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この体ってもしかして・・・そっち方面にも強いのか?


その日、僕はレイラたちの所に戻るといつもの日常を過ごす。


レイラたちには密偵が出た件を伝え、僕たちが動くと狙われるかもしれないからその件が解決するまではここで暫く過ごそうという話となった。


その話をし終えた後、僕は久々にレイラと2人で<トワエ>の町をデートしていた。


ルーシィとジェシカ、そしてベティーの3人がディアネスの面倒を率先して見てくれると言ってくれ、フィリオラはハクアやバハムトイリアと共に過ごし、ミミアンは案の定ファティロメアとやるべきことがあるとして2人はどこかに出かけて行った。


これまで2人きりで過ごすことが少なかったこともあり、これまで空いた時間を埋める様に僕とレイラはいろんな場所を見回った。


久々に過ごすレイラとの時間はまるで夢のような甘い時間で、<トワエ>ではレイラの服を見たり、逆に僕の質素な服を仕立ててくれたり、甘いものを食べたり、綺麗な風景を眺めたり、時には迷子になった子共を助けたりしていた。


それからはあっという間に時間が過ぎていき、気が付けば陽は沈み、満天の星空が広がっていた。


綺麗な夜景を2人で肩を並べて眺めていた。

その後は家族たちが泊まっているところとは別の宿の部屋を借り、久々にレイラと体を重ねながら熱い一夜を過ごした。


久々に見た彼女の体にあったはずの傷痕は以前よりも遥かに見えにくくなっており、きちんと目を凝らすことで傷痕を確認ができるレベルで回復していた。


以前は自らの体に付いた傷痕に思う所もあった彼女にとっては、こうして見えなくなるほどまで回復してしまった事をどう思っているのか、今の僕には理解できなかった。


なんせ彼女の綺麗になった体を見る度に、彼女が死んだという事実が突き付けられたかのようで僕の心臓を深く抉ってきたからだ。


その度に僕は顔色を悪くしてしまったようでレイラが心配そうに声をかけて来てくれたが、その優しさが僕の心に追い打ちをかけるようで苦しくなる。


僕は思わず彼女の体を強く抱きしめ、その素肌から香る甘い匂いが鼻をくすぐり、彼女の肌から感じる体温と一緒に自分の心を静めさせる。


僕の心情を察したのか、レイラも何も言わずに僕の体を優しく抱きしめてくれ、頭を撫でてくれる。

そしてまた僕とレイラの愛情が確かめ合うかのようにお互いを求め合うその強い気持ちをそれぞれの体で鎮め合うこととした。


それから数時間の慰め合いを終え、誰もが寝静まった深い夜の時間帯に僕は自然と目を覚ます。

隣では疲れ果てたように可愛らしい寝息を立てて眠るレイラの寝顔が僕の瞳に映る。


レイラを起こさぬように彼女の髪にそっと触れ、その長い髪の束を掴むとそのまま口元に持ってきて優しく口付けをした。


それからは音を立てないようにゆっくりと体を起こし、静かに着替え終える。

僕の使用する武器<最愛の花(ブラックリリー)>が何十本も収納させたロングローブを羽織り、準備を終えた所でふと背後に気配を感じた。


「・・・行かれるんですのね。」


愛らしくも、どこか悲しみに満ちた声が僕の背中へ投げかけられた。

振り向くとそこには裸の上から白い布地を巻いただけのレイラが立っていた。


月明かりが差し込み、照らされるレイラの姿がまるで女神のように美しく見える。


「すまない、レイラ・・・。起こしてしまったか?」

「いいえ、最初から起きておりましたわ。だって、今日のあなたの様子に違和感を感じていたんですもの。きっと、わたくしたちのことを思って1人で解決しに行くのではないかと思い、こうして寝ずにあなたを待っていたのですわ」


いやあ、やっぱりレイラに隠し事はできないか。


「・・・そこまでソワソワしていたかな?」

「うふふ、ソワソワというよりかはいつにもまして落ち着いていた感じでしたわね。知っているかしら?あなたってわたくしたちが危険に晒されないように力を発揮する際、すごく落ち着いた様子を見せるんですのよ?だから逆にわかりやすすぎますわ。」

