてきなみらいをみせてせいしんをほうかいさせようとおもったのに、ざ〜んねん!まあでも、かわりにそっちのめんどそうなのがどうにかできたし、アスモてきにはす〜っごくまんぞく♪」


いったい、わたくしが見ていた未来はどこからどこまでが本物だったんですの・・・?


少なくとも、わたくしを突き飛ばして<ファントム・グスタフ>がミンチになったのはあいつが見せていた幻術・・・?


「でもまあ、そのままあんたもせいしんがこわれてくれれば、くるしむことなくしねたかもしれないのに、おしいことしたね〜?」

「お黙りなさい・・・っ!」

「あ、おこった〜?そんなにひどいみらいをみたの〜?どんなみらいだったか、アスモきになるな〜!」

「お婆様、これ以上相手の言葉を聞いてはいけません・・・!」


情緒不安定となるわたくしの精神、押さえ込もうとするもうまく行かず、相手の言動一つ一つに苛立ちを覚えるがそれをジェシカが無理矢理わたくしの顔を掴むと自身の方へと視線を向けさせた。


「ジェシカちゃん・・・?」

「気をしっかり持ってください・・・!今のお婆様からはいつものような余裕のある感じがしません!以前の【眷属】との戦いで見せた余裕さをどうかここでも見せてください!」

「・・・。」


ジェシカちゃんの言う通りですわ・・・。

ギオンを目の前で死なせてしまい、そこからわたくしは心の余裕さを失っていたような気がしますの。


これじゃあ本当の意味で【完璧な淑女】としてはほど遠い存在になっておりますわね。

今のわたくしは淑女どころか、貴族令嬢としての品格も損なわれ、もはや畜生以下の存在ですわ・・・。


そしてわたくしは自身の両頬を両手で思いっきり叩く。

乾いた音と、頬から伝わる鈍い痛みが荒ぶる心を落ち着いていく感じがしてきた。


「お婆様・・・、もう大丈夫そうですね。」

「ええ、あなたのおかげよ。さあ、ここは危ないからハルネたちを守ってくださるかしら?」

「はい・・・!でもまたお婆様に何かあればすぐに駆けつけますからね!」

「うふふ、本当にいい子ですわね。その時にはよろしく頼みますわ。」


そう約束し、ジェシカは<双鎌>らが守っている中に戻っていった。


わたくしはもう一度アスモを見上げる。

先ほどまで渦巻いていた感情の荒ぶりも感じられない。


「どうやら調子が戻ったようだな、姫さんよ。」

「はははっ!さすがレイラ公女だ!我が親友の妻をしているだけあるな!」

「むしろ遅すぎましたわ・・・。いまの状況はどうなんですの?」

「見た通りだ、俺様の子分たちに攻撃させてはいるが、歯が立たねえ。相棒の攻撃も傷ひとつついてねえ。だがその代わりあいつ自身も攻撃してこねえところをみるに、あの魔力障壁を張っている間は攻撃できねえんだろう。とはいえ・・・」

