・・・よかったな。大事な人たちが無事で。
「食事も終わったところで、君たちに聞きたことがある。何があったんだ?」
食事を終え、起きてきた子供たちに話を聞くことにした。
自分自身の体調も全快したわけではないが、正常に判断できるし話を聞くだけなら問題ないと判断した上で話を聞き、今後どうするか・・・
「私たちの村に、ドラゴンが出たんです・・・」
「よし行こうか!君たちの村はどこだ!?今すぐ教ぐふうっ・・・!?」バタッ
『えーいなのー!』キャッキャッ
ヨスミが急に立ち上がり、最後までいう前に腹部にハクアミサイルが飛んできて見事直撃し、ヨスミは意識を手放した。
倒れそうになったヨスミの体をレイラが支え、慣れた手つきでそのまま横に寝かせた。
「ひっ!?」
「ああ、気にしないで坊やたち。さて、話の続きを御願いしてもいいかしら?」
フィリオラは優しい笑みのまま、子供たちへ問いかける。
「えと、僕たちの村はここからあっち方面にあるんだけど・・・、村の湖にとても大きなドラゴンが現れて・・・それから村の水全てが毒に変わって・・・父さんも、母さんも・・・村のみんな・・・うう・・・」
「ドラ、ゴン・・・がはぁっ!?」
「きゃーなのー!」キャッキャッ
ドラゴンという言葉に反応したのか、ヨスミの意識が再度取り戻され、起き上がろうとしたがハクアミサイルが腹部に再度直撃し、再度意識を手放した。
「あなた様のドラゴンへの執念がここまでだなんて・・・。」
「いい?レイラちゃん。ヨスミはドラゴンとあればその身をいとも簡単に差し出すほどの御馬鹿だからしっかり手綱を握るのよ?」
「は、はいですわ・・・!!」
「こほんっ!さて、事情はわかったわ。坊やたちのお名前は?」
忘れてた!と言わんばかりにはっとした顔で2人の子供はフィリオラと向き直る。
「私はネネ、こっちは弟のククだよ。」
茶髪のネネとクク。年齢的に10歳と8歳ぐらいだろうか。
だがここまで痩せ程っていることと村で起きている件を踏まえればもう2~3歳上なのだろう。
「ありがとう、私はフィリオラ。フィーちゃんでいいわ。それで、そのドラゴ(ピクッ)・・・うーん。怪物はいつ頃現れたの?」
「半年ぐらい前・・・だと思う・・・。正確なことはわからないの・・・。」
「この水を飲んでから、色々と記憶があやふやになって、体も怠くなって・・・」
「そう・・・。そういえばもうそんな時期だったかしらね。とりあえず、ネネ、クク。あなたたちはもう休みなさい。明日の朝、ヨスミの判だ・・・いえ。村に案内してね。」
そういうとフィリオラはネネとククを寝かしつける。
「それじゃあわたくしたちも片づけて明日の準備をしましょう。」
「あなた様は本当にドラゴンという種族が好きなのですね」
「ああ、ドラゴンは男のロマンだからな!」
「そうなのですね!それじゃあ今度わたくしでも可愛がれそうなドラゴンについてお教えいただけませんか?」
「・・・レイラは本当にいい子だね。大好きだよ。」
「もうあなた様ったら・・・」
「ねえ、フィリオラおねえちゃん。あれほっといていいの?あれでもこの小説の主人公なんだろ?」
「いいのいいの。ってか、あなたいつからメタ属性獲得したのよ?いい?そんな属性は持っていていいことないからさっさと捨てなさい?」
元気になったであろうククが目の前で起きている甘い空間を見て眉をひそめながら、フィリオラへと問いかける。
フィリオラはすでに慣れたようにあしらう。
「村はもうすぐだよ。」
「・・・皆さま、少しお止まりください。何か、臭います・・・。」
ハルネが突然みんなを制止させ、ハンカチを用意して口と鼻を抑える。
フィリオラは何かに気付き、レイラへ話かける。
「レイラちゃん、浄化魔法を御願いしてもいい?」
「わかりましたわ。」
フィリオラからお願いされ、以前使用したレイラの魔法<聖域>を使い、周囲を浄化された領域に変える。
「これは、瘴気・・・ではないわね。でも、毒の霧に近いものよ。あまり吸い込むと危険だわ。」
「そんな・・・僕たちがこの村を出た時はここまでじゃなかったのに・・・!」
「クク、君たちはいつこの村を出たんだ?」
「えっと・・・」
「確か2日ほど前だったと思います。夜が2回来ましたから・・・」
2日前・・・。
まだ村に到着していないとはいえすぐそこだという。
あんな状態の子供たちの移動力からすれば・・・いや、川の水なら大丈夫と踏んで飲んで動けなくなっていたのか。
事態は多分一刻を争う可能性が高い。
「この中で毒耐性のある者はいるか?」
「私とハクアちゃんにアリスちゃん、しろちゃんだけね。」
「レイラ、君はこの魔法を維持しながら進めるか?」
「ゆっくりとなら問題ありませんわ」
「なら、フィリオラは上空から、アリスとシロルティアは地上から先に先行して様子を見て来てくれ」
「はーい。それじゃあ行くわよ!」
「ママ、行こう・・・」
『うむ。』
フィリオラは翼を顕現させ、上空へ飛び上がる。
アリスとシロルティアはそのままこの先へと向かって駆け出していった。
残されたヨスミたちはそのままゆっくりと進行していき、村の入口と思われる部分にたどり着く。
「ここが、ツーリン村か?」
「そうだよ・・・。ねえ、お兄さん。一ついいかな?」
「なんだい?言ってごらん?」
「そろそろ降ろしてほしいんだけど・・・」
「今にも泣き出しそうな顔で、君たちの両親の所に行こうとするからいけないんだよ?」
そう、今現在ネネとククはヨスミの両脇に抱えられ、動けない状態だった。
村に近づくたびに、不安な表情を増していき、今にも飛び出さんとする様子だったため、ツーリン村の生き残りであろうこの2人を危険に晒すわけにはいかないため、このような処置を取っていた。
最初こそ2人は突然の事に驚き、暴れはしたが、ヨスミの懸命な説得により、大人しくなった。
「君たちの思うところはあるだろうが、我慢してくれ。」
そう言って、ヨスミは2人を下ろす。
大人しく下ろされ、しょんぼりした顔でヨスミ達の後を追っていく。
そして村の大きな建物内の前にいるアリスたちの姿を見つけ、そちらの方へを向かっていった。
「アリス、何かあったか?」
「ここ・・・、村のひとた、ち・・・全員、あつまって、る・・。」
『どうやらここは教会のようだ。この辺りだけは毒の霧の効果は薄くなっているからここに避難したんだろう。生命反応からして一応村人たちは全員無事だ。』
「父さん、母さん・・・!」
「ママぁ、パパぁ・・・!!」
ネネとククは教会の扉を開け、中に入っていくと両親の姿を見つけたのか、2人の元へ駆け寄っていった。
「レイラ、君はここで聖域を展開してくれ。ハルネはここの村人たちの手当てを。アリスとシロルティアは引き続き、周辺の探索を。何か異常を見つけたらすぐさま報告してくれ。」
指示を受けた皆はそれぞれ散会し、ヨスミは無事両親と再会したネネとククたちの様子を安堵したように見ていた。
そしてヨスミ自身も気づかずに、無意識に口から言葉がこぼれた。
「・・・よかったな。大事な人たちが無事で。」