「逆に冷静になりすぎていたってことか・・・、全然わからなかったよ。」

「・・・ねえ、あなた?」


そう言いながら、レイラはゆっくりと僕の傍までやってきて僕の胸に自らの体を預け、僕の胸に顔を埋めてきた。


彼女の肩は微かに震え、必死に僕にしがみ付くようにロングローブを掴む。


「わたくしも、連れて行ってはくれないんですの?」


絞り出すような震える声で僕に懇願する。


「・・・僕としては君を、君たちを連れていくつもりはないよ。とても危険だし、何より僕がこれから行おうとしていることの影響を君たちにまで及ぼさせたくないんだ。」

「そんなの関係ありませんわ・・・!あなたが背負おうとしていることを、あなた1人で背負う必要はありませんの・・・!わたくしは誰にどう思われたって構いませんわ!例えそれが【魔王】の嫁だなんていう風評被害だって気にしません・・・!むしろ望むところですわ・・・!愛嫁として堂々と振舞いましょう!」


そう叫び、埋めていた顔を上げると僕の顔を見つめる。


そのコバルトブルーのような瞳から伝わってくる強い思い。

そして彼女の決意と覚悟がヒシヒシと伝わってくる。


それにしても―――【魔王】の嫁、か。


レイラは僕が何をしようとしているのかまではわかっていないが、それがもたらす今後の影響については大体察しがついているようだ。


確かに僕がやろうとしていることは、まさに話によく聞く【魔王】の所業そのものだ。

この世界にいる【魔王】が一体どんな存在なのかはわからないが、僕を第二の【魔王】と恐れる者、または畏怖し、消そうとする者など、簡単に想像がつく。


そうなると皆にも色々と支障が出てくるだろうし、下手すればヴァレンタイン公国にも迷惑をかけてしまうかもしれない。


最悪の場合は・・・


その言葉の続きを考えようとしたところで、それを拒絶するかのように僕の手を強く握ってきた。

自らの体を羽織っていた白い布地を支えていたものがなくなり、そのまま下にずり落ちてレイラの裸体が露わとなった。


「あなたを1人にはさせませんし、わたくしたちに迷惑だからと離れる事だけは絶対に許しませんわ・・・!絶対にこの手をこの先もずっと離すつもりはありませんの・・・!」

「・・・だが、」

「だがでも、でもでもありませんわ!いいかしら、わたくしは・・・いえ、わたくしたちは今後あなたが何をしようとも、それによって降りかかる困難は喜んであなたと一緒に立ち向かいますわ。わたくしたちは大事な家族であり、愛する家族。どんな困難がこようとも決して1人では立ち向かわせることはさせませんわ。どんなときでもわたくしたちが傍であなたを支えたいことを絶対に忘れないでくださいまし!いつだってわたくしたちはあなたと共に人生を歩む存在ですの・・・!この言葉はこれまでずっとあなたに言い続けてきた言葉であり、これからもずっと言い続ける言葉をどうか忘れないでほしいんですの・・・!」

「レイラ・・・」


レイラのその言葉は僕の心の中で深く差さった。

最後の辺りは彼女の渾身の叫びに近く、その瞳は涙で滲んでいた。


僕は堪らず彼女を抱き寄せ、そっと頭を撫でる。

それからしばらくはそのままの状態でレイラを慰めていた時、さすがに素っ裸のままでいた影響か、くちゅん!と可愛らしいくしゃみがレイラから聞こえてきた。


下にずり落ちた白い布地・・・恐らくシーツなのだろうか。

それを手に取り、彼女の体を包み込む。


「ほら、風邪を引いてしまうよ。服を着なさい。」

「嫌」

「どうして?君の大事な体にこれ以上何かあったら僕は悲しいよ・・・」

「だってわたくしが服を着替えている間にあなたは<転移>で行ってしまうのでしょう?」

「いや、行かないよ。」

「・・・うそですわ」

「本当だよ・・・。君の説得には負けた。今回限りは君を連れていく。」

「・・・本当に?」

「嘘はつかないよ。だから君の着替えも手伝うし、着替え終えたら君だけを連れていく。・・・本当は連れていきたくはない。何度も言うけど、危険だし・・・何よりその後に齎される僕たちへの悪影響が非常に厄介なことになるからだ。」

