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そして僕たちが向かうは異変の発祥地・・・


気が付けば、陽の高さから今の時刻は10時前後だと予想ができる。


元々朝の4時前に出発する予定ではあったが、そこからレイラと2回戦目に突入し、とても濃厚な時間を過ごした結果、どうやら僕たちは大きく寝過ごしてしまっていたようだ。


昨日に見せた寝顔をは打って変わり、今のレイラの寝顔は何の心配もしていないといった心に余裕のある天使の寝顔を僕に向けている。


そんな彼女の寝顔はいつにも増して愛おしく感じられ、ついつい彼女のほっぺたに優しく触れてしまった。


その瞬間、微かに瞼が動き、可愛らしく唸ってきたがそんなのお構いなしにと顔に掛かる彼女の前髪をかき分ける。


彼女の寝顔が目の前にある状態で目を覚ます、この幸せを噛みしめながらただじっと彼女の寝顔を見続ける。


一体どれほどの長い時間を見続けていたのかはわからないが少なくとも30分以上は見ていた気がする。

さすがに僕の視線に気づいたようで、ゆっくりとその瞼を開いて中から僕の愛するコバルトブルーの宝石が顔を覗かせた。


「おはよう、レイラ」

「んむぅ・・・?ああ・・・あなたぁ・・・!」


僕の姿を見たレイラはとても嬉しそうな表情を浮かべながら寝たまま抱き着いてきた。


「きちんとわたくしが起きるまで待っていてくださったのですわねぇ・・・!わたくし、とても嬉しいですわぁ・・・」

「なんだ、僕が置いていくと思ったのか?昨夜に君に引き留められ、共に行くと約束したじゃないか」

「だって・・・、わたくしや家族のためなら平気で自分を犠牲にするんですもの・・・。あの話し合いで1人で行かせることを阻止できたと思っていても・・・やはり不安は拭いきれませんでしたわ・・・。」

「あー・・・、その、なんだ・・・。なんか、ごめんな・・・」

「・・・あなたの気持ちはとても嬉しいですし、気持ちもわからなくもないですの。でももっとわたくしたち家族に歩み寄ってほしいものですわ・・・。」

「今度からはそうするよ・・・なるべくな?」

「むぅ~・・・!!」

「・・・ぷっ」


ほっぺを膨らませ、とても不満があることを見せつけるレイラがやっぱり可愛くて、愛おしくてつい吹き出してしまった。


突然笑い出した僕に、レイラは更にほっぺを大きく膨らませる。

でもその膨らんだほっぺを突いた瞬間、風船が割れたように彼女の口からほっぺに溜められていた空気が一気に漏れ出した。


その瞬間、僕とレイラは顔を見合わせるとお互い堪えきれずに笑いあった。

ひとしきり笑い合った後、僕たちはもう一度唇を重ね合い、愛を確かめ合った。


その後、僕は自分の服をサクッと着替え終えるとすぐにレイラの着替えを手伝う。


まず、何時ものようにハルネがレイラのために用意してくれている肌の塗り薬を取り出して、それを人差し指で掬った後に手の平に伸ばす様に擦り合わせ、その状態で彼女の薄くなった傷痕に沿って塗り薬を塗っていく。


もはやこれは日課となっている。

前はハルネが代わりにしてくれていたが、今は馬鹿貴族と一緒にヴァレンタイン公国に<転移>で送り込んだので僕が代わりにレイラのために身の回りの世話をしている。


薄くなったとはいえ、僕の瞳に映る彼女の傷痕はやっぱり痛々しく見えるし、こういう塗り薬を塗らないと安心できないぐらいには見ていてとても辛いものである。


だが傷痕が薄くなってからは塗り薬を塗る工程が少し変わり、前までは傷痕に触れた際の感覚は非常に薄く、鈍く感じるらしく、塗り薬を塗っていてもなんともなかったのだが・・・


