冒険者殺しと懲罰者
どうしてヨスミ様はこんなに正確に物事を把握できているのでしょう。
「はあ・・・、はあ・・・。」
「ハルネ、さん・・・、だいじょ、うぶ・・・?」
『無理をするな、人の子よ。』
どうしてヨスミ様はあんなにも無理をしてまで戦い続けれるのでしょう。
「おいおい、なんなんだよあいつ等はよぉ・・・」
「黒い虎に亡霊に、ほほー、上玉じゃねえかよぉ!」
「見ろよお、あの胸!それにあのケツ!くう~、そそるねえ!」
どうしてヨスミ様は己を犠牲にしてまでその信念を貫けるのでしょう。
「まずはあの黒いヤツと亡霊をぶっ殺そうぜ。」
「あの亡霊も殺すのか?結構可愛い顔してやがるぜ?」
「幽霊相手にやったところで気持ちよくなれっかよ!ぎゃーはっはっはっ!」
『畜生どもがぁ・・・!!』
どうしてヨスミ様は・・・あれほどまでに、人間を恨んでいるのでしょうか。
「はあ、はあ・・・。確かに、あんなクズばかりを、相手にしていたら・・・人間嫌いに、もなりますわね・・・!!」
「いいねえ、そういう反抗的な女を屈服させるのが好きなんだぁ。ギヒヒヒ!」
お嬢様の命により、ヨスミ様が示された場所の偵察しに来たら、ひたすら毒の霧を噴射する魔法陣が描かれた切り株と、それを守るかのように冒険者パーティーがいた。
そう、冒険者パーティーがそこにいて、敵対しているのだ。
つまり、この騒動の元凶は、山賊でも盗賊でもなく、我々と同じ冒険者たちなのだ。
そしてその魔法陣を守るために、いくつもの魔法陣が張られており、それらがハルネたちの動きを鈍くし、魔力を制限されているため、上手く立ち回れず、またハルネに至ってはマスクである程度抑えてはいるが毒霧を完全に防げてはいないため、すでに毒が回り始めている。
それに対し、奴らはこの毒霧を防ぐための完全マスクなど、この環境で動く専用の装備を身に纏っている。
つまり、奴らは最初からこの事態を引き起こしたという事。
あの村に大きな被害を被ると、いや・・・この畜生共だ。
村人たちも弱らせてから、生き残った者を男は戦奴隷に、女性は性奴隷にでもするつもりなのだろう。
「ほんと・・・、下衆な奴らね・・・。」
「いいねえ、美人の罵りは聞いてて気持ちがいいねえ!」
「いくぜぇえ!!俺らを楽しませてみせろやあ!」
片手斧を持った冒険者は一気に距離を詰めてくるが、銀鎖に魔力を通し、詰められまいと振り回しながら牽制する。
自らを貫こうとする銀鎖を片手斧で弾きながら距離を詰めて来ようとする。
「腐っても冒険者、ってこと・・ね・・・。」
本来、冒険者同士での戦闘は完全に規約違反とされている。
故に、ハルネと戦っている冒険者たちは全員ペナルティを課せられる。
冒険者同士での戦闘行為による違反は首に掛けられている結晶の彩が赤色の光が帯び、その冒険者は<冒険者狩り>と呼ばれている。
だが、そんな犯罪冒険者と戦う冒険者は青色の光が帯び、その冒険者は<懲罰者>と呼ばれている。
それぞれ冒険者狩りと懲罰者の結晶は冒険者ギルドで見てもらわないと消えることはない。
懲罰者ならば問題ない画、冒険者狩りになると相当な理由でない限り出向くことができないために実質上、冒険者の剥奪を意味し、ただの賊となんら変わりない扱いを受けることになる。
そして私の結晶は青色に光っている。つまり今の私は懲罰者ということは奴らは確実に冒険者狩りであることは確実なのに、あの首から下がっている結晶は何の色も帯びていない・・・。
