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【軋轢を生む靁鳴り】戦 part1


「そんな、ガヴェルド王陛下・・・陛下?」

『・・・手ごたえが感じられない?』


確かに【眷属】であるゼリストールの雷角はガヴェルド王の腹部を貫いている。

だがゼリストール自身も、貫いた手応えを感じていない事への違和感をヒシヒシ感じているようだった。


それもそのはず、ゼリストールが貫いたガヴェルド王の体がまるで<蜃気楼>のように体がふやけていき、やがて跡形もなく消え去ったからだ。


「獣帝王陛下・・・!?い、一体どこへ・・・」

「俺なら最初からここだ・・・。」


すると最初にガヴェルド王が居た場所に元々いたとでも言わんばかりにゼリストールに視線を向ける。


「な、なぜそこに・・・槍を持ってあの雷獣を死角から貫いたはずでは・・・?」

「言っておくが、俺は一歩もここから動いておらん・・・。ここでずっと飛ばされたレイラ嬢を守っておったが・・・」

「・・・そういえばそうでしたわね?え、でもさっきわたくしたちに見えたあのガヴェルド王の勇猛果敢な戦姿は・・・」

「それは僕に掛けられた<蜃気楼>を少し使わせてもらったんだ。」

「ヨスミ殿・・・、え?お、御姿が変わられた・・・??」


そう、僕は『玉藻丞』に掛けられた<蜃気楼>の効果を【真理眼】で確認し、その内容を見て迷わず<転移>を用いて自分に掛かっていた<蜃気楼>をガヴェルド王へと移した。


だって、ゼリストールが狙っているのはガヴェルド王だってはっきり言っていたからね。

今後獣帝国を立て直す際には確実にガヴェルド王の力が必要となってくる。


もしここで死なれたりでもしたらマリアンヌ王女の負担が大きなモノとなってしまうだろう。

その結果として、僕の正体がバレてしまうことになってしまうのは仕方がない。


「あ、あなた・・・?!それじゃあ正体がバレて・・・」

「元々この<蜃気楼>を掛けてくれた玉藻丞も、その効果には一時的なものであり、全てを隠しきれるとは思わない事、なんて釘も差されてたし、遅かれ早かれ僕の姿なんてすぐにばれてたよ。それに、レイラだけはそのままの姿じゃないか。これじゃあ君だけ苦労することになる。とても不平等だと思っていたんだ。」

「もう・・・、あなたったら。」

「・・・イチャコラしている最中すまないが、実際今起きていることはなんなんだ?あの雷獣の正体は一体・・・?」

「あー、アイツらは【眷属】なんて呼ばれてる存在、簡単に言えばこの世界の【絶対的なる悪】であり、必ず倒さなければならない敵だと認識してくれればいい。ちなみに先帝を死に追いやったのも、【眷属】の仕業だ。」

「なに・・・!?父上が死んだ理由は、兄上が原因ではなかったのか・・・!?」


どうやら先帝が死んだ理由を知らなかったようで、僕の衝撃的な真実を受けて動揺している様子を見せていた。


「うーん、推測だけど・・・ゲセドラ王子が狂った理由は多分アイツが原因だろうね。アイツ自身も混沌を齎すとか言ってたし、戦争を起こして大量の魂がなんちゃらとも言っていたし・・・。」


きっと、レイラたちが戦ったとかいう僕の知らない【眷属】である【魂喰らいの黒液】とも何かしら繋がりがあった可能性もあるな・・・。


「アイツのせいで・・・兄上が・・・!うぐっ・・・」

「陛下、無理やり動かないでください・・・!」


ガヴェルド王の瞳から覗く激情に体が反応して、立ち上がろうとするがすぐに呻き声を上げ、苦しそうにその場に崩れるように倒れる。


すぐさま傍に居た兵士たちが倒れそうになっているガヴェルド王を支え、事なきを得た。


「とりあえずこのままだとあんたらは邪魔になるから、<転移>で先に避難させるぞ。」

「ま、待ってくれ・・・俺はアイツをこの手で葬らねばならぬのだ・・・!」


ガヴェルド王は必死に槍を掴んで臨戦態勢に入りかけていたが、問答無用で<転移>させた。

残されたのは僕とレイラとシオン・・・ん、なぜシオンは残った?


