この旅に込めるそれぞれの思い
ハルネの案内の元、村の端に建てられているレイラの屋敷ほどではないが、そこそこ立派な建物だった。
建物内に入り、使用人に通され、部屋へ入るとソファーで寛ぐフィリオラとその傍で眠る黒虎、その上で寝転がるアリスの姿があった。
「あら?ヨスミ、来てくれたのね。その隣には・・・レイラちゃんね。」
「ご機嫌麗しゅう、竜母様。」
華麗なカーテシ―を決め、頭を下げて挨拶を交わす。
・・・?
レイラが頭を下げて挨拶するなんて初めてだな・・・。
いつもは相手の目を見てまっすぐに挨拶しているから、それほどフィリオラは高貴な存在ってことか?
「やあ、フィリオラ。アリスさんと黒虎、さん?」
「こん、にち・・わ。」
「今、しろちゃんは眠っているわ。起きた時にまた紹介するけど、この子はしろちゃん・・・。正式名は、大聖樹王虎のシロルティア。かつて世界が滅亡を迎え、荒れ果てた大地を再生した、一本の大聖樹。その大聖樹の頂きにある葉から零れ落ちた、一滴の雫より生まれたとされている大聖霊獣よ。」
「話を聞いている限りだとかなりの大物なんだな・・・。」
大聖樹に、しかも生まれ方が特殊すぎる。
そして、この大陸全域で起きた大飢饉をその身に一手に引き受けるほどの存在・・・。確かにそれほどの存在ならば、そんな大技もできるわけだ。
「でも今は魂も穢れ、魔物へと堕落し、ありとあらゆる災害を司る災禍神の化身の一つ、飢鬼虎へと変わってしまったわ・・・。」
苦しそうな表情を浮かべ、黒虎の頭を撫でる。
「以前は真っ白な毛並みに黒い縞模様が美しい大聖霊獣だったのだけれど、真っ黒な毛並みに禍々しい赤い縞模様の姿へと変わってしまった・・・。とても悲しいけど、以前と同じようにこうしてまた会話ができる日がきてくれたことだけでも、十分嬉しいわ。それで、ここにはどうしたの?」
「ああ、今後の旅路についての話だな。ちょうどここにいる全員がこれからの旅をする仲間だからね。」
「なるほどね。それじゃあ改めてそれぞれ自己紹介でもしましょ。使用武器、冒険者ランクとかもね。」
「じゃあまずは僕からだね。僕はヨスミでこの旅を始めた存在だ。使用武器は”最愛の花”。冒険者ランクはFランクになったばかりの新人冒険者だ。よろしくね。」
ローブの裏側にある何十本ものミスリルネイルを見せながら皆に挨拶する。
「それじゃあ次は私ね。私は竜母って呼ばれてるわ。フィーちゃんって呼んでね。」
フィーちゃん・・・
「使用武器は・・・まあこの身体ね。魔法なら全般使えるわ。冒険者には登録してないから、Gランクってことになるのかしらね?」
「竜母様のようなお方がGランクなんて詐欺にも程がありますわ・・・。」
『わたしはハクア―!よろしくなのー!』
ヨスミの背中から無邪気に挨拶をするハクア。
「か、かわいい・・・!こほんっ。それじゃあわたくしの番ね。レイラ・フォン・ヴァレンタイン。ヴァレンタイン公爵家の令嬢で、その・・・ヨスミ様の、かか、彼女・・・ですわ・・・。」
顔を赤らめながら紹介するレイラに、どこか愛おしさを感じる。
なんか聞いているこっちもなかなか恥ずかしくなってくるね・・・。
でも、悪い気はしないな。
「・・・ふう。わたくしが使っている武器は長剣だけど、近いうちに鍛冶屋にいってわたくしに合う武器をヨスミ様に見繕ってもらう予定ですわ。冒険者ランクはB、魔法も全属性扱えて、闇属性ならよりもっと精密に扱えるわ。よろしくお願いするわね。」
「私はハルネと申します。ヴァレンタイン公爵家に代々仕えし家系で、私はレイラお嬢様の専属メイドで御座います。使用武器はこの”鎖斧”でございます。冒険者ランクはお嬢様と同じB、魔法は闇と風が少しばかり扱えます。どうぞ宜しくお願い致します。」
「わた、しは・・・、アリス・・・。かつて、この村、に、住んでた・・・、ステウラン村の、住民・・・で、大聖霊獣の、娘・・・。武器は、この、黒霧・・・。わたしの、意志で、色んな・・・形に、なれる・・・。冒険者ランク、は・・・ないから、Gランク・・・。よろしく。」
とりあえず一通りは自己紹介は終わったかな。
後はハクアとシロルティアだけだが、2人とも眠っているから後日にまた、かな・・・?
