この村に長居したせいで、ドラゴン成分が足りない。
この村での何度目かの朝を迎え、畑が広がっていない北側の入口にヨスミは立っていた。
腕で目元を覆うように、細目で差し込む朝日を見ていた。
晴れていてくれてよかった。
こういう旅立ちの天気は快晴の空が一番似合っているものだ。
この村に長居したせいで、ドラゴン成分が足りない。
フィリオラとハクアでしか摂取出来ていない・・・。
この世界に転移して2週間ほどぐらいか?
そんな短い時間で、こんなにも色んな事が起きたんだ。
これからどんな出会いが待っているか、楽しみで仕方がない。
「あなた様~!」
声の方を見ると、レイラがハルネを連れてやってきた。
今まで見てきたドレスのような洋服とは打って変わり、さすがに旅路ではそんな服は自重したのか、落ち着いた洋服を着こなしていた。
「おはよう、レイラ。君たちが一番早く着いたね。」
「早くあなた様に会いたかったですから・・・!」
「そうか、ありがとう。僕もこうして早いうちからレイラと会えて嬉しいよ。」
「え、えへへへへ・・・!」
「ハルネもおはよう、背負っているそのリュックサックは大丈夫?重くないかい?」
ハルネは茶色の大きめな膨らんだリュックサックを背負っていた。
「はい。これは特殊な背負い袋で御座いまして、大きさ問わず馬車5台分の容量があります。また軽量化と時間停止の魔力回路が組み込まれていますので、どんなに荷物を入れても重くはならず、また入れた物は時間が止まるから、食糧は腐ることはありません。」
「このバッグはヴァレンタイン公爵家の宝物庫に保管されている国宝級の魔道具ですわ。この旅には必要だろうとお父様からいただいたのです。」
インベントリやら収納魔術やらそういったスキル持ちは希少性が高いし、そういったものは大抵主人公キャラのみの特権ってイメージが強いけど。
「そんな便利なものがあるんだね・・・。他にもそういった魔道具ってあるのかな?」
「少なからずあります。基本的には小さなバッグ型で、入る容量もそこまで多くはありません。せいぜい木箱1つあるかないかぐらいですね。組み込まれている魔力回路も軽量化の劣化版です。時間停止が組み込まれている物はまずありません。」
「なるほど。だから国宝級ってわけか。」
同じマジックバッグでも、少なからず出ている物はあるんだね。
まあ少なからずってことは、あったとしてもそれなりに高価なものってことか。
「・・・確か馬車5台分の容量にしてはパンパンに膨らんでいるけど。」
「容量限界ギリギリまで荷物を積み込みましたから。」
どんだけ詰め込んでるんだよ・・・。
その量を背負えるほどとは、どんだけ軽いのやら。
こういう時にインベントリなるスキルがないことに少しばかりの不便さがあるな。
・・・いや、もしかしたら。
今度、時間のある時に検証してみるか。
「ヨスミ~、来たわよ~!」
『オジナー!』
フィリオラがハクアと、そしてアリスとシロルティアが共にやってきた。
アリスとシロルティアがヨスミの近くまで来ると、
『お前が、ヨスミか。私はシロルティア。友であるフィーちゃんから色々と聞いている。とても面白い男だとな。その節は助かった、感謝する。』
「(フィーちゃんってマジで言ってる・・・。)初めまして、ヨスミです。僕もあなたのことをフィリオラから少しばかり。助けられてよかった。」
見た目が禍々しく見えることもあるが、やはりこうして話していてとても威圧感がすごい。
軽く話しているだけで気圧されそうな感じがする。
これが、かつてこの土地を守り、大陸を襲った大飢饉から救った大聖霊獣。
『これからについてもすでに話は受けている。面白い計画を立てているのだな・・・。その旅路に暫く世話になる。よろしく頼む。』
「・・・ああ、これからよろしく頼みます。アリスも、よろしくな。」
「・・・よろし、く・・。」
2人と無事挨拶を交わしたし、これで進むことができる。
「それじゃあ、行こうか。まずはこの国の首都であるカーインデルトを目指していくぞ。」
その一言に、全員は返事を返し、朝日へ向けて出発した。
ステウランの村を出発して数刻が経った頃、今夜休める場所を探すため、また水源を見つけるためにこの周囲の上空に無造作に転移窓を開き、辺りを探っていた時、
「あ、あなた様・・・!?」
「・・・ん?」
レイラが何かに気付いた様子で慌ててヨスミに駆け寄ってきた。