「・・・あ、あなた・・・そ、その・・・くすぐったい、のですわ・・・!」

「あ、ああ・・・!ごめん!」


ごらんの通り、今のレイラは傷痕に触れても普通の感覚を取り戻したようで塗り薬を塗るたびに笑いをこらえているかのようで肩を震わせ、必死に体をよじらせまいと全力で我慢しているのだ。


正直言って、この塗り薬を塗る意味も必要もないと思い始めてきたが、レイラの体にとっては非常に大事なものであるためにやめるわけにはいかなかった。


「・・・そういえば、レイラに聞きたい事がある。」

「な、なんですの・・・?」

「僕には帝から<蜃気楼>という魔法をかけてもらったんだ。これから王都でやろうとしていることの影響を少しでも僕から逸らすためにってね。それにどうやらこの<蜃気楼>って魔法は常時発動しているようで、今も僕は別の姿に見えているはずなんだ。そんなことも忘れて昨日は一日中デートしていたわけなんだけど・・・」

「あら、そうでしたの?わたくしにはいつも通りのあなたにしか見えませんわよ?」


そう話しながら振り向いてきたレイラの表情には嘘をついているようには思えなかった。

微かに彼女の右目が光ったように感じたのは、きっと部屋に差し込んできた陽の光が反射したからなのだろう。


そういえばあの帝も言っていたな、この<蜃気楼>は焼け石に水のようなものだと。

つまり僕の事を強く思う者にとっては<蜃気楼>の効果は意味をなさない、ということなのだろうか?


うーむ、<蜃気楼>が一体どんな能力なのかいまいちわからんな。


「でもどうしてそんなことを聞いてきたんですの?」

「ああ、いや、元々僕1人で行動するつもりだったからさ。こうして君と2人で行くことになって、この<蜃気楼>が君に対して悪影響を及ぼす可能性があったから事前に知ってもらいたくてな。」

「そういうことでしたの・・・。うふふ、もしかしたらある意味ではあなたに掛けられた<蜃気楼>はわたくしにとって予行演習みたいなものになりそうですわね」

「予行演習?」

「来世であなたを見つけるための、ね?」


そう言いながら、とても妖艶な笑みを向けながら僕の唇に人差し指を当ててきた。

その瞳からは確かな覚悟と本気を感じられた。


「この調子だったら、来世でも問題なくあなたを見つけられそうですわ。」

「それじゃあここで君と1つ、賭けをしようか」

「賭けですの?」

「ああ。僕たちが共に生まれ変わったとき、来世ではどちらが先にお互いを見つけられるか。先に見つけた方が、相手になんでも言うことを聞く権利を持つとかどうかな?」

「うふふ・・・、その賭け、乗った!ですわ!」


そんな他愛もない談笑を交えながら、着々とレイラの裸体に薄っすらと刻まれた傷痕に塗り薬を塗っていく。


全ての傷痕を塗り終えた後、服と布の摩擦で傷つけられないように別の塗り薬を取り出して全身に優しく塗っていく。


これは先に塗った塗り薬の上からでも問題ないそうで、むしろ塗り薬が渇いてしまうことを防止し、肌の保湿を高めると共に塗り薬の効能を上げる効果を持つらしい。


これもレイラのためにヴァレンタイン公国が国を挙げて考案されたものらしい。


正直に言えば、僕の目には美容クリームと同等レベルの効能を持っており、今は塗り薬として運用されているがこれを美容目的に路線を変えたら間違いなく爆売れすることは間違いない。


この時代の女性たちの化粧はやはり格段と文明レベルも下がっており、水銀こそ使われてはいないものの血を抜いたり、植物性のおしろいや蜂蜜なんかを利用したモノが今でも使われているらしい。


この事を一度、グスタ・・・お義父様とシャイネ公爵夫人の2人を交えて相談してみてもいいかもしれない。


その後は肌に優しい布地で作られたハルネ特製の下着・・・いわばブラジャーを付けるのを手伝った後はパンツを両足に通してゆっくりと履かせる。


正直僕がするのは彼女の体に2種類の塗り薬を塗るだけで、下着類の着用はレイラが1人でやっていた。

だが彼女がこれまで来ていた下着を見て、少し着辛そうにしている様子から、前世での女性たちが愛用していた現代的な下着のデザインをハルネに提案した所、瞬時にマダム・マークリンと共同で開発が進められ、たった3日で完成形までこぎつけた。