「あのまま放置してはいけなさそうですわね。」


【幻想眼】で見えた、アスモの現状。

魔力障壁を張った中で、彼女はどんどんとその内側に魔力を段々と練り上げていた。


そしてあの練り上げた魔力でいったい何をしてくるのか予想はできないが、明らかに無視できない状況であることはわかった。


「はははっ!そういうことだ!急いであの魔力障壁を割って、あいつの行動を阻止せねば恐らく俺たちは殺されるのは確かだな!」

「どうしてそういうことをそんな風に笑いながら言えるんですの・・・。さあ、いきますわよ!」


もし<ファントム・グスタフ>が動けていれば、あの魔力障壁は楽に破壊できただろう。

だが今の彼はわたくしを蝕んでいた<禍霧>を引き受けてくれたせいで、動けなくなっている。


つまりわたくしたちだけであの魔力障壁を破壊し、奴の行動を阻止せねばならないということ。

ただし、今ここにいるのはドヴェルムンドにて【眷属】の一人である【火の化身】を討伐した者たちだ。


この2人も【眷属】との戦いについてはある程度わかっているはず。

一筋縄では行かないということが・・・。


「ふふふ〜、あんたたちにこのバリアがこわせるとはおもえないけどね〜?ま〜、がんばってよ〜!」


どこまでも舐め腐った態度を取り続けるアスモ。


だがどうにもその態度や様子からして幼稚じみている。

明らかに無邪気な子供を相手にしているみたいでやりにくさがある。


とはいえ、このままなにもしないわけにもいかず、わたくしたちはアスモの魔力障壁に攻撃を叩き込む。


「<神速・一文字>!」

「<インパクト・ナックル>!!」

「<円撃乱舞>!」


わたくしの<神速>から繰り出される強烈な一撃。

リオンハルト公子の渾身の一撃に加え、<鞭鼻>のな名前通り、鞭のような巨大な鼻を3本顕現させると狂ったように魔力障壁へ強打していく。


3人の猛攻を受けているにも関わらず、アスモの表情は崩れるどころか余裕そうに大きく体を伸ばしていた。


黒妖刀の耐久を考えてこれ以上荒く使ってしまえばポッキリと折れてしまう。

でも今の状況からそんなことを言っていられる場合ではない。


アスモから感じられる魔力の強さも、正直洒落にならないほどに膨れ上がり始めている。

【幻想眼】での未来視をしなくとも、このままだと非常にまずいことだけは理解できる。


四の五のいっていられないってことですわね・・・!

シラユリ、どうかわたくしに最後の力を貸してくださいまし・・・!


あの魔力障壁を打ち破ることのできる一撃を・・・!


そしてわたくしは呼吸を整える。

意識を全て、この一撃に集中させていく。


辺りの雑音も聞こえなくなり、全てが無になったような感覚・・・。

腰をおとして静かに構える。


極限まで練られた魔力とわたくしの<怪力>が組み合わさった、渾身の一撃。

シラユリの刀身に満開の花が咲き乱れ、刀身事態も花びらのように散っていく。


「<神速・風花連華の舞い>・・・!」


次の瞬間、レイラの姿が消えた。


それと同時にアスモの張った魔力障壁に花びらが舞い、その花びらが魔力障壁に触れると強烈な斬撃が発生した。


1秒足らずでおよそ100回の斬撃が叩き込まれているようで、徐々に魔力障壁にもヒビのような割れ目が入り始めた。


「おぉ〜、やるじゃん!でも〜?」


とここでついに恐れていた事態が起きてしまう。


ーーーバキィィイインッ!


これまで愛用してきたシラユリがとうとう耐えきれずに砕け散ってしまったのだ。


その衝撃に態勢を崩してしまい、そのままの勢いで近くの壁に激突しそうになったところ、ジェシカの水の泡が出現したことでその中へ飛び込み、衝突を免れた。


わたくしを包み込んでいた水の泡は解け、地面におりたわたくしの前には粉々に砕け、まるで花が散って地面に落ちたかのようにみえる刀身の破片。


「・・・ごめんなさい、シラユリ。どうか、わたくしを許して・・・」


わたくしの渾身の一撃も届かず、魔力障壁は小さな小さなヒビが入った程度に留まってしまった。


すぐさまリオンハルト公子とレギオンが追撃に入ろうにも、突然魔力障壁から強烈な衝撃波が発生し、それを至近距離で受けてしまったリオンハルト公子はそのまま吹き飛んでいき、レギオンと衝突してしまう。


「おしかったね〜?でももうじかんぎれ〜!それじゃあみんな、なかよくしんで・・・へっ?」


その場にいた誰もがつい諦めてしまった瞬間、突如として遥か上空から放たれた混成魔法の巨大なビームに、アスモの魔力障壁は一瞬にして飲み込まれてしまった。


「これは一体・・・。」

「<火>と<光>の混成魔法・・・しかも<神>級クラスとなればあれは<サテライト・カノン>かぁ・・・?あんなド派手でバカみてぇな火力をした魔法をぶっぱするなんてな・・・。」

「はははっ!こんな芸当ができるのはあのお方しかいないな!」


気がつけば放たれた混成魔法のビームは消滅し、地面に叩き落とされたアスモとそれを見下ろす一人の皇子の姿があった・・・ーーーー・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