「改めてこの旅の目的を話すと、僕は全てのドラゴンに出会い、友達に、家族になるためにこの世界中を旅をすると決めている。それはカラミアートだけに留まらず、このリグラシア全てを制覇する予定だ。その過酷さを、僕よりも君たちが一番知っていると思う。だからここで再度問うよ。この旅に怖気つい・・・」
「私は行くわよ。ハクアも一緒にね。」
『あいー!』
ヨスミが最後まで言い切る前に、言葉を遮るようにフィリオラは即答する。
その言葉を聞いたレイラたちもフィリオラの後に続く。
「もちろん、わたくしも行きますわ!己の研鑽を積むためにも、そしてあなた様を独りにはさせません!」
「お嬢様が行くのであれば、当然私もついていきます。お嬢様の専属メイドであり、大事な冒険者仲間なのですから。」
「・・・わたし、はこの村に、迷惑・・・かけちゃった・・・。ママも、わたし、も・・・魔物に、変わっちゃった・・・。この村に、いられない。だから、ママといっしょ、に・・・静かに、過ごせる・・場所、探すために・・・ヨスミに、ついていく・・・。」
・・・聞くまでもなかったかな。
それぞれの持つ目的は違うけど、旅をする理由としてはそんなものでいい。
難しく考える必要なんてない。何事もそうだ。
始めるきっかけはどんな些細なことでもいいんだと。
だって、僕はドラゴンが好きだからという理由で、この世にドラゴンを生み出せたんだから。
「・・・わかった。これからきっと長い旅になると思う。みんな、これからよろしく。」
皆に笑顔を向け、頭を下げる。
「旅の出発は2日後の明朝の予定だ。それまでは各自、好きなように過ごしていてくれ。シロルティアには起きてから対話が可能な状況ならその時にまた。」
そう言って、その場は解散となった。
僕とレイラ、ハルネは鍛冶屋にやってきていた。
そう、レイラに合う武器を見繕うためだ。
レイラの戦闘スタイルは強力な一撃と素早さに特化したもの。
早さを乗せた攻撃に長剣の持つ重い一撃は相乗効果で岩を簡単に粉砕できるほどの一撃をいとも簡単に繰り出すことができるが、その早さが刀身の長い”長剣”のせいで小回りが利かず、また武器の重さのせいで振り回され、命中精度が著しく低い。
自慢の速さを活かしきれず、だからといって軽い小剣を使うと今度は威力が落ちてしまい、また刀身が速さによる加重に耐え切れず割れてしまうこともしばしばあった。
故に、レイラの持つ速さを活かせる武器はなんなのかと思考を巡らせていた。
ただ、前世でたくさんの小説、ゲームをしてきた展開でこれだっと思う武器があってそれを鍛冶屋のダンに任せて作ってもらうことになった。
また明日取りに来てほしいということで、その日はそのまま早めの夕食を取り、解散した。
次の日、支度を終えてレイラの元へ訪ね、馬車に乗って鍛冶屋へと向かう。
着いた先で、ダンは店の外で僕たちを待っていた。
「よう、ヨスミ。依頼された武器は出来とるぞ。あんな素材どこで手に入れたのかは知らんが、ワシにとって渾身の逸品を生み出せたと思う。さあ、こっちだ。」
「あなた様・・・」
とても不安そうにヨスミの方を見る。
そんなレイラの頭を撫でた後、そっと肩に手を置いて共に店の中へと入っていった。
部屋に入ると、其処には真っ黒な刀が収められていた。
全ての光を吸い込まんとする漆黒の刀身には白い蕾のような花が幾つか装飾されており、今まで見てきた武器のどれよりも細く、少しばかり湾曲している。
「黒鉱石とミスリル鉱石の2つを8:2の割合で合わせては叩き、ひたすら不純物を取り除き続けた。また要望通り、刀身の薄さ、軽さ、堅さ、そして鋭い切れ味・・・それら全てを兼ね備えておる。この薄さであれば、この武器を振る際の風の抵抗を極限まで抑え、嬢ちゃんがどんなに早く動いてもそれを邪魔しない軽さに斬りつけた時に簡単に壊れぬ堅さ、そしてその速度を保ったまま斬りつけた際の手応えを感じぬほどまでに磨き上げられた切れ味・・・。ほれ。」
その刀身の上に一枚の布を落とすと、引っかかることなく2枚の布となって床に落ちた。
その刀を新調に手に取り、レイラへと丁寧に差し出した。
「魔力を込めてみてくれ。」
その言葉を受け、レイラは静かに頷いた後、震える手でその刀を受け取る。
しっかりとその刀を握り、構えると自らの魔力を刀へと流し込む。
白い蕾が魔力の光を帯び、まるで花が咲いたかのように咲き誇り、花びらが舞っているかのように刀身全体に花びらの模様が浮き出した。
あまりにも美しい光景に、レイラは息を飲む。
「さあ、受け取ってくれ。ワシの生涯を掛けた逸品を。そして名を付けてやってくれ。」
ダンの言葉を聞いて、ヨスミの方を向くと、
「あ、あなた様・・・わたくしはどうかあなた様に、この子を名付けてもらいたいです。」
「レイラの武器なんだ。レイラが名を付けてあげた方がいいんじゃないか?」
「それでも・・・、わたくしはあなた様に名付けてもらいたいのです!」
「・・・わかった。」
静かに考え、ふと脳裏に浮かんだ言葉が口に出た。
「”シラユリ”・・・。そう、その刀は、黒刀”シラユリ”でどうかな。」
「黒刀、シラユリ・・・綺麗な名前ですわ。シラユリ、シラユリ・・・!あなた様、ありがとうございます!」
僕の持つ武器、”最愛の花”と対を成すような名を付けてしまったけど、こんなにも喜んでくれているのなら、僕としても満足だ。