レイラちゃん、ヨスミの扱い方が徐々にわかってきた感じね・・・。
「ありがとう、ございます・・・。私はこの村の村長でございま・・・げほっげほっ」
「ああ、無理をしないでください。ただそんな状態で申し訳ありませんが、今起きている件について詳しい事を教えてもらいたいです。ドラゴンとか、ドラゴンとか、ドラゴンとか、ドラゴンとか、どらgげふぅっ!?」
『きゃーっ♪』キャッキャッ
背中に背負っていたハクア、腹部に絡まっていた尾が一気にキツく閉まり、息が苦しくなって意識が飛んだ。
おっとと・・・、とレイラが倒れそうなヨスミを支え、一息つくとそのまま一緒に地面へ座ってヨスミを横にする。
もはや慣れた光景に慣れている自分と、気絶しているヨスミのどこか満足げな表情に愛おしさを感じているのか、うふふ・・・と髪を撫で始めた。
「あ、あのう・・・」
「ああ、気にしないでくださいまし。どうぞ話を続けてくださいませ。」
「はあ・・・」
あのドラゴンが姿を見せ始めたのは5か月ほど前・・・。
現れる前兆は何もありませんでした。
大きな地響きも、不気味に光る赤い星も、そういった不吉な前触れは何もありませんでした・・・。
それは突然でした。
ある日、村人たちが原因不明の病に倒れたんです。
理由もわからず、村の薬師に見てもらいましたがダメでした。
その内、薬師も倒れてしまい・・・。
そこで、村の井戸の水を飲んだ人から優先的にかかることに気付いたころにはすでに村の半数以上がこのような状態で・・・。
それに合わせてこのような霧も出てくるようになりました・・・。
なので、まだ動けそうなネネとククをステウラン村の冒険者ギルドへと救援に向かわせたんですが、
「こうしてあなたたちが来てくれたという・・・げほっげほっ・・・そういうわけです。」
「そうだったのですね・・・。ドラゴンという情報はどこで?」
「はい・・・。1か月前、村の近くにある湖で、首の長い大きな怪物の姿が目撃されまして・・・。それで、水の汚染が原因なのではないかと・・・。それで何とかこの湖に毒が広がっていることに気が付いたのですが・・・、それが限界でした・・・。首の長い怪物といえば、ドラゴンぐらいしか思い浮かばず・・・。」
「そうだったんですのね・・・。」
ドラゴンという言葉にピクピク反応するヨスミの頭をあやす様に優しく撫でる。
「本当にあなた様は・・・。さて、これからどう致しましょうか。ハルネ、湖に住む毒を撒き散らす首の長い魔物について心当たりはあるかしら?」
「・・・ドラゴン、に近い種ではありますが、”水堕蛇”という魔物の話を聞いたことがあります。確かAランク相当の魔物の類です。ですが、文献で呼んだ内容と少し違う所が・・・。」
「違う所?あ、ちょっとあなた様?もう少し寝ててくださいまし。」
会話の度に体がピクピク反応するヨスミが起きないように、睡眠の魔法を掛ける
「文献では湖に入る時期としてはまだ早いんです。普段は湿地帯のような沼地に生息し、寒い季節が訪れる前に湖に入り、湖の水底に穴を掘って洞窟を作るとそこで卵を産むのです。そして湖の水が凍結する前に自らの体で穴を塞ぎ、次の春に卵が孵ると子等は自らの母の死骸を食って成長し、洞窟を出て沼地へ行くのです。ですが今の季節はまだ夏の終わり、産卵時期は秋の半ばぐらいですからまだ早いのです。」
「確かにそれはおかしいわ・・・。」
「それに水堕蛇は毒を持っていますが、水堕蛇が巣を作った湖に毒が広がるなんてことは聞いたことがありません。それにこの霧だって・・・。」
水堕蛇・・・、4つ首の巨大な蛇・・・だったかしら?
首を落としても少し経つとすぐに回復するほどの高い再生能力を持ち、毒や火を吐く性質を持っているとされている魔物・・・。
ハルネの話を聞く限り、今の時期に水堕蛇が湖に入る可能性は低いから別の魔物の可能性がありますわ。
それに首の長い魔物なんて結構多いから水堕蛇であると断定はできませんわね。
「まだ、情報が足りませんわ。」
とここで、教会の扉が開き、フィリオラが部屋に入ってきた。
「ここにいたの・・・、ってヨスミはどうしたの?」
「いつもの発作で御座います。」
「ああー・・・。」
どこかジト目になり、呆れたような表情でジーっとヨスミを見た後、
「とりあえず湖の方に様子を見に行ってきたわ。多分あの子は水堕蛇よ。」
「やっぱり水堕蛇だったのね・・・、でもハルネから聞いた話だと湖に居る理由がわからないのですわ・・・。本当にフィー様が見たのは水堕蛇だったんですの?」
「ええ、間違いないわ。でも・・・どこか様子がおかしかった。何かあったのね。」
Aランクの魔物、水堕蛇・・・。
今のわたくしは未だにBランク・・・。AとBの差は大きなモノでわたくしの実力では歯が立たない可能性が高いですわ・・・。フィー様とアリスちゃん、シロルティア様がいるなら何とかなるかもしれませんが・・・。
「原因はわかりましたわ。もう少し情報が欲しい所ですわね・・・。村長さん、他に何かこの村付近で気になることとかありませんの?」
「そう・・・ですね・・・ごほっ。そういえば、この異変が起こる数日前に、ステウラン村の方から冒険者パーティーが食料のために立ち寄ったことがあるぐらい・・・でしょうか・・・。何の依頼で来たのかはわかりませんでしたが・・・。」
「・・・なるほど。」
異変が起こる数日前に訪れたという冒険者パーティー、それから起こり始めた水の汚染、そして湖の水堕蛇・・・。
仮説としては、水堕蛇と何らかの理由で交戦、仕留めきれずにこの湖に逃げ込み、傷口から毒素がしみだして湖が毒に汚染されたと。
そう考えるのが妥当ですわね。
「そうなると、今は手負いということになりますわね。」
「うーん、そうなると問題なのが・・・」
「ドラゴンが手負い、だと。」
「あっ」
「あっ」
「あっ」
レイラとハルネ、フィリオラが気づいた時にはすでに遅く、その声が聞こえたと同時にやらかしてしまった声が漏れてしまった。
そこには般若の顔を浮かべた恐ろしい形相のヨスミが禍々しいオーラを出しながら立っていた。
「どこのドイツだぁぁ?ヒュドラちゃんを殺そうとした奴らはぁ・・・」
「あ、あなた様!ちょっと落ち着いてくださいませ。そんな風ではヒュドラさんは助けられませんわよ!」
「・・・そうだな。すまん、冷静さを欠いた。助かったよ、レイラ。」
「本当にドラゴンへの思いはどこまでも本気なのでございますね、うふふ」
「レイラちゃん、ヨスミの扱い方が徐々にわかってきた感じね・・・。」
「さすがお嬢様で御座います・・・」
「・・・この人らに任せて本当に大丈夫なのでしょうか・・・ごほっごほっ。」
ヨスミたちの騒ぎを見て、どこか不安を覚える村長と村人たちだった。