確かに全員を対象に<転移>させたはずなんだが、この感じだと僕の<転移>で飛ばされてすぐに何かしらの方法を使って戻ってきたな?


「・・・あー、シオン?なぜ君は戻ってきた?それもどうやって・・・」

「ワシの能力の1つに、【石犬】と同じように<転移>など空間を一瞬で移動する際に生じる空間の歪みに干渉できるものがある。だからヨスミ殿の<転移>に干渉してなんとか戻ってきたんだ。」

「【石犬】・・・、ってことは僕を追い回した部隊は・・・」

「・・・恐らくワシの管轄している部隊だろうな。」

「その話ぃ、後でじっくり詳しく聞かせてほしいのですわぁ・・・???」


とんでもない殺意をシオンに向け、シオンは怯えた表情で小さく縮こまった。


「あの時は仕方がなかったのだ・・・。でも今は違う、あの雷獣をどうにかするのだろう?ワシも力を貸そう。アヤツからは得体の知れぬ恐怖を感じるのだ・・・。アイツを放っておくわけにはいかぬ・・・!」

「・・・まあ、その意見には同意ですわね。」

「とりあえずガヴェルド王たちは逃がしたし、後はあの【眷属】を倒せば色々と肩が付くはずだ。さっさと終わらせ・・・うおっ!?」


すると突然、ゼリストールは大きく鳴き、無数の雷が周囲に次々と落ちていく。

その後、僕たちを強く睨みながら、でもどこかあざ笑うかのように話し始める。


『我が靁鳴が届く場所であるなら、どこへでも瞬時に移動することができる。下等な弱者共よ、例えお前たちがどれほど遠くへ逃げたとしても、決して我からは逃げられぬ。』

「別に逃げるつもりはないし、お前を逃すつもりもないよ。今ここで君を完全に打ち滅ぼす。」

『・・・良い度胸をしている。我を勝手に【軋轢を生む靁鳴り(ゼリストール)】などという不名誉な名を付けた事といい、ことごとく我の計画を邪魔してきていることといい、更には我と同族までもその手に掛けたこと・・・。我らには別に仲間意識なんてものはないが、お前たちの話でよく聞く、【敵討ち】とやらをさせてもらおう・・・!』


様々な獣の姿を取る雷獣・・・ゼリストールは天高らかに咆哮を上げる。

すると周囲に無数の雷が落ち、周囲の環境が<雷>属性を帯び始め、地面や木々、さらには大気に強い帯電状態となっていた。


下手にあの中に突っ込めば、全身に<雷>属性の魔素に変換され、避雷針のような状態となってしまうために奴の攻撃が必中となってしまう・・・【真理眼】で読み取れた情報ではそういうことらしい。


少しの時間経過であの帯電状態となっている環境は落ち着くらしいけど、その前にまた同じように雷が落ちてしまえばすぐに帯電地帯になってしまうらしく、迂闊に奴の懐には突っ込めない・・・か。


そしてその事を<感覚共有>によってレイラに情報を共有させる。

いつもは真っ先に突っ込んでいたレイラもすでに異常状態を察していたようで、イライラしながらも慎重に様子を伺っていた。


驚いたことにシオン自身も無暗に突っ込んだら死ぬという気配を感じ取っているようで、じっとゼリストールの出方を見ていた。


そんな僕たちが一切動きを見せない様子を見てふんっと鼻で笑った。


『どうした?我を倒すのではなかったのか?』

「そうしたいのは山々なんだけど、面倒なものを作ってくれたおかげで僕の愛する嫁が斬りかかれないんだよ。」

『なら迷わず飛び込んでくればよいだけのこと。』

「雷獣よ、お前がワシらの元に来ればよいだけのことだ。そんな自ら生み出した領域から出ようとしないということは、ワシらを怖がっているとみて相違ないか?」

『・・・面白い。』


シオンの挑発的な言葉を受け、ゼリストールは僕たちを強く睨むと次の瞬間には奴の姿が消え、一瞬の間を置いてまるで雷が落ちたかのような轟音と共に、シオンの目の前に発生した衝撃波。