「・・・でも、あなた?別にその事が原因でわたくしを連れて行かない!ってわけではありませんわよね?」


・・・。


「はあ、君は本当に僕の心を見透かしているのかな。」

「わたくしはあなたの”良き妻”ですから、あなたのことを可能な限り理解したいんですの。どんなことでも、ね。」

「・・・子供っぽい理由だよ。今回、僕は本気を出すつもりだ。それが一体どこまでの影響を及ぼすのか僕自身もわからない・・・。それで・・・」

「わたくしがあなたのことを怖がる、とでも?」

「・・・。」

「・・・もう、本当に御馬鹿な旦那様なのですわね。」


クスッと笑い、レイラは優しい笑みを浮かべたまま僕の頬に手を添える。

頬から伝わってくるレイラの温かな手を感じていると、突然レイラが背伸びをするようにかかとを上げ、顔を近づけてくるとそのまま互いの唇が重なった。


いつものような深いキスをするのではなく、ただお互いの唇を重ね合うだけのもの。

だがその重ねるだけのキスはとても長く、しばらくの間はずっと互いの呼吸が顔にかかり合っていた。


一体どれほど彼女とキスをしていたのだろうか。

彼女の顔が離れ、ぬくもりを感じていた僕の唇は外気に触れて冷たくなったように感じた。


妖艶な笑みを浮かべるレイラに、思わず僕の胸の鼓動が早くなる。


「そんなことであなたから離れるつもりはありませんわ。例え死であなたと別つことがあったとしても、魂だけでもあなたの傍に居続けますわ。1人にはしません・・・。それほどまでに、わたくしはあなたに心から惚れてしまっているんですのよ?」

「レイラ・・・」

「あなたがわたくしと同じように魂だけの存在になるまであなたの傍にいますわ。そしてその時が来たら共に天へ上り、輪廻の輪に還りましょう・・・?そしてまた来世にあなたを必ず見つけ、同じように恋をして・・・結ばれたいですわ」

「・・・あはは、これは僕の愛する嫁の愛情は海よりも深く、重く、温かいものだな。まさかここまでだとは・・・」

「あら?あなたはわたくしと来世でも結ばれたくはないんですの・・・?」


少し悲しそうな表情を浮かべるレイラを見て、優しく微笑みながら彼女の腰に手を回してそのままグイッと引き寄せる。


「そんなはずはない・・・、君が心の底から嫌だというその時まで、僕は何度生まれ変わっても君の元を訪れ、恋に落ち、全力で守り、そして人生を共に歩んでいくつもりだ。」

「うふふ、これじゃあバカップルだなんて周りに揶揄われても仕方ありませんわね?」

「全くだ・・・。こんな年甲斐もなく恋に溺れるなんて思わなかったよ。こうなってしまった責任はもちろん取ってくれるんだよね?」


僕の言葉に、レイラはまた唇を重ねてくる。

今度は先ほどよりも短く、すぐにそっと離れる彼女の表情は真っ赤に染まっていた。


「これが返事ですわ・・・。くしゅんっ」

「おっと、それじゃあまずは服に着替えようか。」

「あら、わたくしはこのままもう一度愛を確かめ合ってもよろしいのですけれど?それとも淫乱なわたくしはお嫌い・・・?」

「・・・本当に君って子は、どうしてそう男が喜ぶ言葉をぶつけてくるかな。」

「あら、わたくしがこの言葉を囁く相手は男ではなく、あなただけ・・・ですわよ?」

「これはこれで心配になってきたよ・・・、全く。」


そういって僕は彼女の腰に手を伸ばしてそのまま抱え上げる。

小さく悲鳴を上げた彼女に思わず笑い、そのまま敷かれた布団のある寝室へ連れ込んだ。


出発時間はもう少し後にしてもいいだろう、そう思っているのはどうやら僕だけじゃないようでよかった・・・――――――。



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