僕の願いは、ただ一つだけ
全てが真白に染まり、そこで僕の人生は幕を閉じ、そして僕を待っているであろう優里の元へ旅立っている・・・はずだった。
だが、目の前に居るのは全身から真っ白な光を放つ、長髭を生やした貫禄のある老人だった。
―――起きたか、人の子よ。
口元は一切動いているようには思えなかった。
だが、脳裏に響いてくるように聞こえてきた老人の声。
重く、低く、だが優しく語り掛けてくれるその声は、聴いていて嫌ではない。
それらを踏まえて、まず真っ先に自分から出てきた言葉が
「・・・誰だ、こいつ」
―――こいつ呼ばわり・・・。ゴホンッ
自らの威勢を直すため、杖を地面へ突き、音を響かせる。
―――これでもワシはお主ら人の子の言う、神という存在なのじゃがのう・・・。コホンッ
わざとらしい咳をし、ため息を付いた後に杖の先をそっと地面へと向けた。
向けられた地面が光り、ゆっくりと何かが表示された。
「これは・・・?」
―――お前が成した業を、今ここに出しておる。
「何のため・・・、いや、神と言ったか?つまりこれは、僕の人生を見定めているということか?」
白き老人は静かに頷き、次々に書かれ続けていく自らの業。
流れてくる業の全てが真っ赤な字で書かれていた。
その理由は、真っ赤な字で染まった自らの犯した罪とも思える業の内容ですぐに察せられた。
龍誕計画を進めていくうちに、その過程で行った非人道的な実験の数々や悍ましい実験。
そりゃあそうだ。
自らの夢という名の野望のために、妻を失ってからはより拍車をかけて悍ましさを増していった。
―――なんとも酷いもんじゃのう、人の子よ。
「そうだね・・・。でも、僕の生涯に一片の後悔はないよ。」
―――ふぉっふぉっふぉっ・・・、そうか。じゃが、その割には浮かぬ顔をしておるわい。
・・・たった一つの憂いがあるとすれば、僕がいなくなった後の我が子らの未来だ。
あの時作動させたボタンは、僕がアナスタシアが生まれた時と同時に始めたもう一つの計画。
~ ”龍の巣”計画。 ~
我が子らが安心して暮らすことができる場所を作り出すために。
居住にしている孤島を絶対的なモノとするための防衛機構の構築。
最期の最期まで完成できず、自分としては満足のいくものの出来ではなかった。
が、それでも機能としては十分であること、機能も問題なく動いていたことから数十年は問題ないはずだ・・・と。
そしてそれほどの時間を稼げればより強靭に、より強力な力を持って成長した我が子らの前にいかなる兵器も通用しなくなるだろう。
後はあの子等も自由に生きて行けるはずだ。
何にも縛られずに、何にも怯えることなく、広大な空を優雅に羽ばたく・・・。
―――そうじゃな。あの子らは誰一人として死んではおらぬよ。
「・・・!!それは、本当・・・ですか・・・!?」
―――ああ。だから安心するのじゃな。
ああ・・・、これで思い残すことはないだろう。
自称神という老人、そして今いるこの空間。
明らかにこれは異常であり、普通ではないことだけはわかる。
自ら生前に犯した業を見定め、天国か地獄か判定し、この魂を見極める。
そしてこの真っ赤に染まった僕の業の一覧。
これは火を見るよりも明らかだ。
妻を失い、その残虐性を増した研究を行い続けたことも自覚している。
ああ、優里。
君の元に行くとあの時約束したが、その約束は果たせそうにはない。
でも、よかった。
君と共に研究している内容は非人道的なモノばかりだからこそ、君は地獄に落ちてはいないだろう。
―――これで全部かの。ではこれを元に人の子の裁定を始めるとしよう。
「いや、始めるまでもなく。明らかに地獄行きだと思うんだけど・・・?」
―――ふむ? 地獄、か。別にそんな場所なぞないんじゃがのう。
「え、ない・・・? じゃあ、死を迎えた魂は一体・・・」
―――まあそこは企業秘密、という奴じゃ。さて、と。
目の前にずらりと並んだ赤い文字に染まった数々の業。
画面いっぱいに染まった赤色だからこそ、最後に書かれたたった一文だけ水色の文字が目立っていた。
そこに書かれていた業・・・、
~ 龍誕計画の成功 ~
僕が、僕たちが己の全てを掛けて完成させた業・・・いや、偉業であると確信している。
これだけは誰にも異論を唱えさせるものか。それをずっと僕は思っていた。
そしてこの場で、この状況で、僕たちの偉業は、自称・・・いや、この神にさえも認めてくれたのだ。
「・・・うう、・・うぅっ・・・! くうっ・・・。」
どれほど嬉しかったか、どれほど歓喜に震えたか。
この喜びを、優里と共に分かち合えないことだけが、また増えた僕の心残り・・・。
―――正直、ワシも驚いたわい。まさか、あのドラゴンを生み出したなんてのう。
「優里がいなければ、この研究は決して完成できなかっただろう・・・。」
―――お主らのどちらかが欠けても決して無理だったじゃろうよ。いや、それであってもドラゴンを世に生み出すことができる確率は・・・そうじゃな、0.000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000・・・
「ああああ!わかった!わかったから!もう言わなくていい!それほどありえない確率、奇跡以上の奇跡の確立だってことだろう?!」
―――そうじゃ。どんなにやったとしても、ありえない話じゃったんじゃよ。また長い年月をかけて、世代を交代し続け、幾百年と年月を費やしたとしてもそれでも0.000000000000000000000000000000000000・・・
「あああああ、わかった!それ以上はもういい!」
―――うむ。じゃが、お主らは1世代で、しかも40年という短い歳月で事を成したのだ。これがどういうことかわかるか?エジソンやゴッホ、ダヴィンチなどのお主ら人の子らの歴代の偉人たちが遺した偉業は素晴らしいモノだ。だが、それ以上の偉業を、お主らは成し遂げたのだ。故に、今までお前がしてきた悪逆非道な業がどれほどあっても、遥かに霞むほどだ。
「・・・そんなんでいいのか?これでも普通に地獄じゃ生温いほどの罪を課されても仕方がないだろうと自覚しているつもりだったんだけど・・・」
―――言うたじゃろう?それらさえも霞むほどの偉業を、お主は成し遂げたのだと。故に、お主に願いを一つ叶えてやろう。
・・・ん?
なんかこういった展開を僕は知っているような気がするような・・・、あ!
(優里が読んでいた小説のよくある展開っぽいな。確かトラックか何かしらで死んで、神と出会い、チート?みたいな特別な能力を貰い、異世界に転生するというテンプレものだったか。ならば、僕の願いはたった一つ・・・!)
―――ふむ、決まったようじゃの。さあ、述べてみよ。
「なら、僕の願いはたった一つ。唯一無二の願いを。どうか、ドラゴンが住まう異世界へと生まれ変わらせてくれ!!」
名前:竜永 夜澄
年齢:82歳
性別:男性
誕生日:12月24日
その生涯をドラゴンに費やした男。
妻の優里と出会い、共にドラゴンを生み出す龍誕計画という研究を進め、計50年もの歳月を費やして研究を完成させたマッドサイエンティスト。
白き竜を生み出し、そこから更に黒き竜、赤き竜に青き竜の3体を続けて生み出し、家族として育てていた。
だが、世界中がドラゴンという存在を欲し、軍を進めてドラゴンたちを捕獲しようとするも、夜澄の最期の抵抗により、それを妨害することに成功し、人生に幕を閉じた。