「ギヒヒヒ!不思議かあ?俺たちは、健全な冒険者様なんだぜぇ?」
「なんで疑問がってるか知らねえがなあ?俺たちはただただ普通の冒険者なんだからよぉ!」
「ざれ、ごとを・・・!」
「クズ人間・・、は死ぬ、べき・・・!」
アリスは黒鎖を形成し、まるで鞭のように振り回す。
大斧を持った冒険者は回転させ、それを全て撃ち落とし、アリスに一気に距離を詰めようとするが、
『喰らうがいい!』
黒雷撃を発生させ、周囲を伝う様に感電していき、大斧の冒険者に直撃し、遠くへ吹き飛ばした。
「うっそだろ・・・、魔力伝達率低下の魔法陣が張られてあるから魔法の威力が半減もするんだぞ・・・!?」
「くそ、他のヤツラよりも先にあの黒いヤツから潰せ!」
弓を持った冒険者がシロルティアへと矢を放つ。
シロルティアに当たる直前で全身を伝う黒い帯電が矢に当たり、黒焦げとなる。
「くそっ、ならば・・・!<矢の雨>!」
空へ放つ矢が光を帯び、それが空中で弾けると無数の光の矢となり、シロルティアへと降り注ぐ。
『なめるな、人間共・・・!<黒雷破>!』
シロルティアを中心に黒い雷撃の波動が放たれ、降り注ぐ矢の雨を全て弾き飛ばした。
その衝撃が弓の冒険者まで届き、全身を砕くような電撃に襲われ、脳まで焼かれるように全身黒焦げになりながら吹き飛ばされた。
「なんだよアイツはよぉ!あの魔法陣の効果は聞いてねえじゃねえかよ!」
「ちゃんと効果は発動してるわ!あの黒いヤツがおかしいだけだわ!」
「よそ見してるなんて、・・いい度胸、ですね・・・!」
「んなっ!?」
銀鎖が伸びてきて片手斧の冒険者の首に絡まると、一気に首を絞め揚げる。
苦しそうにしている冒険者を引き寄せ、そのまま心臓を貫いた。
「死になさい・・・!」
「ぐふぅう・・・!?」
「舐めたマネしやがってこのアマぁあ!!」
と突き刺した鎖斧を抜こうとしたが何かに引っ掛かったかのようにうまく抜けず、背後から迫ってきた片手剣を持って迫ってくる冒険者が止めを刺そうとしたが、急に動きが止まる。
「う、動けない・・・!?」
「逃がさ、ない・・・!」
全身を黒鎖で縛られ、動けないことに気付く。
「くそが・・・! あめえんだよ!!<火炎壁>!」
男の周囲を炎が包み、黒鎖が焼け落ちる。
「力が・・・、うまく入ら、・・ない・・・!」
「わかってんだろうなあ!」
と片手剣をアリスへ向けて投擲するが、シロルティアが横から咥えて阻止し、抜きとった鎖斧を背を向けている男へ双斬撃を繰り出した。
深く切り刻まれ、悲鳴を上げる男に追い打ちをかけるようにアリスの黒鎌による強烈な一撃が入った。
大きな血飛沫と内蔵の一部が飛び出し、そのまま地面へと倒れた。
「はあ・・・はあ・・・、早く、魔法陣、を・・・・・・。」バタッ
「ハルネ、さん・・・・!ママ、おねが、い・・・!!」
『ああ、任せろ!』
シロルティアは全ての魔法陣の上に空から黒い雷を落とし、消し飛ばした。
完全に効力を失った魔法陣からは毒霧が出てくることは亡くなり、周囲を覆っていた毒霧も少しずつ晴れていく。
「おわ、り・・ました・・・。おじょう、さま・・・あと、を・・・頼み・・・ま・・・・」
「ハル、ネ・・・さん・・! しっか、り・・・して・・くださ、い・・・!ママ・・・!」
『待っていろアリス、今いく!』
こうしてハルネたちの戦闘は終わり、毒霧の対処はなんとか完了した。