それからはレイラだけじゃなくハルネも同じような別のデザインの下着をつけるようになり、またマダム・マークリンから許可を求められ、レイラの名義でならとその下着の販売を許可した所、貴族女性を中心に飛ぶように売れているという。


今は平民の人たちでも気軽に手を出せるような質素なデザインを考案中だとか。


まあそんなマークリンは今現在、ドワーフ国王と王女の2人と共同でレイラの着るフルアーマードレスの制作につきっきりなのでそちらの計画は中断しているそうだ。


レイラの体にも優しいデザインと利便性を兼ね備えた下着は、彼女自身もとても喜んでくれたのだが着慣れないこともあって度々こうして僕が彼女の下着を履かせている。


まあ今は正直、別の意味でレイラの下着を手伝わされているような気がしなくもないわけだが、これはこれで僕としても彼女の役に立てているならば断わるようなことはしなかった。


その後はこれまで着ていた和服・・・つまりは着物ではなく、いつものような洋風ドレスをいつも持ち歩いている小さなポーチバッグから取り出すと、それをレイラへ着させる。


洋風ドレスということもあって、内側にはスカートをふんわりと見せるための鳥かごのようなあの独特なデザインのパニエを装着させる。


このパニエに使われている素材も特殊な鉱石類のもので、一見ドレスをより美しく見せるための補助道具かと思いきや、外敵からの攻撃を防ぐための装甲としての役割も兼ね備えているらしい。


またそのパニエ自身も非常に重く、<怪力>の特性を持つレイラ以外には決して装着できないほどの重量を持っているとかなんとか。


パニエを着終え、その上から優雅な黒いドレスを被せる様に着させていき、装飾品の代わりにパニエと同じような素材で作られた装甲を適切な場所に装着していく。


ただし外部装甲はパニエと違って、そこまで重く作られてはいないようで僕でもなんとか持てるレベルの重さだった。


全ての装甲を洋風ドレスへ装着し終え、最後に愛刀の<黒妖刀【シラユリ】>を腰に差して準備完了となったところで、僕は目隠しを取り出して自分の目を布で覆うとそのまま頭の後ろで結ぼうとした時、レイラの手が当たる。


そのまま僕の手に握られていた目隠しを代わりに取ると僕の代わりにレイラが頭の後ろで優しく結んでくれた。


「あなた、いつも手伝ってくれてありがとうですわ。」

「いえいえ、今日も美しい君の姿を見れて嬉しいよ。」

「あら、目隠ししていてもわたくしの姿はわかるんですの?」

「もちろんだ。例え目が潰されて何も見えなくなったとしても、僕の瞳には君の姿だけが映し出されている。これまでも、そしてこれからもね・・・。それじゃあ行こうか、マイレディ?」

「うふふ、紳士的なエスコートを期待しますわよ?」

「任せてくれ。」


僕の手を取り、そのまま腕を組むと<転移>で<トワエ>から姿を消した。


僕たちが消えたことに一番早く気付いたのはベティーだったが、事情をすでに知っているかのように目を閉じる。


(お父様、そしてお母様・・・、どうか無事に帰ってきてくださいね。)

「べてぃーねぇね?どちたの?」

「・・・いいえ、なんでもないわ。それじゃあ今度は何して遊ぶ?」

「それじゃあね~・・・、そらおにごっこ~!」

「それじゃあ此方が鬼になりますわね~。さあ、数を数えますね~。10数えきるまで飛んで逃げるんですよ~?」

「きゃっきゃっ!」


何かを祈った後に何事もなく自分に甘えてくるディアネスと楽しそうに戯れ始めるのだった――――――



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