だがそれは雷ではなくゼリストールの後ろ足による蹴り飛ばしで、シオンは咄嗟に鞘でガードするもその勢いはあまりにも強烈だったのか、そのまま吹き飛ばされる。


続けざまに今度はレイラに雷角の斬撃を繰り出すが、レイラは<神速>と【幻想眼】の組み合わせにより、未来視でゼリストールの攻撃を予知し、咄嗟に体を捻ることで雷角の貫きを回避する。


ゼリストールはそのまま突き出した雷角を振るい、斬撃を繰り出すがそれら全てを黒妖刀の鞘を使って受け流していく。


一方は霹靂一閃が如く、もう一方は神をも超える速さが如く、レイラとゼリストールの攻防はすでに人間、いや全生物の視界に捉え切ることは不可能な状態となっていた。


そこに吹き飛ばされたシオンが戻ってくるとすでにその手には大きな曲剣の刀身が抜かれており、決して見ることは叶わぬレイラとゼリストールの攻防の中、正確な一撃が繰り出され、その斬撃はゼリストールを捉えていた。


タイミング、間合い、速度、角度など、どれをとっても完璧な一撃。

だがゼリストールはシオンの放つ斬撃をいとも簡単に躱した。


「ばかなっ・・・!」

『この娘よりかは遥かに遅い。だが、その上でこの正確な一撃は見事だな。まあ、それだけなわけだが・・・』

「あら、わたくしを忘れてもらっては困りますわっ!!」


さっきまではゼリストールの猛攻をひたすら防いでいたレイラだったが、一気に立場が逆転して今度はレイラがゼリストールに黒妖刀による斬撃を繰り出し、それを雷角で受け流すこととなる。


実際、ここでレイラが斬り込まなければゼリストールの反撃によってシオンの胴体を雷角で貫かれ、全身を感電させられて焼死体になっていた確率が高い。


その事はシオンも感じているようで、どこか悔しそうな表情を浮かべていた。

だがこんな姿さえ見えない超高速な攻防の最中に、敵だけを精確に狙った一撃を繰り出せるシオンはもしかして相当腕が経つのだろうか・・・?


種族としては獣人ではなくやはり竜人の部類らしい。

その身体能力は獣人よりかは遥かに上である。


「さすが竜人といった方がいいのだろうか。」


なぜ獣人たちの治める国に傭兵団の団長として<半獣人>たちと同じような扱いを受ける竜人種が傭兵団の団長なんてやっているのか、少し興味が湧いてきた。


なんて考えていると突然嫌な予感がしたので咄嗟にレイラを<転移>で無理やり僕の方に連れてこさせる。


案の定、レイラの体は帯電状態となっているようで一部麻痺していた。

こんな状態に陥っていても、あそこまで戦えるレイラの成長ぶりがどこか誇らしい。


「あ、なた・・・?」

「ストップだ、レイラ。とりあえず君は暫く休みなさい。」

「れ、でも・・・」

「体の彼方此方が帯電状態で麻痺してるんだろう?ほら、呂律もきちんと回っていないじゃないか。」

「だ、らっれぇ・・・・」

「だってもどってもありません。体の麻痺状態が治って体も自由に動かせるようになるまで休憩だ。」


どこか不満げなご様子ではあったが、これ以上僕は曲げることはしません、なんて態度を強調して見せたらそのまま大人しくなった。


レイラの速さに驚いたのはどうやら向こうも同じようで、レイラの事を強く睨んでいた。


『まさか【靁鳴り】である我の速さについてこれる生物が存在したとは驚きだ。だが今はもう我の【靁鳴り】を受け流す際に我の体から流れている<雷>属性の魔素に当てられ続けたようだな。もはや我に追いつける者はお前たちの中では存在せぬ。さあ、どうやって我を止めるつもりだ?』

「どうって・・・、まあとりあえずこうやって?」


そういってヨスミが指を鳴らすと、ゼリストールの全身が無数の蒼白い棒によって貫かれていた――――――。



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