ハルネがそっとハンカチを持たせ、レイラはヨスミの鼻辺りを抑える。
「鼻血が出ていますわ!無理しすぎですわ・・・」
頭痛はしてないし、血涙の方は流していないから無理はしていないと思うが・・・。
「・・・わかった。ごめんね、心配かけた。」
「いいえ・・・、今度からはわたくしたちをもっと頼ってくださいまし・・・」
今にも泣きそうな表情を浮かべるレイラを安心させようと頭を撫でてそっと抱きしめる。
「ハルネ、今すぐにフィリオラ様を呼んできてくださいまし。」
「かしこまりました。」
ハルネはレイラの命を受け、フィリオラの元へ向かっていく。
ヨスミは展開していた無数の転移窓を閉じ、ふぅー・・・っと一呼吸ついた。
もののすぐにハルネとフィリオラがやってくると、すぐにヨスミの傍により、治癒魔法を掛け始めた。
「また無理をしたのね、ヨスミ。こういうときぐらい周りを頼った方がいいわ。じっとしてて・・・」
「すまないな。どうやら癖になっているようだ。」
「あなた様?そんな癖はさっさと直してくださいな・・・。」
「善処するよ。それじゃあ一ついいかな。あっちの方へ開いた転移窓の方から微かに水の音が聞こえたんだ。もしかしたらそこに水源があるかもしれないから、僕の代わりに調査をお願いできる?」
「任せてくださいまし! ハルネ、いきますわよ!」
「かしこまりました、お嬢様。」
そういって、レイラとハルネは武器を携え、水源を探しに森の奥へと姿を消した。
「アリスちゃんも御願いできる?」
「まか、せて・・・。」
『この場は頼んだぞ、フィーちゃん。』
そういってシロルティアの背にアリスを乗せ、レイラたちの後を追っていった。
『オジナー、大丈夫なのー?』
「ああ、大丈夫だよ。ただの鼻血だから。」
『無理はするなー、なの!』
「もうかわいいなあハクアたん!よしよし!」
「ったくもう、じっとしててって言ったでしょうに。ほら、動かない。」
その時、ふと気になったことを聞いてみる。
「そういえば、フィリオラがかけてくれる治癒魔法について聞きたいんだけど。この世界には治癒魔法じゃなくて、回復魔法ってのはあるのか?」
「あるわよ。治癒と回復の明確な違いは作用する効果の違いって所かしらね。治癒魔法は怪我を負った際に負う傷の回復を助け、回復魔法は負った傷を元通りにするわ。」
「・・・治癒はリジェネ、回復はヒールって認識でいいのか?それらが及ぼす影響、つまりメリットとデメリットってのはあるか?」
「そうね・・・。今度からそう名称しましょうか。治癒はさっきも言ったけど、傷を回復する働きを助ける。つまり、元々持っている自己治癒力を高める効果。故に痛みもないし、身体への負担はほとんどないわね。デメリットとしては単純に回復効果が遅い事だけよ。そして回復は負った傷を元通りする効果。一瞬で回復できるし、何よりすぐさま戦線復帰できるメリットがあるわ。でも、負った傷を無理やりに元に戻すのだから、激痛が走るし、何より、<超過回復>と呼ばれる現象を引き起こす危険性があるの。」
「超過回復・・・。それが一番のデメリットってことか。」
「そうよ。回復のし過ぎによって、身体は活性化し続け、次第に崩壊し、膨張し続け、そしていずれ破裂するわ。腕や足だけならば切り落とすことで何とか一命は取り止められるけど、胴体、首、頭で起きたらもう助からないわね。治癒にはその回復の遅さもあって、回復のし過ぎかどうかすぐに見極められるから超過回復を未然に防げるけど、回復はそんなものないわ。しかも回復しても激痛が走るから、それをまだ治ってないと勘違いして何度も掛けてしまって超過回復を引き起こす冒険者は後を絶たないの。」
なんとも恐ろしい話だな。
回復を掛けてもらえても、逆にそれが理由で死ぬかもしれないなんて。
「なるほどな。だからこれまでずっと回復魔法じゃなく、治癒魔法を掛けてくれていたって事か。」
「そういうこと。まあ、私ぐらいになれば回復魔法の見極めも出来るから、別にそっちでの治療も出来るけど、今あなたが異常をきたしているのは頭だからね。とりあえず、横になってなさいな。」
どこからか焚き木を持ってきて、篝火へと頬り込み、火を放つハクアを横目で見ながら身体を横にした。
身体を横に死、レイラたちの帰りが遅いと感じ始めた頃、レイラたちが無事に帰ってきた。
だがレイラたちの他に見知らぬ小さな男女の子供たちも一緒に。