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・・・うーん、こりゃあさっさと結婚した方が良い気がする


「・・・ハルネの方は何とかできたみたいだ。」

「本当ですの?よかったですわ・・・」


転移窓を一つだけ開き、上空からハルネたちの動きを見守っていた。

もし危機的な状況を迎えそうなときはすぐに掩護するためでったが、問題ないようだ。


ただ毒霧の影響をもろに受けてしまったようで、暫くは動けなくなるだろう。


「でもどうして毒霧なんて、水堕蛇に毒はあまり効かないはずですのに・・・。」

「多分、レイラが思っている理由ではないと思う。毒にもいろんな効能があるからね。体を蝕むだけじゃない・・・。きっと、あの湖を汚染している毒も・・・。」

「色々な効能・・・?一体どういうことですの・・・?」

「村人の様子からして人間に対しては衰弱、そして魔物のような存在には傷の治りを遅くするような毒なのだろう。数か月前に冒険者たちと交戦した時の傷が未だにこんなふうに治らずに残っている。」


改めてレイラは水堕蛇の状態を見てみる。

未だに大きな切り傷や矢が刺さった後、一部が焼けた後や落とされた3つの首。


この霧が出始めたのは同じように数か月前と。

そして聖域内に入っている頭部の部分の傷は徐々に傷が治り始めていた。


「確かに・・・、聞いた話では負った傷はすぐに回復すると言われている水堕蛇が未だにこの状態のままはおかしいですわ・・・。」

「そしてレイラの展開した聖域の中に入っている部分の傷だけはこうして傷の治りが早い・・・。水堕蛇、大丈夫か?」

『・・・はい、人間様。おかげさまで・・・なんとか一命だけは取り止められたでありんす。』


京都弁・・・。

それに囁くように聞こえる声も澄んでいる。


「そうか。その傷を全て」

「あなた様?あの傷全て引き受けるなんてこと言わないですわよね・・・?」

「ア、アア・・・、シナイヨ・・・。」

『いけますえ、人間様・・・。これでもうちは水堕蛇。それに、うちにはまだ死ねへん理由があるんやさかい。』


そういって、自らの腹部を見る。


ああ、そうか。

宿り始めたのか、宝物が・・・。


「確かに、それは死ねないね。大丈夫、僕が君たちを守るよ。」

『おおきに、人間様。・・・もしよろしかったら、名前をお聞かせいただけしまへんか?』

「僕はヨスミ、そしてこの子は僕の大事で仕方がない大切な恋人のレイラだ。」

「へあう!?え、あ、その、えと・・・はいぃ・・・レイラですわぁ・・・」


真っ赤に染まった顔を両手で覆い、何度も裏返る声で恥じらうように自己紹介を済ませた。


直後、水しぶきがあがり、フィリオラが水の中から姿を現した。

その手には紫色の魔法陣が刻まれた禍々しい石を手にし、ヨスミ達の方へといく。


「ヨスミ、あなたの言った通りこの水を汚染してた原因を見つけたわ。これで暫くすればこの湖の汚染もなくなるはずよ」

「これで一件落着・・・というわけには参りませんわね。」


水堕蛇の方を見る。

気が付けばほんのわずかではあるが、負っている傷が徐々に回復していく。


だが、回復するところから傷口がまた再度開き、先ほどよりも更に血が流れていく。

すでに再生能力を失ってしまっているようだ。


「これは・・・」

『ヨスミはん、どうかうちの最期の頼みを聞いてもらえしまへんか?』

「・・・何をすればいい?」

『今私がここで死んだら、お腹に眠るうちの宝物まで一緒に壊れてまいます。そやさかい、うちの残ってる生命力全てを持ってこの宝物をこの世に生み出す。どうかその宝物を・・・』

「僕が何とかできるものなのかい?」

『はい、ヨスミ様ならきっといける。お願いできしまへんか?』


徐々に水堕蛇の声が霞み、弱々しくなっていく。

もう時間も残されていないのだろう。


「・・・僕にできるのであれば、あなたの頼み、必ず。」

『おおきに。これで、安心してこの子ぉ託せます・・・。』


そうして静かに目を閉じた。

徐々にその頬に置いた手から伝わっていた熱が抜けていくのを感じる。


「・・・。」

「あなた様・・・。」

「ヨスミ、本来この子の種族は卵を産むことに全生命力を使い、命を落とすの。だからこれは自然の摂理というものよ。ヨスミが気に病むとはないわ。」

「・・・、そうだね。たとえ高貴なドラゴンでさえも自然の前ではどうしようもない。」


それはわかっている。

万物全てが逆らうことのできぬ、世の理。


わかっているからこそ、もう少し何かできなかったのかと悔やんでも悔やんでもまだ足りない。


一度心を落ち着かせ、水堕蛇の頭に触れる。

ゆっくりと


「・・・お疲れ様、偉大なる母よ。お前の生み出す宝を、この身を持って守ることを誓う。」

「わたくしも、あなた様と共にその宝を守ることを誓いますわ。」


2人の宣誓が聞こえたかどうかはわからないがその時、水堕蛇の頬が緩み、どこか笑っているように見えた。

それを最後に、水堕蛇の体から完全に熱が消え、命の灯火が無くなったのだとわかった。


その直後、胴体の方で物音が聞こえ、レイラと共に音のした方へと向かっていく。

そこには拳程度の大きさで独特な模様のようなものが入った白い卵が転がっていた。


レイラはその卵を手に取り、そっとぎゅっと抱きしめる。

まるで大事そうに、とても大事そうに・・・。


「レイラ・・・、ありがとう。」

「いいえ。今からこの子はわたくしたちの子供ですわ。」

「・・・こど、も?」

「ええ!だから、大事に育てましょう?あなた?」


この子が生まれた時に親がいないってなったら、この子にとって悲しいことになりかねないな。

・・・うーん、こりゃあさっさと結婚した方が良い気がする。


でも、そう断言してくれて、全てを受け入れてくれるレイラがより一層可愛く愛おしい。


「ありがとう、レイラ。」

「うふふ、いいんですのよ?あなた・・・。」

「・・・あー、私もいること忘れてるわけじゃないわよね?」

「ああ、もちろんだ。」

「つまり見せつけていると、良い度胸じゃないの。」


ふと気が付くと毒霧は完全に晴れていて、そこには蒼く輝く美しい大きな湖が広がっていた。

まるで、レイラの瞳のような深い水色のような・・・。


未だに毒素は残ってはいるが、これから少しずつ毒素は消え、依然と同じような姿へと戻るだろう。


「フィリオラ、ハルネの方へ行って彼女の解毒をしてくれないか?」

「そうね、いつまでもここにいるとその内砂糖でも吐くんじゃないかと思っていたのよ。」


フィリオラはハルネたちのいる方へ向かって森の中に姿を消した。

残されたヨスミとレイラは水堕蛇の顔に寄りかかり、その手で触れながら卵を愛でていた。



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